アーティスト Kazu Kibuishi さんインタビュー
東京に生まれ、アメリカで育った日系2世のKazu Kibuishiさん。Film Schoolを卒業後、Amuletがヒットしたことでも広く知られるアーティストである。今回はToronto Comic Art Festival(以下TCAF)に参加されたKazu Kibuishiさんにここまでどのように活動されてきたのか、また海外での活動などについて伺った。
KazuさんにとってTCAFとトロントとは?
TCAFは私の一番好きなコミックイベントでチャンスがあれば何度でも参加したいと思っています。それにトロントの読者たちは、私にとってとても思い入れがあります。Amuletは初めにカナダで有名になり、その後アメリカへと広まりました。カナダのコミックファンのおかげで、アメリカでの人気につながったのだと思います。
作品を作るときに日系アメリカ人であることが影響したりインスピレーションとなることがありますか?
私が日系人であるというバックグラウンドは作品を書く上で特に感情面での表現に大きく影響を与えていると思います。私は日々周りの人が何を考えているのか理解しようと努めていますし、そういった共感の仕方や他人の気持ちを考慮するということを作品の中に入れたいと思っています。もしAmuletが成功した作品だと言えるなら、それはきっと日系アメリカ人として、マイノリティーとして、より多くの読者層が共感できる話やアイディアを出せたからでしょう。
Kazuさんが東京からアメリカに移住した時のカルチャーショックや言語の問題をどのように克服されましたか。
コミックが私のそういった障害を克服する手助けをしてくれました。アメリカのコミックはもちろん英語で書かれているので英語の勉強にもなりますし、コミックの中ではコーヒーが好きで、月曜日が嫌いといったように登場人物や物語の背景にもアメリカ文化が入っています。コミックや雑誌を通して、アメリカの政治、映画、文化などを学ぶことが出来ました。
幼い頃から絵を描くことが好きだったそうですが、実際はFilm Schoolを卒業し、別の仕事をされていましたね。コミックの世界へ戻ろうと思ったきっかけはなんでしたか?
私はコミックを描くのが好きで、別の仕事をしながら趣味で続けるだけでも良いと思っていました。ただ、ネット上で作品を公開した時に反響が大きく、多くの人に仕事として続けた方が良いと勧められ、現在に至ります。実際仕事としてコミックを描き始め、ある程度軌道に乗せることができたので、今はどのようにしてアメリカの次世代コミック作家や産業をサポートしていくか考えています。
ご自身の作品以外にもアンソロジーを手掛けているのはその活動の一環ですか?
私のキャリアを通してFlightやExplorerなどアンソロジーの編集を担当し、若い作家を見守ってきました。今後はそれ以外にもグラフィックノベルの制作過程に注目していきたいと思っています。アメリカでもコミックアーティストは常に締切に追われ、あまり健全でない生活を送っていると思われているので、仕事とプライベートの両立やより良い作品作りについて若手に教えていきたいです。これは北米だけでなく、日本でも考えて欲しいと思います。次々に新刊が発行される日本の漫画業界のペースは作家の立場からすると非現実的で、それを感じている若い世代が漫画家を目指さなくなっていることが業界内で問題視されているようです。
制作過程で行き詰まった時は、どうのように気分転換やストレス解消されるのですか?
映画を観たり、本を読んだり、ミュージアムに行ったり、子供たちを眺めたり、ただ机から離れます。でも、いつも何を描くか頭の中でイメージして、ただひたすらストーリーを考えたり、顔とか風景を何枚も描き続ける練習を繰り返します。ストーリーが決まるまで2、3週間掛かったりしますが、実際に作品を描く時には30分で20ページぐらいは描き上げることができます。
絵の学校ではなくFilm Schoolに進学されていますが、どこで描く勉強をしましたか。
自分で本を読んで練習したりもしましたが、友人が最高の先生でした。高校時代に出会った友人がアーティストとして活躍していたのはとても運が良かったと思います。お互いにいろいろと話し合い感化し合い、その中でいろいろなものを得ました。最高のアーティストを知るということは若いアーティストにとって成長するための最適な方法だと思います。
アーティストとして自身が伝えたいこととプロとして作品を売ることのバランスはどのように考えていますか?
私の場合は、他の作品を読んだことのある読者が私の作品だから、と新作を購入してくれる場合もありますが、もしそこで期待を裏切るとただ面白くない作品よりも印象が悪くなってしまうこともあるでしょう。何が売れるかは誰にもわからないことで、それを考えると逆に売れなくなってしまうと思います。なので私は自分の作品を自分が読んでも楽しめるように作ることを心掛けています。
今後どのような活動を考えておられますか。
Amuletシリーズは9作目で終了して、次のシリーズへ向けて準備を進めています。そしてAmuletの映画化のプロデューサーもさせていただくことになりました。1作目がうまくいけば、9作全て映画化できるかもしれません。
最後に、ワーキングホリデーとして夢を追いかけるTORJA読者にアドバイスをお願いします。
まずは好きなことと仕事を分けて考えてください。そして仕事を通して好きなことに取り組むようにすれば、仕事が好きになると思います。漫画を読むのが好きだから漫画家になろう、好きなことを仕事にしよう、というのは必ずしもうまく行くわけではありません。漫画を読むのと描くのは全く別物だからです。実際、今の私は漫画を読むのはあまり好きではありませんが、映画を観るのは大好きで、映画のワンシーンを切り取るように漫画を描くのは大好きです。好きなことと仕事の距離を取ることでより冷静になれ、仕事についてしっかり理解することができますよ。



Kazu Kibuishi
boltcity.com
作家・イラストレーター。1978年東京に生まれ、5歳の時に母と兄弟と渡米。カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業。仕事のためロサンジェルスへ移住し、現在はグラフィック小説家として活動中。