「社会の気に入らないことも スタンダップコメディに 触れることで、日常生活が 面白くなるかもしれない」スタンダップコメディアン 宰務翔太さん(後編)|Hiroの部屋
今年2月からトロントでスタンダップコメディのためカナダで生活している宰務さん。中編ではトロントで活動するヒロさんと宰務さんの気づきなどを語ってもらった。最終回となる後編では現代社会とスタンダップコメディの関連性に触れつつ対談を締めくくってもらった。
ヒロ:トロントに来て数ヶ月が過ぎようとしています。今では、ほぼ毎日ステージ立たれているようですが、手応えや感想などは、どんな感じでしょうか?
宰務:数ヶ月が過ぎ、海外しかも英語でスタンダップコメディをやることにも慣れてきました。最初はいわゆるギャラなしのオープンマイクだけでしたが、最近はギャラが発生するショーにも呼んでもらえるようになったので、その数をもっと増やしたいと思います。
ヒロさんが、トロントで手応えを感じたり、「やっていくぞ!!」と思ったのはいつ頃なんですか?
ヒロ:そういう時は何回かあって、最初はワーホリ時に、世界的有名サロンでカナダ人と働き、著名人担当や撮影なども経験したことで、英語力不足ながらも、美容師として海外でいけると感じました。次は、リーマンブラザーズが破綻時です。
もともとニューヨークが目標でしたが、あの世界金融危機が人生設計を見直すきっかけになり、自分の時間、情熱、努力などをトロントに費やす方が、将来的により幸せになれると感じました。そして、大きいタイミングは30歳の誕生日です。今でも明確に覚えていて、その日はお店も忙しかった土曜日。スタッフルームで少しの休憩時間に自問自答したんです。あれから10年が経つんだと。その10年とは、20歳になる誕生日の瞬間に地元の飲食店の駐車場にいたんです。そこで、「海外挑戦して30歳までに自分が納得いく形にならなければ、さっさと諦めて日本帰国」と決意してたんです。その30歳の誕生日に「今の自分を10年前の自分に見せたら合格させてくれるかな?」との自問自答でした。20歳の頃に思い描いていたニューヨークではなかったけれど、米国の隣カナダで、北米では第三の都市である経済首都トロントのヨークビルという一等地の高級サロンでトップを務め、カナダ人の後輩や教え子たちもいる現状を見せれば、あの20歳の自分は合格点をくれるかなと思えました。それが、改めて「このトロントでやっていくぞ」と決意した瞬間でしたね。
宰務:僕はまさかトロントでしかも英語でスタンダップコメディをやっているとは思っていなかったですね。今後、英語でスタンダップコメディをやるような日本の芸人も増えてくると思いますが、負けないように頑張ろうと思っています。
もともとスタンダップコメディに興味をもったのも、漫才師で司会者としてよくテレビに出ていた上岡龍太郎さんの影響もあります。先日亡くなられましたが、若くして引退された時になぜ辞めてしまうのか?という問いに、「一つだけ言うとするなら、僕が子どもの時に見ていたコメディアンは教養があった。話を聞いて思いっきり笑った後に学ぶこともたくさんあった。最近のテレビは面白いもので得るものがない。それが物足りない」と語っていました。
ヒロ:まさにそれはスタンダップコメディに通じることですね。上岡さんもスタンダップコメディの影響を存分に受けているんですね。昨今の笑いは社会に合わせ、マーケットに合わせてミックスされているのでしょうか。良いニュースが流れない、社会に余裕がない、そんな世の中で今はただ笑いたい、もしくはまったりした笑いに浸かりたい、そんなニーズも多い感じがします。
宰務:僕自身は単純にばかばかしい笑いも好きで、それで吉本にも入っているので意味もないジョークなんかも言います。スタンダップコメディには振り幅があるんですよね。
日本のテレビだとどうしても制限があります。制限があるからその中で面白いことをやるわけなんですが、スタンダップコメディはその制限もいじるわけです。お客さんを緊張させた後に、くだらないジョークをかましたりするわけです。辛辣なジョークで人気を集めネットフリックスでも有名なデイヴ・シャペルもその一人です。
もし最近、なんか面白くないなと感じている人はスタンダップコメディのライブに足を運んでみてもらいたいです。コメディアンは日常生活をいじったジョークを披露しているので、ムカムカすることも気に食わないことも、そういう視点で見たら笑えるという気づきがあり、日常生活が面白くなるかもしれません。
ヒロ:対談を振り返って、スタンダップコメディに触れ合うことで、笑いとは日常生活に味がつくんだなと思いました。物事の角度を変えて見る、知る、感じることで甘くも、辛くも、苦くもしてくれます。きっと脳にもすごく良い刺激なんだろうと思えます。物事をよりフレキシブルに捉える考え方を知れて、大変、勉強になりました。
(聞き手・文章構成TORJA編集部)
宰務翔太さん(Saimu Shota)
1991年6月19日生まれ。関西学院大学国際学部卒。2013年、当時大学4年生の時に「第3回わらいを愛する学生芸人No.1決定戦」で優勝を飾る。その後テレビ朝日『学生!HEROES』などに出演。大学卒業後は、上京し吉本興業でコンビを結成し漫才をしていたが解散。2022年5月、東京渋谷に日本唯一のコメディクラブ「Tokyo Comedy Bar」がオープンし、以前から興味を持っていた英語によるスタンダップコメディを始める。現在はスタンダップコメディのためトロントに留学中。
Hiroさん
名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。NYの有名サロンやVidal Sassoonの就職チャンスを断り、世界中に展開するサロンTONI&GUY(トロント店)へ就職。ワーホリ時代から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再びトロントのTONI&GUYへ復帰し、北米TOP10も受賞。2011年にsalon bespokeをオープン。今もサロン勤務を中心に、著名人のヘア担当やセミナー講師としても活躍中。世界的ファッション誌“ELLE(カナダ版)”にも取材された。salon bespoke
130 Cumberland St 2F647-346-8468 / salonbespoke.ca
Instagram: HAYASHI.HIRO
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