【特別寄稿】「カーニー首相の訪日〜 日加包括的戦略的パートナーシップへの拡大」山野内勘二 駐カナダ日本国特命全権大使

写真提供=官邸ホームページ及び在カナダ日本大使館
One of the Best Meetings

3月6日、カーニー首相は、インド・豪州を経て自身のインド太平洋訪問を締め括るべく東京を訪れた。これは、日本政府による公式実務賓客訪問だ。私は、首席接伴員に任じられ、羽田空港での出迎えから首相官邸での歓迎式典、首脳会談、記者会見、そしてワーキング・ディナーまで全ての行事に同席した。
これまでの大使・外交官のキャリアの中で、私は日米首脳会談を筆頭に幾多の二国間首脳会談、更にG7、G20、APEC、WTO等の会談や交渉に携わって来た。その上で断言したいのだが、今回の高市総理とカーニー首相との間の会談は「One of the best」であった。そこには次の3つの理由がある。

まず、この首脳会談は、世界が21世紀の苛烈な地政学的現実に直面する状況下、戦略的なランドスケープが正に変化する真っ最中に行われた。厳しい時代背景であるがゆえに、議論の質は極めて高かった。イランを含む中東、更に中国等の国際情勢から日加関係まで率直に語りあわれた。

次に、高市総理とカーニー首相のケミストリーは抜群である。両者とも昨年その地位に就いたのみならず、両者とも政治家一家ではなく一般庶民の家庭から自らの才能と刻苦勉励で道を切り拓いた。さらに、カーニー首相は国民の高い支持を誇る一方、高市総理は先の総選挙で歴史的大勝を収めた。両者とも国民からの強力なマンデートを持って議論しているのだ。

そして、日本とカナダが基本的価値のみならず、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを共有すると同時に、政治・安全保障分野からビジネス・経済安保、文化・人物交流まで多岐にわたって関心を共有する強力なパートナーである。それゆえに、今後の日加関係の進展に向けて共通の絵を描くことができた。
首脳会談の成果

今般の首脳会談の具体的な成果について概略を記したい。両首脳は、日加関係を包括的戦略的パートナーシップへと拡大することで一致し、日加首脳共同声明に署名した。この共同声明は、日加関係が進むべき戦略的方向性を定めた初の首脳文書だ。その具体的な内容は「日本・カナダ包括的戦略的ロードマップ」に集約される訳だが、両首脳は、優先事項として6分野に合意した。即ち、①安全保障・防衛協力の強化、②経済安全保障、サプライチェーン及び技術的強靱性、③貿易・投資、④エネルギー安全保障及び食料安全保障、⑤北極、環境、気候変動協力、及び⑥人的交流、学術・文化交流である。

安全保障面では、両首脳は、これまでに情報保護協定や防衛装備品・移転技術協定などの法的基盤が整備されてきたことを踏まえ、共同訓練の更なる拡充など、日加間の安保協力を一層強化・発展させることで一致した。また、サイバー政策に関する協議の立上げについても今後進めていくこととなった。


また、両首脳は特に国際経済環境が急速に変化する中で経済安全保障分野における協力を加速する重要性を認識した。新たな二国間経済安保対話の立ち上げを調整し年内にキックオフ会合を開催するよう指示した。くわえて、バッテリーサプライチェーンやAI・量子等の先端技術・イノベーション分野での取組を推進していくとともに、重要鉱物に関する協力を含めたサプライチェーン強靱化における連携を強化していくこととなった。
さらに、両首脳は今般署名された「海外における自国民保護に関する日カナダ協力覚書」を踏まえて、平時からの情報共有や緊急時における相互協力を一層強化することについて認識を共有した。
来る2028年は日本とカナダが外交関係を樹立して100周年の節目の年であることから、一層緊密に連携が深化することが期待される。ちなみに、カナダは、1928年当時は未だ大英帝国の自治領であったことを考えれば、この1世紀の進化は特筆に値する。
日加ビジネスの深化とCUSMA


今般の首脳会談の成功の背景には、当然ながら、現下の日加関係におけるビジネス分野の深化がある。例えば、LNGカナダの日本を含むアジアへの輸出開始やSMRの建設など目を見張るものがある。この関連で、カナダの自動車産業の77%は日本メーカーの貢献である点について言及したい。

カナダの豊富な天然資源、質の高い労働力、社会の安定性、連邦及び州政府の手厚い支援はカナダの優位性である。くわえて、CUSMAによる世界最大の市場である米国市場へのアクセスは非常に重要な要素である点は強調し過ぎることはないであろう。
結語
最後に、両首脳は、政治・外交における言葉の重要性を熟知している。会談の成果を示すコミュニケ等の文書は未来志向で希望を感じさせる内容である。同時に、両首脳は一つの行動は万の言葉に勝ることを誰よりも理解している。「ロードマップ」に掲げられた課題の着実な実施を通じて、困難な時代にあっても日加関係が一層飛躍することを願ってやまない。
(了)













