お肉に携わる人々。
バンクーバーの大繁盛焼鳥店、ついにトロントで勝負の時。
焼き鳥の旨さをカナダで広げる。
トロント店 店長
玉那覇 博さん
バンクーバーに3店舗を構え、行列を作る焼き鳥店、ざっ串。そんな人気店が満を持してこの冬、トロントにオープンする。バンクーバーの1号店の立ち上げから、繁盛店を支え、そしてトロント店の店長として陣頭指揮を取る玉那覇さんは、もともとは建築業界出身。トロント店の内装も彼が作業着をまとい、工事を進行している。
炭火焼き鳥は非常にポピュラーな業態だが、串打ちのスキルや炭に火をおこし続ける労働力などの負担から、簡単には出来ずトロントでも数少ない。バンクーバーでも炭火焼き鳥は珍しいようだ。第1号店出店時には、カナダに焼き鳥店はなかったらしく、焼き鳥という文化を広めたいという思いで来加したのだという。同店の人気を支えるひとつのキーワードが、日本から仕入れている備長炭だ。近年、為替の問題、環境の変化の問題などもあり、備長炭の確保は大きな課題だそうだが、炭が入ってくる限りは、炭火焼きにこだわり続けたいという。
「炭火で焼く魅力は、なんといっても火力の違いと、炭の香りがつくことですね。うちの使っている炭は1000度以上の火力で遠赤外線の力もあり、一気に外側を焼いて、中に肉汁を閉じ込める。肉がパサパサにならず、ふっくらとした仕上がりになる。素材のおいしさを逃がさないということがポイントです。あとは、香りづけ。炭で焼いたものと、普通に焼いたものでは、香味がまったく違います。」よくお客さんから備長炭を売ってほしいとリクエストされることもしばしば。「カナダの人は基本的にバーベキューが好きですからね。そういった点でも日本の備長炭の素晴らしさを海外の人よりも感じ取ってもらえるし、僕ら自身も違いをわかってもらいたいと思いながら、料理しています。」
居酒屋、らーめんの出店ラッシュが続くトロント。日本食をキーワードにする熾烈な競争が始まっているが、なかなか真似することができない炭火焼き鳥がオンリーワンになることは間違いないだろう。
ざっ串
バンクーバーに三店舗を持つ炭火焼き鳥店。この冬、トロントにオープン。鶏だけでなく、豚や牛、海鮮をはじめ、和牛やつくねなど種類も豊富。ソースのバリエーションも多種あり、色々な味が楽しめる。
日本のオリジナルである「和牛」を多くの人に広めていきたい
トロントで唯一の日本人経営のお肉屋さん
石黒 聖子さん
J-Townにあるお肉屋さん、「Famu」。日本にあるお肉屋さんのように店内には、コロッケなど数多くのお総菜が並ぶ。ショーケースには日本人には嬉しい薄切り肉はもちろん、日本の最高級和牛からオンタリオやオーストラリア産のWagyuまで、その和牛セレクションはなかなか他店でも見かけない。
5年目を迎える同店を切り盛りしているのは女性経営者の石黒さん。日本では外資系高級ホテルグループのインターナショナルマーケッターとして世界各地を飛び回る中で、もう一度勉強をしたい、どうせなら英語で学ぼうと、30代でトロントに留学。大学院でMBAを取得までした彼女が選んだ仕事がお肉屋さんだった。「とにかくみんなからは驚かれました。自分の親には2年間言えませんでした(笑)。とにかくおいしい物を食べるのが大好きで、かといって肉の知識があったとか、代々肉屋の家系というのではなかったのですが。ただJ-Townに空き物件があった、そして周りに肉屋がなかったということが、自分の好きなことや、やりたいことを実現しようという想いを後押ししてくれました。」
店を始めるにしても、肉の勉強をしなければいけない。だけど肉の学校はないため、肉屋を見つけるたびに飛び込んでは、色々と質問して話を聞いたという。「毎週土曜日の朝は数ヶ月間、セントローレンス・マーケットの向かいのファーマーズ・マーケットにある豚屋で朝の5時から無償で手伝う代わりに肉について学ばせてもらいました。また友達の友達がロンドンで肉屋を営んでいると聞けば、車で土日に1時間かけて訪ねてゆき、土日修行させてもらいました。それでもオープン前日に牛と豚がどーんと店に届いたときは、半ば呆然、自分のチャレンジャーぶりに笑ってしまいました。」
5年後ではできない、今だからできることをやろうと独立を決心してからあっという間に4年がすぎた。「生きていてワクワクする感じ。心が自由になりました、自分の人生を終えるときに“あーなんて面白い人生だったんだろう!”と思えるようにするのが人生の目標なんですよ〜。」そう語る石黒さんは昔よりも、前を見て進めるようになったという。多くの顧客や農家の人達、優秀なスタッフに恵まれたからこそ迎えられた5年目だと笑顔で語ってくれた。事業も安定している中で新たな展開としてレストラン向けのホール・セールも動き出した。石黒さん自らが選んだこだわりの肉が数多くのレストランで味わえる日も近いと思うと嬉しくなる。
FaMu
ナチュラルなお肉にこだわり、和牛のセレクションも数多い。 数多くの生産者を訪れ、こだわった肉を取り扱うという徹底ぶり。カスタムカットにも対応してくれる。P18に詳細情報あり。
地元の食材にこだわりをもつ肉料理が自慢のレストランで修行中
現在料理長に次ぐNo.2の若手有望シェフ
藤瀬 八郎さん
Wellington St.Wにある、肉料理とこだわりの食材を使った料理で、地元のカナディアンに絶大な支持があるレストラン・Marben。その店の厨房で働くのが藤瀬八郎さんだ。今年の春まで大人気のGuu居酒屋で料理長を務め、店を支えていた彼が、心機一転、日本人スタッフの誰もいないローカルの繁盛店で、一からのスタートを切った。
「自分が持っていない技術をまた身につけたいというのが一番にありました。この店は働いているスタッフも若い人たちばかりで、学ぶことが多いです。あとは自分自身、あまり一つの場所にとどまる性格ではないことも関係してましたね。」
この店はすべての食材に、地元食材や自家製といったこだわりを持っているが、そのなかでも肉料理が売りだ。肉は車で一時間ほど離れた地元ファームから仕入れているもの。牛は毎週半身で仕入れ、ハンバーグに使う部分、ステーキに使う部分などと切り分けている。豚も一頭買いをして、そこから自家製のソーセージなどをつくっている。「半身や一頭買いは手間がかかりますけど、その分、どこにサーロインやヒレがあるといった、部位の名前や取扱い方の勉強になります。こういったことは今までやったことがなかったので、とても良い経験になっています。」
同店の一番人気メニューはハンバーガー。パテは、ディスク状に切った煮込み肉をひき肉で包んだもので、中はすでに火の入った状態になっているのが特徴的だ。普段食べているものとは違った食感や味わいが楽しめる。野菜に関しては、これからの寒い季節、野菜の味や仕入れにバラつきが出てくるのだが、同店では夏の間にピクルスなどの保存食材を作り、貯蔵しているため、地元食材の深い味わいを冬でも楽しむことができる。今年6月に居酒屋GUUから同店に移り、数カ月が過ぎた。すでに八郎さんは厨房で料理長に次ぐ二番手として活躍している。この店で多くのことを学び、ゆくゆくはレストランに限らず、飲食の世界で自分の店を持つのが夢だという。
Marben