日本の外交・経済政策をカナダの人々へと伝える、 奥田紀宏カナダ大使インタビュー
“今なお国際社会において大きな注目を浴びる日本。海外にいる日本の人々は背筋をピンと伸ばし、世界からの期待に応えていくことが必要”

4月10日、奥田紀宏在カナダ大使がトロントを訪れ、トロント大学にて講演を行った。奥田大使は、昨年4月にカナダ大使に着任。オタワを拠点に、カナダ国内の様々な地域に赴いて、講演会などを通し日本政府の考えをカナダの人々へと伝えている。今講演の大枠は安倍政権下の外交・経済政策についてであり、昨年末に発表された安全保障戦略や、大胆な金融緩和、柔軟な財政政策及び成長戦略の「3本の矢」からなる経済政策(アベノミクス)の話題を中心に展開。成長戦略の一環としての雇用市場の改善については、女性や高齢者の積極的な採用を促進していくという政府の方針について説明があった。また、終盤には日加関係についても触れられ、エネルギー分野での貿易、日加経済連携協定の締結を目指し政府が尽力していることも述べられた。講演会翌日に、奥田カナダ大使に日加関係のこれからを中心にお話を伺った。
これまでも多岐に渡って良好な協力関係を築いてきた日本とカナダ。
エネルギー問題を軸に、双方にさらなる利益をもたらす貿易関係を築いていきたい

奥田カナダ大使
我々(日本政府・企業)が目指しているのは、これまでカナダがアメリカを除く外国には供給してこなかったエネルギー資源、特に天然ガスを日本に対して安い価格で輸出してもらいたいということです。できるだけ早く、BC州にある天然ガスをLNG(液化天然ガス)にして、日本が輸入するプロジェクトを実現させたいという思いは、昨年9月のカナダ訪問の際に、安倍総理からもハーパー首相に対し表明しており、、政府、企業ともに積極的な働きかけを行っています。
日本とカナダの経済関係はすでに非常に多岐に渡っており、双方にとって利益となる関係を築くことができていると思います。日本はカナダから牛肉や豚肉、菜種などの農産物、さらにニッケルやウランなどの鉱物資源を輸入しており、毎年約200億ドルから300億ドル規模での貿易が行われています。この金額は日米や日中に比べると、額としては少ないのですが、いくつかの農産物においては、日本の輸入量のほとんどをカナダ産が占めているため、カナダは日本にとって重要な貿易国であると言えます。さらにトヨタやホンダ、サッポロビールといった日系企業がカナダで工場を運営、生産を行っており、貿易関係を超え、投資という関係でも着実に成果を上げ、カナダの労働市場に対しても相当の雇用を生み出しています。
加えて2012年11月からは日加間での経済連携協定(自由貿易協定)への交渉も始めています。自由貿易協定というのは双方に役立つものですが、特に日本の場合は農産物など、分野によって難しい問題を抱えることにもなります。そういった分野のことを考慮しつつ、日本とカナダの双方にとって利益となるような自由貿易協定に合意することが、政府のすべきことの一つであり、この件は昨年の安倍総理のオタワ訪問の際にも大きく取り上げられた議題でした。エネルギーと自由貿易協定、そして諸外国も含めてのTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉を進めていきたいというのが安倍総理の考えです。
依然として世界から大きな注目を集めている日本。その期待に背筋を伸ばして応えていく
普段カナダの人々と話をするとその多くが日本文化の話題となるのですが、昨日の講演では特に安全保障の問題、憲法9条のことなど若干固めの話をしたのですが、聴衆の方々には最後まで熱心に聞いていただけたので良かったと思います。
このことは日本という国に対する関心が依然として高いことを表しているように思います。私がこの1年カナダで過ごし感じてきたのは、東日本大震災からの復興や経済回復、さらに少子化といった長期的社会問題に対する政策など、まだまだやっていかなければならないことは多くありますが、それでもなお国際社会において日本という国は大きな注目を浴びており、その多くの場合が尊敬の念からのものであるということを忘れるべきではないということです。海外にいる日本の人々は背筋をピンと伸ばし、そういった世界の人々からの期待に応えていくことが必要なのではないかなと思います。威張る必要はありませんが、卑屈になる必要もないのです。
日本を発信していくうえで大切な「言葉」という文化の普及促進の重要性

文化というものに対し、政府がどこまで国民の税金を使って政策を行っていくかということには様々な議論が必要となります。ヨーロッパや北米の場合、アニメや音楽といったポップカルチャーはすでに商業として成り立っており、民間ベースですでに双方のやりとりがありますが、一方で歌舞伎や狂言といった伝統芸能は一般の人にとっては少々難しく、こういったものに対しては、政府として資金的にも援助を行っていく必要があると思います。一様に文化政策と言っても、すべての文化的なものに対し、資金的にも援助を行うということは、今の財政状況では極めて難しいのです。ですから、ポップカルチャーなどある程度商業ベースで行えるものは、なるべく民間で行ってもらい、政府としては側面からサポートをしていくといった支援の仕方が考えられると思います。
さらに文化という言葉を広く捉えるとそのなかには「言葉」も含まれてきます。例えば英語であれば商業ベースで世界中に広がり、商業と言葉の普及が同時に成り立ちますが、日本語を教える学校というものは、商業的に成り立つところ、成り立たないところとで大きく分かれます。最近では、日本の人々が「メッセージを発信する」と言う言葉をよく使いますが、我々が発信したことを理解する層がないと、発信された側は理解できないということも多く起こりえます。もちろん、日本語が将来世界的な言語になることを目指しているわけではありませんが、日本を正しく発信・受信するために非常に重要となるものの一つが言葉であり、たとえ財政的厳しさがあろうと、無理をしてでも日本語教育は進めていくべきだと思っています。
奥田紀宏(おくだ のりひろ)
在カナダ日本国大使。昭和50年東京大学法学部卒業、外務省入省。平成4年4月より条約局法規課法規調整官、平成5年8月より中近東アフリカ局中近東第二課長、平成7年7月より経済協力局無償資金協力課長を務める。平成9年8月より在アメリカ合衆国日本国大使館参事官、11年1月より同公使。アフガニスタン駐箚特命全権大使(平成16年7月~)、中東アフリカ局長(平成18年8月~)、国際連合日本政府代表部特命全権大使(平成20年7月~)、エジプト駐箚特命全権大使(平成22年6月~)を経て、平成25年3月よりカナダ国駐箚特命全権大使を務める。




