日本とカナダの関係深化への第一歩 JETRO&カナダ・グローバル連携省共催「日加の協業:世界を変えるイノベーション」セミナー開催
このフォーラムは日加修好90周年を祝し、ビジネスシーンにおける日加のこれからの協力体制を約束する協力覚書が交わされるとともに、カナダのビジネスパーソンへ日本市場の魅力をアピールすることが目的だ。日本からはNTTデータや神奈川県、JR東日本等日本を代表する企業や自治体も参加し、フォーラムの後半には日本でビジネスを行っているカナダ企業3社の代表がパネルディスカッションを繰り広げた。
司会進行役を務めたのはJETROトロントの酒井拓司所長。フォーラムの参加者と関係者に謝辞を述べると共に、日加修好90周年という節目の年にこのような日本とカナダの今後を見据えたイベントが開催できるのは素晴らしいことだと述べた。
■カナダの可能性と日本の技術力
駐カナダ日本国石兼公博特命全権大使は安倍首相とトルドー首相が会談を行ったことやCPTPPなどについて触れ、カナダと日本は共通の価値観を共有しており、関係はとても良好であるとした。その一方でCPTPPによって特に自動車製造業においてこれがカナダにとって不利になる懸念を耳にすることが多い。しかし、少なくとも日系自動車メーカーは年間100万台の車をカナダで製造したり、トヨタ自動車が14億カナダドルの投資をカナダの工場に行ったこと等を通し、カナダにも莫大な経済効果がある。日加の関係は政府レベルでは活発ではあるものの、民間ではまだまだこの絆が重視されていないとし、このフォーラムがその重要性に気がつくきっかけとなり、もし日本へ投資・進出に興味があればJETRO等の公的機関に積極的に連絡を取ってほしいと語った。
JETROの前田茂樹理事はこのフォーラムで節目の年に覚書締結式が行われることがとても嬉しいと述べた。前田氏は参加者には日本にある様々なビジネス機会を知っていただきたいとし、カナダで活発なイノベーションについても、富士通がトロント大学にリサーチラボを設置したように、日本企業が多くの投資を行っていることに触れた。AI分野におけるカナダの先進性に日本が投資やコラボを行っているのは、カナダがこの分野で高い可能性と実績を秘めているのは勿論、日本がその技術を製品化する力を持っているからだと語り、今後も両国の協力体制は経済発展のためにも不可欠だと語った。
■企業のオープンイノベーション進出
次に登壇したのはNTTデータオープンイノベーション事業創発室長の残間光太朗氏。まず最初に残間氏はオープンイノベーションが活発となっている時代に、大企業がとるべき戦略はこれまでのように研究開発に多額を投じるのではなく、世界中にあるアイディアやビジネスと自分たちがいかにパートナーシップを組めるかが重要と語った。しかし、スタートアップと大企業の動くスピードの違いや、大企業がスタートアップの技術を評価することはとても難しい。その問題を解決するためにも、仲立ちが大切となり、NTTデータがその役を務めている。
現在、NTTデータは毎月フォーラムと、毎年ベンチャー企業向けのビジネスコンテストを行っている。特に、大会は世界14ヵ国、15都市で予選が開催され、本選は日本で行われているのだ。
また、NTTデータは世界各国のインキュベーターやハブとも積極的な交流を行っており、2016年には北米最大のイノベーションハブ“MaRS Discovery District”における初の日本企業会員となっている。
残間氏は、カナダのベンチャー企業に向け、NTTデータはファンディング、世界各国にある210拠点、そして日本トップのICTインフラストラクチャーであることから是非積極的に同社とも対話を行って欲しいとし、発表を終えた。
神奈川県の北米代表を務める樋口泰介氏は神川県の概要を説明するとともに、神奈川県に籍を置く日本を代表する会社や、カナダ企業を紹介した。そして、現在神奈川県では少子高齢化の問題を解決するために、先進的技術の導入を積極的に行っており、インターナショナルスクールや神奈川県からのファンディングを得られること等、神奈川県へカナダ企業が拠点を置くメリットについてのアピールを行った。
JR東日本からは天内義也氏が登壇し、現在日本で進められている品川開発プロジェクトについての説明があった。このプロジェクトでは「グローバルゲートウェイ品川」として世界中から先進的な企業と人材が集い、多様な交流から新たなビジネスや文化が生まれるまちづくりの実現を目指している。2020年には新しい駅が開通し、JR東日本はこのフォーラムを通じ2024年に街びらきが行われるのだが、そこに向けてカナダからも企業や人材が品川に拠点を置くことに期待を寄せた。
