フランス在住和菓子職人 村田崇徳シェフに聞く「和菓子と日本茶が結ぶ文化と思い」|特集「日本茶祭り2025 見どころガイド」
フランスを拠点に活動する和菓子職人・村田崇徳シェフ。1回目から「日本茶祭り」に参加し、和菓子と日本茶を通して文化を伝える役割を担ってきた。そして今年も登場し、デモンストレーションや和菓子作りを通してその魅力を紹介する予定だ。お茶と菓子の調和を「マリアージュ」と表現し、「人と自然の調和」へと重ねるその哲学には、職人としての誇りと、人と人をつなぎたいという願いが込められている。
文化を結ぶ味わい村田シェフが紡ぐ和菓子と日本茶
フランスを拠点に活動する和菓子職人・村田シェフは、これまでに第1回・第2回とトロントで開催された「日本茶祭り」に参加してきた。彼の記憶に強く残っているのは、カナダに暮らす人々が心から日本文化を楽しみ、触れ合っていた光景だという。
「和菓子を知っている方はいましたが、どんな材料や道具を使って作られているのかはまだ知らない方が多い。だからこそ、和菓子の意味を伝えながら説明する必要があると感じました」と振り返る。多文化都市トロントならではの反応に、和菓子職人としての使命感を新たにした瞬間だった。
和菓子と日本茶は切っても切り離せない関係にある。村田シェフは、そのつながりをフランスでよく使われる言葉「マリアージュ」で表現する。
「お茶の苦味や渋みと、和菓子の甘味が合わさることで、味だけでなく精神的にも和みが感じられる」と語るように、彼にとって両者は単なるペアリング以上の存在だ。茶道の精神に通じる「和敬清寂」という言葉を引き合いに出しながら、「人と自然が調和すること」に重ね合わせる姿勢は、まさに職人としての哲学を映している。
理想のマリアージュについて尋ねると、村田シェフは「心のこもった和菓子と心のこもったお茶」と静かに答えた。そこにあるのは技巧的な組み合わせではなく、相手を思いやる気持ちとおもてなしの心だ。


文化の継承者として和菓子に込める願い
さらに彼は、和菓子を通して日本茶の魅力を伝えることの価値を「文化の継承者」「五感の演出家」「心の交流の場を生み出す人」としての使命に重ねる。それは、和菓子職人という職業の根幹に深く関わることだと考えている。
現代社会では、人と人との会話の時間が失われつつある。村田シェフは「若者を中心にコミュニケーション力の低下が課題になっている」と憂いながらも、フランスのカフェ文化を引き合いに出す。そこでは朝の挨拶やご近所同士のちょっとした会話が当たり前に交わされている。
「だからこそ、和菓子とお茶を通して少しでも会話が生まれる時間をつくり、心が和むひとときを届けたい」。その言葉には、職人である前に一人の人間として、和菓子に託す願いが込められていた。
All Photos by Yosuke KOJIMA
村田 崇徳(むらた たかのり)
和菓子職人。愛知県出身。東京製菓学校を卒業後、地元・愛知や京都で修行を積む。幼少期より和菓子作りに親しみ、60年以上続く和菓子店の環境で自然と職人としての道を志すようになる。
2005年に渡仏し、日本料理店「あい田」の開店時より3年間デザートを担当。その後帰国し、実家の和菓子店で技を磨くかたわら、母校・東京製菓学校とともにヨーロッパでの普及活動に携わる。これまでにパリをはじめ、ブルガリア、ポーランド、チェコ、スロベニア、ハンガリーで和菓子講習会を実施し、各国に和菓子文化を紹介してきた。
2011年7月には相田氏(「あい田」オーナー)とともに「和楽」をオープン。2016年には自身のブランド MARUTOMI PARISを立ち上げ独立。同年、パリの「パティスリーTOMO」の開店にも協力した。2017年にはラボを郊外へ移し、製造販売体制を整え、現在もフランスを拠点に和菓子の魅力を広め続けている。