レンズの先に、自分がいる。カメラが導いた新しい表現。フォトグラファー 小島勝弘さん|CANON ×TORJA
デジタルの時代に、人の気持ちを写すことが、どれほど豊かなことかを思う。写真一枚が語る“共感”、映像がつなぐ“記憶”、プリントが残す“つながり”。それは、言葉を超えた、感情の共有のかたち。このシリーズ企画では、SDGsの時代において、デジタルイメージングが人の感性や暮らしに寄り添い、持続可能な幸福やつながりをどのように育んでいけるのかを探っていきます。カメラのシャッターを切る瞬間に、心が震える。小島勝弘さんにとって写真は、自分を表す大切な手段。光や影、空気や感情を丁寧にすくい取り、被写体の素顔を写し出す。色のぬくもりや雰囲気にこだわって撮る一枚一枚に、かっこよさとやさしさが宿っている。
音楽からカメラの世界へ

20代はDJとしてアメリカのクラブを回ったり、現地のDJを日本に招いてパーティーやイベントを企画するなど、音楽業界に深く関わっていました。
最初にカメラを買ったのは、30歳になる少し前でした。当時はまだ音楽をやっていたんですが、自分の中で葛藤があったんです。20代の中盤、26〜27歳くらいの頃がDJとしての全盛期だったと思うんですけど、その「最高のプレー」を超えられない葛藤を自分で抱えていました。

そして30代に入って、自分の活動に迷いが出てきたんですよね。「何か新しいことを始めてみようかな」と思っていた頃に、ニューヨークでの滞在があり、街を歩きながら「この景色を撮りたい」という気持ちが出てきて、そこから少しずつ写真にのめり込んでいきました。
最初にカメラを使った時の感覚をすごくよく覚えています。「カシャッ」というあのシャッター音がすごく気持ちよくて。その瞬間に自分の中で「これ、いいな」と思ったんです。
ニューヨークの街を撮りながら、「これだ」と思える感覚があったんです。自分の中でフィットするものが新たに見つかった感じでした。最初は何となくの好奇心でしたけど、気づいたらそこに表現の軸が移っていったというか。音楽で作っていた「空気感」を、今はカメラで表現している。そんな感覚です。

写真を学べば学ぶほど、音楽と共通している部分があることに気づいたんです。光のリズム、構図のバランス、間(ま)の取り方――全部、音の世界と通じるところがある。DJで培った感覚やセンスを、自然と写真に生かしていると思います。
DJの頃から「視覚的な感性」を常に意識していたわけですが、昔からレコードを買っていたので、ジャケットのデザインを日々見ていたんです。あのアートワークって、音の世界をビジュアルで表現しているじゃないですか。そこから受けたインスピレーションは大きいと思います。
相棒はキヤノンR6とR6 Mark II
もともとは他メーカーを複数使っていたのですが、次第に“色味”が少し気になり始めて。いろいろ調べていくと、キヤノンが「肌の色がきれいに出る」「ナチュラルで柔らかいトーンになる」と評価されていることを知りました。
それからはずっとキヤノンです。もう完全に“色味”ですね。今ではこの「Canon EOS R6」「Canon EOS R6 Mark II」 一択です。これが僕の“相棒”みたいな存在ですね。
「R6 Mark II」は、撮影時に焦点距離のミリ数が画面に表示されるので、それを見ながら感覚的に調整できるので、現場ではすごく助かります。「R6」と画素数の違いはそこまで大きくないんですけど、操作感や細かい部分の精度が高まっていると感じます。
余談ですが、撮影中にちょっとしたハプニングがあって、1台がコンクリートの上にポロッと落ちて…。「やってしまった…!」と思いましたけど、電源を入れたら普通に動いたんですよ。あのときは本当に驚きました。キヤノンって、ボディも頑丈なんだと安心できました。
また、レンズは標準と望遠、ポートレートやヘッドショットのときには、85ミリの単焦点を使います。状況に合わせて3本のレンズを使い分けています。
単焦点レンズは焦点距離が固定でズームができないんですけど、そのぶんすごくシャープに写って、写真のクオリティがぐっと上がるんですよね。ズームレンズで撮った写真とはまったく違う写りになります。きっと写真が好きな初心者の方でも「うまくなった気がする!」と当時の僕のように思えるかもしれません。そして、その感覚がすごく気持ちよくて、そこから写真を撮るがどんどん楽しくなると思います。
オート撮影から始めるのでも良いと思います。慣れたら一歩踏み込んで設定を自分で変えながら撮ると、同じ被写体でも全然違う表情になるんです。明るさ、シャッタースピード、焦点距離。そういうひとつひとつを自分で調整して撮るのは、まるで“写真を描く”ような感覚です。そして、レンズごとに個性がある。同じ場所でも、レンズを変えるだけで写真の印象がまったく違ってくるんですよ。
あとは、撮るときの“シャッター音”。あの「カシャッ」という音がたまらない。撮っているときの高揚感というか、あれがもう楽しくて仕方ないです。
スマホでは撮れない、ミラーレス一眼の魅力

