「美容師とソムリエ、二つの情熱が交差する人生のピボット」ワインソムリエ・インストラクター長岡裕司さん(中編)|Hiroの部屋

トロントで生まれ、日本での大学生活を経て再びカナダに戻った長岡さん。飲食業に魅了され、英語の壁や文化の違いを乗り越えながら高級レストランでキャリアを積み、やがてワインの世界へと歩みを進めていきました。努力の末に国際的な資格を取得し、さらには家族との時間を優先する決断を下した2019年。まさに人生の大きな転機を迎えた矢先、世界を揺るがすパンデミックが到来します。

ユウジ: パンデミックの影響は大きかったです。あの時、仕事がすべて止まってしまいました。だからこそ今は「オファーは全部受けよう」と決めて、レストランの仕事もセールスも、教える仕事も一気に取り組みました。失ったものも大きかったですが、新たなチャンスも生まれたと思います。

ヒロ: なるほど。逆境が成長のきっかけになったわけですね。

ユウジ: そうです。ひとつに集中しすぎると、何か起きた時に全部失ってしまう。だから、あえて分散させるようにしています。レストランをしながら販売をやったり、講師の仕事をしたり。そうすることでリスクを和らげられると思うんです。ヒロさんはどうですか?

ヒロ: 僕は30代半ばまで、サロン勤務の「美容師」を核としながら、幅を広げようと努めました。例えば、ヘアショーや撮影、メイクなどです。でも経験を積むほど「僕には違う」と気付きました。サロン外の仕事を頑張るほど、サロンの大切な顧客様方のニーズに応えれないと。
その後、自分でオリジナルの内容や時間管理もする独特なキャリア作りを始めました。例えば、2015年頃から日本の美容学校やサロンでのセミナーに加え、東京都立大学や立命館大学、京都外国語大学などで一般の大学生向けの講義も行いました。
また、慈善活動にも力を入れております。以前からトロントや日本で義援金集めやヘアドネーションをしていましたが、コロナ禍以降は休暇中のグアテマラやドバイのサロンに飛び込みボランティアでヘアカット技術の披露もしました。更に、このTORJAの連載もその1つです。自分の友人やお客様で、異業種の著名人や、一般人でも情熱を持って邁進される方々にご登場いただいております。一般的なサロン外の仕事と違い、とてもユニークだと思います。
結果、30代半ば以降は核である「美容師」を軸として、ヒロ流のピボットしながら「人」としての引き出しを増やせたのだと思います。自分好みで仕事とプライベートの境界線を曖昧にして、旅での経験なども仕事の肥やしにする。年齢と共に経験や知識、人脈、自己理解が深まり、昔のように長時間や数を強いることなく、人生の質(クオリティー)を高められるようになったと思います。
ユウジ: 僕がいちばん好きなのはやっぱり接客なんですよね。ただ、20〜30代はがむしゃらにやってきた分、今は「選べる」ようになりました。生活の基盤はセールスで固め、その上で「やりたいからやる」を選択できる。
昔は休みも返上して働いていましたが、今は時間の使い方を自分で決められる。結果として、たぶん昔より働いているのに、しんどくないんです。週60〜70時間働くこともありますが、それは自分で選んだ、楽しくて得意な仕事だから。自分で選び、自分の裁量でできる立場になれたことが、このキャリアでいちばん大きいです。
プライベートも同じです。以前はレストランの勤務形態上、運動したくても難しかったけれど、今は週2回サッカーができる。働く時間は昔と同じか、むしろ増えているかもしれないけれど、自分の時間も同じくらい確保できるようになりました。誰かに決められたスケジュールではなく、自分で決めたスケジュールで動けます。そのバランスが心地いいんです。

ヒロ: キャリアとの向き合い方や情熱は人生のステージの変化しますよね。お子さんの存在も大きいですよね?

ユウジ: 子供から学ぶことって、やっぱり「子供は親の鏡」ということですね。自分を映している存在だなと感じます。だからこそ、子供のため、家族のために頑張ろうと思える。自分がだらしなければ、子供もそうなる。立派な大人を演じるわけではないけれど、やっぱり「父親が頑張る姿を見せなければ」と思うんです。つまり責任感を学んでいるということですね。子供と一緒に成長している感覚です。
ヒロ: 僕は未経験なので新鮮です。今、10代のお子さんを育てている時しか学べないことがあるわけですね。小さい頃には想像もできなかったことなど。

ユウジ: そうですね。コミュニケーションを通して一緒に成長していく。「子供はこういうことを考えているんだ」と気づくたびに、自分も新しく学んでいます。
親から衝撃を受けたこともあります。子供の頃、ずっと「勉強しろ、勉強しろ」と言われ続けていたんです。なぜそこまで言うのか聞いたら、両親は高卒で「自分たちには分からないから、とりあえず勉強しろと言うしかなかった」と。大学に行くことがどういう意味を持つか分からない。でも「あなたはできるはずだから、とりあえずやれ」と。それを聞いたとき、「親も分からないことがあるんだ」と気づいたんです。
親って何でも知っている存在だと思っていましたが、実際はそうではない。親も初心者であり、学びながら進んでいる。そう思ったら肩の荷が下りて、気持ちが楽になりました。親もまた成長していく存在なんだな、と。

ヒロ: なるほど、本当に興味深く素晴らしいお話ですね。
(聞き手・文章構成TORJA編集部)
長岡 裕司さん
トロント生まれ。日本で筑波大卒業後にカナダへ戻り、国内有数の飲食企業にてキャリアを積む。複数のレストランでソムリエとして、ワイン販売の営業、ワイン講師など、ワイン産業の幅広い分野で活躍している。
Hiroさん
名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。NYの有名サロンやVidal Sassoonの就職チャンスを断り、世界中に展開するサロンTONI&GUY(トロント店)へ就職。ワーホリ時代から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再びトロントのTONI&GUYへ復帰し、北米TOP10も受賞。2011年にsalon bespokeをオープン。今もサロン勤務を中心に、著名人のヘア担当やセミナー講師としても活躍中。世界的ファッション誌“ELLE(カナダ版)”にも取材された。salon bespoke
130 Cumberland St 2F647-346-8468 / salonbespoke.ca
Instagram: HAYASHI.HIRO
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