「日本進出前にまずはJETROと話を」
JETROのタイソン・ガービー氏からはJETROが提供するサービスについての紹介があった。JETROでは日本だけでなく世界で海外企業が日本進出を行う際に重要な役割を担っている。特に日本に参入する海外企業の一時的なオフィスとして機能するサービスであるIBSCは、コンサルティングや法律、ビザの相談等も含めた幅広いサポートを提供する。ビジネスの発展を手助けする場として機能するこのIBSCは日本の主要都市6箇所に設立されている。
ネットワーキングを兼ねた休憩を挟んだ後には協力覚書の締結式が行われた。この覚書はJETROとカナダ・グローバル連携省が2005年に結んだ覚書をリニューアルし、日加の投資関係の拡大と深化に向けた更なる協力、両国間の投資を促進する目的がある。カナダ・グローバル連携省からは国際貿易次官を務めるティモシー・サージェント氏、JETROからは前田理事がそれぞれ覚書へのサインを行い、固い握手を交わした。
パネルディスカッションではアジア太平洋財団トロント事務所のクリスティーン・ナカムラ所長が進行を務め、iNagoのロン・ディカランタニオ社長、Autonomous IDのトッド・グレイ社長、そしてmnuboでグローバルセールスのVPを務めるチャールズ・マーシュ氏がパネラーとして登壇した。
■AI分野を牽引する2ヵ国が協力体制にある意義
ナカムラ所長はパネルディスカッションの前に、Forbesが発表したAI技術における先進国ランキングにおいてカナダと日本の両国がトップ7に入っていることに触れた。行政・民間レベルでこの分野で活発な両国が協力し、一緒に未来を創っていくためにもこのディスカッションはとてもいい機会になるのではないかと期待を寄せた。
日本でビジネスをすることにした理由について、トッド氏は日本がインフラ的にAutonomous IDの製品を受け入れる土壌が整っていたからだとした。また、日本でビジネスを行う上でロン氏は日本のサポート体制が素晴らしく、とてもスピーディーに物事を進めることができたと語った。また、ロン氏は、自身が日本で開発を行ったバーチャル水槽が大ヒットした理由として、日本が早期に新しいものを採用する傾向があるからだと述べた。
フォーラム参加者からも質問が寄せられ、日本のAI産業に関する質問が挙がるとチャールズ氏は日本の大企業がAIやデータのスペシャリストが日本に足りていないと言っていた話を紹介した。しかし、それはカナダ企業にとってのビジネスチャンスともいえ、日本の顧客が求めるAIを提供することが成功のカギになると語った。
「日本へ進出するなら150%コミットを」
最後に、日本への進出や拡大を考えている方へのメッセージを聞かれるとロン氏はもし日本に進出するなら150%コミットする心構えが大切で、片手間でやろうとしてもうまくいかない。問題解決のためには海外から日本へ人材を派遣する用意も必要だと語った。
トッド氏は日本では最高品質のサービスや製品が求められ、日本のビジネスシーンを熟知している人間の存在が重要だと述べ、その理解のためにもまずはJETROに相談ををしてみることを聴衆に勧めた。
チャールズ氏は日本で確実に約束を守っていくことが信用に繋がると語り、打ち合わせの度に適当に約束をするのではなく、毎回ゴールを決め、フォローアップを行っていくことが重要だとした。
「協力覚書の締結は両国にとっては新たなスタート」
閉会の挨拶にはToronto Globalのトビー・レノックスCEOが登壇した。氏はこのフォーラムでは協力覚書も交わされ、日加修好90周年を迎える2018年はカナダと日本の新たなスタート点としての役目を果たしたのではないかと語った。2ヵ国は物理的な距離が離れているものの、関係各署の協力によってかつて無いほどその精神的な距離は近いとし、今後も2ヵ国の関係が深化していくことに期待を寄せ、挨拶を締めくくった。
フォーラム後に設けられたネットワーキングの時間では、参加者たちは積極的に意見を交える姿が印象的だった。日本への投資は企業にとって魅力的かつ挑戦的なビジネスだ。その上過去と比較しても、それを援助する仕組みも今では充実している。今回のセミナーはJETROの活動が今後も日本とカナダのビジネスシーンを繋ぐ架け橋となることを確信させる、大変意義のある講演となった。