シンポジウム「The Philosophy and Design of MUJI」がトロント大学で開催

金井政明・良品計画代表取締役会長 兼 執行役員が登壇

左から秋田徹氏(MUJIアメリカ・カナダ社長)、アダム・ワックスマン氏、クリスティーン・ナカムラ氏、伊藤恭子総領事、金井政明会長、キャロル・フィリップス氏、イーサン・ソン氏


 11月24日、トロント大学のConvocation HallでMUJIカナダ主催のシンポジウム『The Philosophy and Design of MUJI』が開催された。アジア外で世界最大規模を誇るカナダ旗艦店、MUJIアトリウムの11月オープンを記念した講演会では、東カナダでの講演は初となる良品計画代表取締役会長兼執行役員の金井政明氏が登壇した。パネルディスカッションはAsia Pacific Foundation of Canadaのクリスティーン・ナカムラ氏がモデレーターを務め、金井会長とともにMoriyama & Teshima Architectsのパートナーであるキャロル・フィリップス氏とFRANK & OAK・CEOのイーサン・ソン氏が議論を交わした。

日本の消費社会のアンチテーゼとして誕生

 冒頭「DINE MAGAZINE」のアダム・ワックスマン氏挨拶に始まり、金井政明氏が登壇し、無印良品の誕生にまつわるエピソードを語った。ミニマリストな美的価値から〝日本風〟とも呼ばれる無印良品だが、背景には1980年に日本の消費社会のアンチテーゼとして誕生したという逸話がある。同社は当時、世界中の企業がものを売るために〝足し算〟をしていた頃、グラフィックデザイナーの田中一光氏と共にむしろ余分を省くことで美を追求してきた。

無印良品が生まれた年に発売された「こうしん われ椎茸」

 高品質の「割れ椎茸」など、近代小売業が見捨てたものの商品化を行ってきたことからも思想の片鱗が垣間見られる。「簡素なデザインに秘めた考え方を誇りに思えるような価値観が無印良品にはあり、それを世界に広めたい」と金井氏は言及した。

「成田国際空港第3旅客ターミナルビル」が、2015年度グッドデザイン金賞を受賞

人類の自己家畜化への懸念


 金井氏は、同社の大戦略を「役に立つ」として「何に留意しているのか」が軸にあると述べ、取り組む課題として地球の環境の修復、多様な文明・文化の再認識、過度な快適さ・便利さの見直し、伝統的なものの修復、分断される人々の接続、そして水不足や地球温暖化などの社会問題を挙げた。

 そして、伝統的な日本人の生活美学の一端として、写真家・濱谷浩の藁の靴を履いた子供達や、お互いに助け合いながら農作に励む家族の写真を紹介し、撮影当時の60年前と比較して日本のGDPは8兆円から490兆円と約60倍になったにも関わらず、現代人は「自己家畜化現象」に陥っていると述べた。

 「自己家畜化」とは、飼いならされた家畜が野生で生きていけないことと同様に現代人が現在の社会システムに有益な能力のみを伸ばし、他の能力が退化している状態を指す。金井氏は過度な快適さを求める「これがいい」生活様式ではなく、「これでいい」価値観を真髄に、簡素で丁寧に美しく、お互いを助け合う〝感じ良い暮らし〟を世界の多くの人々に提案したいと述べた。

本業を通じた社会貢献への挑戦

 40アイテムの食品や家庭用品を売ることから始まった無印良品だが、現在は28カ国に900店舗を持ち、順調な成長を見せながら更に大きな規模で活動している。今年4月には、去年1月と3月に開業した中国・深圳と北京のホテル「MUJI HOTEL」に続く3ヶ所目のホテル「MUJI HOTEL GINZA」が銀座で開業する。「MUJI HOTEL GINZA」は、無印良品ショップとレストランを建物内に備えた、高価格帯と低価格帯の間にある「ちょうどいい」ホテルだそうだ。

無印良品 銀座/MUJI HOTEL GINZA外観イメージ©竹中工務店

フィンランドにおいて2020年の実用化を目指す自動運転バス「Gacha(ガチャ)シャトルバス」

 去年11月、フィンランドの企業Sensible 4が開発する、あらゆる気象条件下で機能する世界初の自動運転バス「Gacha」のデザインの提供を発表した良品計画は、空港、老人ホーム、公園、キャンプ場や住宅など公共施設のデザインも手掛けている。

 国産の杉材を多く使った同社のオフィスの〝完成させない〟ことにより社員の改善力を引き出すというコンセプトからも、思想が垣間見られる。入り口からゲートまでの1.5キロという距離を、運動不足な現代人の〝運動場〟と捉え直した成田空港の第3ターミナルのデザインは、良品計画らしい。

成田国際空港第3旅客ターミナルビル

テーマは「完成させないオフィス」

 人口減少や高齢化、耕作放棄地の拡大などの課題にも取り組んでいる良品計画は、2018年4月に鴨川市総合交流ターミナル「里のMUJI みんなみの里」を改装し、地元住民と訪問者の交流を生み出し、経営の黒字化を行なった。

 広範囲でエシカルな課題に取り組んでいる同社だが、金井氏は中国のライドシェア競争の結果、僅か2社が残った事例を引き合いに、デジタル時代を迎える中、資本の論理だけではなく、市民も共に良い社会を作る時代であると述べ、良品計画の目的は〝相対的な幸せを超えた〟幸せを届けることにあると言及した。

本文=菅原万有
企画・編集=TORJA編集部

「里のMUJI みんなみの里」の新たな機能として、未利用・低利用の農産資源を活用し、地域農産物の価値を上げることを目的とした施設

第二部パネルディスカッション


 パネルディスカッションは冒頭のクリスティーン・ナカムラ氏の挨拶に始まり、ジョージ・ブラウン大学の‘The Arbour’ Tall Wood Buildingのデザインを手掛けたフィリップス氏が登壇。去年、設立60周年を迎えた持続可能な建築とデザインを手掛けるMoriyama & Teshima Architectsのパートナーでもあるフィリップス氏は、同社の思想が無印良品の哲学と共鳴していると言及。


 続いて登壇した、ファッションブランドFRANK & OAKのCEOソン氏は中国出身でエンジニアのバックグラウンドを持つ実業家であり、持続可能に留意した取り組みを行なっている。

 カナダ人と日本人の消費者の相違点に関して問われた金井氏は、「お客様として見た時に大きな違いを感じないが、社会として見た時にカナダは多様性が重んじられ、様々な民族、宗教、国籍の人々が暮らしやすい社会があり感銘を受ける」と述べた。そしてトロントは森林率が7割を占める日本と同じく、郊外へ一歩出ると自然が豊かな点が共通していると説明。今後の目標として、世界共通の無印良品というブランドを確立し、将来的に日本国外でも現地の無印良品メンバーが地域の人々と接することで商品開発を行い、全商品の20〜30%を占めるようにしたいと語った。


 ソン氏による商品要素の取捨選択に関しての問いには、生活で違和感を感じたことから始まると金井氏は述べた。ミニマルな美的価値を持つ無印良品とFRANK & OAKの魅力として、ナカムラ氏は商品の選択肢の少なさを挙げたが、それに関して金井氏は白いTシャツを例に挙げ、お客様の個性次第でカスタマイズできる余地を作るようにしていると述べた。

 最後の質問では、Eコマース上の購買が増えていくことに関しては、金井氏は同時にリアル店舗の需要も高まるとの見解を述べ、実店舗を市場のようにし、生産者と購入者の繋がりをベースにした上でのEコマースという関係性を作りたいと述べた。