カナダを拠点とする世界トップクラスの スタートアップ・エコシステム「DMZ」が日本オフィスを開設。DMZ Japan代表の並木由美子氏に聞く「日本市場とDMZネットワーク」
DMZ Japan代表の並木由美子氏に聞く
ートロントから日本に帰国し日本オフィスを開設された今のお気持ちをお聞かせください。
DMZにジョインした2年前には想像できなかったDMZ Japanの設立を自らの手で成し遂げることができたことに、喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。イベントに参加いただいたパートナーの皆様に心から感謝申し上げるとともに、皆様のご支援を力に変え、これから日本とカナダを繋ぐ拠点として、両国の起業家を支援していきたいと強く決意しています。
ーなぜ今、日本に進出することを決めたのですか?また、DMZ Japanの設立によって、日本のスタートアップ・エコシステムにどのような変化をもたらすと考えていますか?
コロナ明けの2022年頃から、日本のスタートアップのカナダ展開支援、カナダスタートアップの日本展開支援の需要が急速に高まりました。さらに、今後この流れが加速することが期待される中、東京都のSUTEAM事業が最後の後押しとなり、日本に拠点を構える決断をしました。
DMZは、スタートアップのスケールアップ支援に加え、大学発スタートアップ支援団体として、学生や若者向けの起業家教育プログラムも世界トップクラスの水準で提供しています。その知見を活かし、日本のエコシステムにおいて、グローバルに活躍できる起業家や人材を増やしていきたいと考えています。
ーDMZのグローバルなネットワークを活用して、日本のスタートアップが得られる最大のメリットは何ですか?
DMZは、カナダや北米市場への展開支援はもちろんのこと、日本企業にとってあまり馴染みのない地域──たとえば中東、アフリカ、カリブ海諸国など──にもネットワークを持ち、現地でのプログラムを展開しています。
多くのスタートの「海外進出=アメリカやアジア」というイメージが一般的でしたが、DMZのネットワークを通じて、より多様で魅力的な選択肢を提示することが可能になります。従来の枠にとらわれないグローバル展開の可能性を、日本のスタートアップに届けられるのが大きな強みです。
ーDMZの強みを日本でどう活かしますか?また、日本ならではのアプローチが必要だと感じる点はありますか?
DMZが15年以上かけて築いてきたスタートアップ支援や、学生向けの起業家育成プログラムの多くは、日本でもそのまま展開可能な高い再現性を持っています。一方で、日本特有の文化や社会的背景を踏まえたローカライズも不可欠です。
たとえば、起業や新たな挑戦に対する“失敗への恐れ”は、日本の起業家にとって大きな心理的ハードルです。また、女性起業家に特化した支援もDMZ Japanでは重点的に取り組んでいきますが、日本では自己肯定感が低いこと、プライベート(子育てなど)とのバランス、ロールモデルの不在といった独自の課題があります。こうした背景に寄り添ったサポート体制の構築が重要だと考えています。
ー日本の企業や起業家がグローバル市場へ進出する際、DMZ JapanとカナダのDMZネットワークはどのようにサポートできますか?実際に予定しているプログラムや取り組みがあれば教えてください。
DMZでは、海外スタートアップの北米進出を支援する「DMZ YYZ」プログラムを毎年6月に開催しています。参加者は約2週間トロントに滞在し、ワークショップ、メンタリング、B2Bマッチング、カンファレンスやネットワーキングイベントなどを通じて、北米展開の足がかりを得ることができます。
また、日本の学生や若手社会人を対象に、ビジネスアイデアを事業化することを目的とした「Basecamp」プログラムも今夏・来冬に実施予定です。約2ヶ月のプログラムの中で、最終フェーズにはトロントでの対面セッションを設け、現地でのピッチやネットワーキングの機会を提供します。
ー日本国内の企業や大学、政府機関とも連携が進んでいると思います。そのパートナーシップを通じてどのような価値を創出したいと考えていますか?
「海外に挑戦する人を応援したい」という想いを強く持っています。日本国内の企業や大学、政府機関との連携により、海外に挑戦する金銭的なハードルを下げ、多くの機会を提供していきたいと考えています。
日本のスタートアップには、国内の課題にとどまらず、世界規模の課題解決に挑戦してほしいと願っています。40年前に世界時価総額ランキングを日本企業が総なめしていた頃のように、日本企業がグローバルでのプレゼンスを上げて欲しいですし、それをサポートしたいと思います。
また、留学経験のある日本の大学生は2%程度にとどまるとも言われています。今後、グローバル化が進み、移民も増える中で、海外生活で得られる自らが“マイノリティ”になる経験は、そういった変化を受け入れていく中で、非常に重要になると考えています。
ーカナダと日本のスタートアップが連携することで、どのような相乗効果が生まれると考えていますか?具体的な事例や今後の展望があれば教えてください。
日本は言語だけでなく、商習慣や意思決定のプロセスも独特であり、カナダのスタートアップにとっては参入の障壁となることもあります。そうした文脈を理解し、現地での展開において協業できる日本のスタートアップとの連携は、非常に有効なナビゲーションとなるでしょう。
逆に、日本のスタートアップが北米展開を目指す際には、すでにネットワークや市場知見を持つカナダの企業と連携することで、事業成長をより加速できると考えています。両国のスタートアップが補完し合うことで、グローバルなイノベーションの創出につながると確信しています。
ーカナダのスタートアップ・エコシステムと比較して、日本のスタートアップが持つ強みと課題は何だと考えますか?DMZ Japanはどのようにその課題解決を支援できますか?
日本にはさまざまな強みがありますが、特にユニークと感じるのは、ビジネス環境を超えて「日本が好きだから日本でビジネスをしたい」という海外スタートアップが想像以上に多いという点です。これは他のどの国にもない、日本ならではの魅力だと感じています。
しかし、その熱意を持って日本市場に挑戦するスタートアップであっても、ビジネスとして成立しなければ進出を断念せざるを得ません。たとえば、日本企業の意思決定プロセスは非常に慎重かつ複雑で、スピード感に欠ける点があり、これが大きな壁になることがあります。また、法人設立や銀行口座の開設といった事務手続きも煩雑で、日本人メンバーの存在なしには進めにくいという課題もあります。
DMZ Japanでは、こうしたスタートアップが日本で事業を展開する際の顧客開拓支援や、各種手続きに関する伴走支援を通じて、より円滑な市場参入をサポートしていきたいと考えています。
ー最後に、DMZ Japanが目指すビジョンや果たすべき役割は何でしょうか?長期的な展望を教えてください。
DMZ Japanは、カナダと日本、そしてアジアを結ぶ架け橋として、スタートアップや起業家、人材が国境を越えて活躍できる土台を築いていきたいと考えています。DMZコミュニティーの一員となる起業家を増やし、DMZが持つグローバルなネットワークを活用し、それぞれがその中で成長していく循環を生み出すことが私たちの目指す姿です。
また、一人の日本人として、日本のスタートアップが世界でプレゼンスを発揮できるよう、一社でも多くの挑戦を後押ししたいと考えています。