アメリカ大統領選挙が向かうところ
2016年11月8日の1票日まではまだ1年半近くあるが、既にアメリカの民主党、共和党は立候補者が次々と名乗りを上げ、新たなる時代への夢と希望を語り始めている。これから来年11月までは否が応でもこのニュースと付き合わねばならないのだが、まだスタートしたばかりの熱い戦いの注目点を考えてみよう。

アメリカは二大政党の国家である。単一政党の中国に対して批判の声が上がるが、ならば2つあればよいのか、という質問は誰もしない。私はおかしいと思っているが当たり前になるとその疑問がわからないらしい。
イギリスで5年ぶりに総選挙が行われた。注目は与党保守党が第一党をとったもののスコットランド民族党など第三局への注目が高まり、野党労働党が敗北、二大政党の流れが大きく変わったことだ。
歴史的に二大政党の総本山ともいえるイギリスで異変が起きたのはスコットランド独立問題に端を発する。国民は大所高所の国家論よりもっと身近な問題解決をより望んでいるようだ。巨視より微視である。保守党のEU離脱を問う国民投票の公約は国民が素直に反応した。なぜだろう?それはグローバル化により便益を受けることや苦渋の選択を強いられるケースがより鮮明になり、国民のボイスが変わってきているとも言えよう。
ギリシャを例にとればもっとわかる。国民は緊縮財政に疲れ果てた。大所高所で考えれば緊縮財政の改革を受け入れなくてはいけないと分かっているが、忍耐の限界を超えてしまった。だから非緊縮を公約に掲げ、若くて勢いのあったチプラス政権を選んだわけだ。これも目先の利益を優先した例であろう。
アメリカの話に戻そう。最近は民主党と共和党は交互に大統領を輩出してきた。これは見方を変えると双方のポリシーが近接してきているともいえる。もともとは資本家と労働者という関係が二大政党の前提であったはずだ。が、今や1%と99%という格差を声高に叫びながらも99%の労働者層がその意識を選挙に直接的に反映しているわけでもない。
大統領選が長期にわたり、祭りのような盛り上がりを見せ、国民は双方からの甘い言葉に優柔不断になりやすくなるのかもしれない。事実、今度の選挙の目玉はヒラリークリントン氏の雪辱戦であり、初の女性大統領誕生か、という切り口である。しかし、エンタテイメント大国らしい仕掛けでカーリーフィオリーナ元ヒューレットパッカードCEOが共和党から立候補することできちんと盛り上がりを作っている。
この原稿が皆さんの目に触れる時にはブッシュファミリーのジェブ ブッシュ氏も立候補しているかもしれない。とすれば夫婦大統領 対 父兄弟大統領というウルトラ対決という切り口もある。アメリカ人が著名人対決を望んでいるのか、開拓者として新星を探し求めるのか、そのあたりの今後の反応は注目である。また白人比率が7割まで下がってきて、ヒスパニックやアジア系の声をどう拾い上げるか、という着目もある。
アメリカ人はマスコミが仕組むエンタテイメントに乗せられたいのか、それとももっと身近な自分たちの利害を聞いてくれる大統領を求める動きに出るのか、そこがどうもはっきりしないようだ。 一時期話題になった共和党傘下のティーパーティ。このボイスは支持政党なしとする政治無関心派を取り込む良いチャンスになると思われた。しかしながら様々な問題を抱えた上にノーベル経済学賞を受賞したポールクルーグマン氏から「草の根運動ではなく人工芝」と罵られ、マスコミによる宣伝が作り上げた団体とも揶揄され、当時の勢いは何処へ、である。
パクスアメリカーナを通じて強いアメリカがあった時は国民が一体感を持っていた、しかし、中国というライバルが現れ、ロシアと新たなる冷戦を続け、中東政策は混迷を極める外交政策にアメリカの存在感は以前ほど強烈ではない。中国主導のAIIBにG7の欧州組4か国全てが参加表明したのは驚くべき事実である。
国の勢いがなくなると国民のボイスは割れるものだ。イギリスで保守党が過半数を取った理由はG7の中で最も好調な経済を反映したとも考えらえるし、安倍政権の圧倒的強さも日本経済が回復を辿っているからである。
この論理からすればこれから1年半でアメリカ経済が好調を維持できるかがキーである。個人的にはアメリカ経済はピークアウトしてしばし小康状態になるとみているが、仮にその通りならばイライラ感を募らせた国民が民主党にそっぽを向く可能性は否定できない。
またヒラリークリントン氏を糾弾するべく共和党はじっくり準備を進めている。その中の最も注目されるのは共和党のガウディ議員が委員会を仕切るベンガジ事件の調査であろう。これは2012年リビアのアメリカ領事館が襲撃され大使らが殺害された事件であり当時国防長官だったヒラリーの責任が厳しく追及されると言われている。戦略的に選挙戦の終盤にその調査結果を発表すると思われ、その内容次第ではクリントン氏にとって打撃となろう。
アメリカでは第三局が生まれにくい。だから民主でも共和でも満足できない人は行くところがなくなり、無党派がもっと増えるのかもしれない。その時、二大政党制に基づく大統領選が本当の国民の声を反映しているのかという世論の声は大いに出してもらいたい。少なくともアメリカの政治は閉鎖的で現代のスタイルからは外れつつあることを認識すべきである。大国故に変えられない二大政党政治となればアメリカに中国を批判する権利はないだろう。
了
岡本裕明(おかもとひろあき)
1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。



