ギリシャ問題にみるコトの本質
社会は多くの人の順応性を超えるスピードで変わりつつある。だが、適応性を持たないとそこに所属する人間と責任者は周辺から隔離すらされる時代となりつつある。それが行政の場合はより難しい運営となろう。今月はそのあたりを覗いてみたい。

6月はギリシャで振り回されたといってよい。ヨーロッパの小国がドイツをはじめとする強面の首脳や財務大臣を前に前例を見ない自己主張を繰り広げた。挙句の果てに「ない袖は振れぬ」というお決まりのスタンスで実質デフォルト状態に陥り、7月には続編が始まった。
私は刻々と変化するギリシャ問題を決して他人事とは思えない気がしている。それは財政という問題が地球上のあらゆる国、州、県、都市、町などで大きな問題となりつつあるからである。
我々は道路の補修費も街角のゴミ箱の取り換えも街路灯の電気もタダだと思っている。いや、会社で天引きされる源泉税にその代金が含まれていると考えている。が、もう少し見ると様子は変わる。バンクーバーでは一般家庭に水道代はない。固定資産税に含まれるからだ。私の住むコンドミニアムのガス暖炉や台所のガス台は使いたい放題である。なぜならガスの子メーターがないために誰がいくら使ったかわからないのである。まさに前近代的と称してよいのだが、行政の動きは鈍い。
大バンクーバー地区の公共交通機関の運営を担うトランスリンク社の赤字補てんのために関係市長らが0.5%の赤字補てん税を提案したが今般、住民投票の結果、否決された。なぜなら経営努力が足りないという指摘がメディアを通じて大々的に取り上げられたことがあげられよう。
しかし、多くの人は知らないだろうが、駐車料金にはトランスリンク社の赤字補てんとして21%の税金がそっとかかっている。私はその収納業者で時々、トランスリンク社から事務的な電話を貰うのだが、その横柄な態度、挙句の果てに「逆らったら監査に行くわよ」という脅しに、お上には逆らえないがこの構図は何かおかしいと思っている。
日本の区役所や市役所の住民課や健康保険課に行くと黒山の人だかりのことがある。たかが戸籍や住民票、健康保険関係の事務手続きだけでそれぞれ1時間待ちは当たり前だが、これを電子化すれば数秒でできるのだろうな、と思うと合理化と効率化を排除し、雇用を守っているのだろうかとひねくれてしまう。
日本の入国審査に顔認証システムが導入されるそうだ。外国人はともかく、日本人で入国管理のところで引っかかる人はほとんどお見かけしない。パスポート番号から見えるデータとパスポートの写真を確認して終わりなのだろう。パスポートにはんこを押す音がむなしく響く人海戦術であった。私は指紋認証システムを登録していてパスポートの読み取りと本人確認だけだから行列したことはない。但し、いくら早くそこを切り抜けても荷物が出てこないことには意味がないのだが。
国家や財政を担う組織は社会の複雑化と共に厳しい運営問題を抱えている。最近ではアメリカ自治領のプエルトリコが財政破たんしそうになっている。またアフリカのジンバブエがジンバブエドルを米ドルに両替して回収すると発表した。そのレートは1米ドルで3京5000兆ジンバブエドルである。インフレ率2億%の世界とは電卓の桁数がひたすら足りなくなる世界だが、これらは政治が生み出した不幸と言われている。
アメリカのデトロイトは2013年に財政破たんしたが、回復する見込みはない。これも自動車産業が永遠不滅の業種だと信じて改革しなかった政治家の怠慢である。北海道の夕張市も政治の怠慢と言える。石炭の町はかつて繁栄したものの人口減、過疎化、高齢化はある日突然来るものではない。それまでに市町村合併、集落の土地交換による効率化など対策はいくらでも出来たはずだ。
世界のあちらこちらで財政は軋んでいる。日本も社会保障費が急増し、高齢者の医療をどう支えていくのか、クリアなピクチャーは見えていない。いや、方法はあるのだが、議論百出で結論が出ないのだろう。私ならホームドクター制度と専門医の二階建てシステム、民間保険システムとの提携など抜本的改革をすべきだと思うが、役所は変化に弱いという体質を持つがゆえにそんなことを主張すれば宇宙人扱いされるのが関の山だ。
ギリシャの問題でチプラス首相が固執した一つに年金支給のルールを変えないことだった。医療が進み、同国の平均余命も80歳を超え、世界トップ20に入る中、55歳ぐらいから年金がもらえる仕組みを見直さないという既得権への固執は変えられない役所の典型的例であろう。若いチプラス氏がそんなに固執するようではもはやお手上げである。
世の中の安定は重要である。が、社会は日々刻々変化し、それには生物学で言う変態能力が必要だ。一般企業では大いなる淘汰と労働の移動が行われているが、それに対する不満が顕在化したとは言えない。それは順応機能が備わっているからだ。
我々の年金支給開始年齢は平均余命が短かった時をベースにしている。退職後、10年も生きられない時代がもともとのベースだった。今や、我々は退職してから第二の人生を謳歌しているのに年金だけはしっかり貰っている。これは本来おかしい。
ギリシャの問題は他人事ではない。カナダでも日本でもアメリカでもいつ起きるかわからない。が、起きそうだと分かっているなら役所がその運営を変え、常識観を変え、国民や住民はそれに歩調を合わせる適応性が求められる。単なる権利の主張で意地を張っている社会はもはや、誰も救いの手を伸ばせなくなるだろう。
了
岡本裕明(おかもとひろあき)
1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。