このレンズを使って、どの距離で、どんな光の具合で撮るか。被写体との距離感や空気の密度まで、自分の手で調整しながら撮れるのが、やはりカメラの魅力です。
スマホでは撮れない感覚を表現するなら、やっぱり“深み”ですかね。スマホのカメラも優秀になってきていますけど、それでも一眼で撮った写真には空気感や奥行きがある。同じ景色を撮っても、ちゃんと“その場の空気”が写る感じがするんです。

確かに一眼は重たいし、持ち運びも大変です。でも、便利になりすぎると、逆に面白さが減っていく気がします。だから僕は、わざわざ重たいカメラを持って出かけて、レンズを替えて、光を探してなど、その“ひと手間”が好きなんです。
その面倒くささの中に、喜びがある。それが、カメラで撮ることの楽しさでもあると思います。
Kojima’s Favorite Photo

レンズ: RF 85mm F1.2L USM
絞り: F2.0
シャッタースピード: 1/4000
ISO: 100
カナダとわたしとカメラ

たとえば家族撮影やウェディングのほかに、「こんな撮影もあるんだ!」というようなリクエストが来る。宗教的なイベントもそうです。文化の違う人たちのセレモニーを撮らせてもらう機会もありました。日本ではなかなか見られない光景など、そうした現場に立ち会えるのは本当に刺激的です。自分では普段行けないような場所に行けるのも、この仕事の面白さですね。
これまでに「海外で活躍する日本人」というプロジェクトをやったり、街を歩きながら、「あ、今撮りたい」と思った瞬間にシャッターを押すストリートフォトをインスタグラムなどのSNSで公開してきました。
ポートレートが“人との対話”なら、ストリートは“自分との対話”としてカメラライフを楽しんでいます。


自分の写真は「かっこよさ」と「優しさ」が共存していると思います。たぶん、それは僕自身なんですよね。自分の中にある、ちょっとした“優しさ”と、少しだけ“かっこつけたい”気持ち。その両方が写真に出ているんじゃないかなと思います。
センスも含めて、写真にはその人の人間性が映る。だからこそ、僕にとってカメラは“自己表現の道具”です。言葉では伝えられないことを、光と影で表す――そんな感覚ですね。
写真の良いところは、国籍関係なく、誰にでも見てもらえる。写真って“共通言語”だと思うんです。見る人に伝わる、感じてもらえる。だから、僕にとっての自己表現は今はカメラなんですよね。写真って、みんな興味を持ってくれるじゃないですか。
どんな国の人でも、好きな写真を見ると自然に心を惹かれるものです。だからこそ、自分の作品も言葉を超えて多くの人に届くと感じています。
Kojima’s Favorite Photo

レンズ: RF70-200mm F2.8L IS USM
絞り: F5.6
シャッター
スピード: 1/10
ISO: 100

Portrait Photo

k.katsustudio














