「あの頃の延長線上に、今がある。」ワインソムリエ・インストラクター長岡裕司さん(後編)|Hiroの部屋

長年の友人であるヒロさんとユウジさん。人生の節目を迎えた二人が、日本への思いとこれからの生き方を語り合う。
40代からの「日本再考」


ヒロ: ユウジさんは20代でトロントに戻って、飲食業で働きながら、さまざまな方々と関わる機会も多かったと思います。カナダの多文化主義や、特にトロントの多様性について多くを感じたのではないでしょうか。40代になり、経験と知識が深まった今、日本人としての意識や日本への思いにも変化はありますか?

働き方も「多様」で、僕はいまフリーランス的に働いていますけど、日本では副業や複数のキャリアを持つことが、まだ難しい印象があります。最近少しずつ変わってきていますけど、まだまだ一つの会社に縛られている人が多くて、そこにある「チャンスの少なさ」をもったいないなと感じます。
一方で、多様だからこそ、自分が「ジャパニーズ」であるという意識が自然と強くなります。経済の面では、かつての「ジャパン・イズ・ナンバーワン」ではなくなったかもしれませんが、日本が持つ文化や観光、特に食の分野は今も唯一無二だと思っています。日本に行って「がっかりした」という声を聞いたことがほとんどない。本当に誇りに思えることですね。
ヒロ: やはり、僕も日本が大好きなんですよね。だからこそ、「もっと頑張ってほしい」という、応援したい強い気持ちです。ただ、正直いろいろと心配でもあります。両方の気持ちが入り混じる、複雑な心境です。
ただ、ポジティブに言えば、日本は「流行すると一気に広がる国」です。NISA等も最初は慎重でしたが、少しずつ一般的になると、一気に常識のように広がった印象です。教育、社会、経済などあらゆる分野で、こういう日本人の性質が機能して改善すれば、国力はさらに上がる期待しています。
もちろん、少子高齢化、人口減少、貧困、環境、教育の問題、外国人労働者の増加など、多くの課題に直面していると思います。でも、日本は変化と努力を重ねながら、前進している。今は、ターニングポイントかもしれません。
僕が講師として働くのは、日本人に少しでも国際的な感覚を感じながら、視野を広げてもらいたいと思うからです。また、日本から世界に発信できる人も増えてほしいです。このTORJAの連載もその一環で、微力ながらも日本へのお役に立てれば幸いです。


ヒロ: こういう話をすると、僕たちも人生の折り返し地点に差し掛かってきたと感じます。とはいえ、いまは「人生100年時代」とも言われる時代。まだまだ続くこれからの人生をどう生きるか、次の目標や挑戦、やりがいをどう描くかは、本当に大事だと思うんです。

ただ、現実を見ると簡単ではないですよね。たとえば、以前「このポジションに就けたら理想だな」と思っていた役職の人が、突然クビになったりする。そういう現実を目の当たりにすると、「安定って何だろう?」って考えさせられます。
今の仕事も、自分にとっては新しいチャレンジです。新しいことに手を伸ばすと、また次の話やチャンスが自然とやってくる。そうやって経験を重ねながら、それが次につながればいい。結果的に、50代・60代で少し心に余裕のある時間を持てるようになれたらいいなと思っています。

ヒロ: 人生は、山登りみたいなものなんでしょうね。目の前の山に山頂に立ち初めて、その先のさらに高い山が見える。同じように、ひとつの困難や経験を越える。その時、次に見据える景色へは、さらに険しい道のりだが、きっとより美しい。だからこそ、焦らず、でも止まらず、前に進み続けることが大事なんだと思います。

今だからこそ、2人の言葉にも重みが増し、ワインのようにご自身がより成熟したユウジさんの考え方が伝わりました。数年待って、本当によかったです。とても嬉しいです。
ユウジ: 昔も、もちろん頑張っていた。けど、今はもっと人生経験を積んで、より力強く自分の足で立っている。今日はそんなふうに感じてもらえたら、僕も「あのときでなく、良かったな」と思えますね。自分で時間をかけて熟成してきたからこそ出せる、言葉や表情がある――まさにそんな瞬間を、今日ヒロさんとの会話で感じました。

(聞き手・文章構成TORJA編集部)
長岡 裕司さん
トロント生まれ。日本で筑波大卒業後にカナダへ戻り、国内有数の飲食企業にてキャリアを積む。複数のレストランでソムリエとして、ワイン販売の営業、ワイン講師など、ワイン産業の幅広い分野で活躍している。
Hiroさん
名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。NYの有名サロンやVidal Sassoonの就職チャンスを断り、世界中に展開するサロンTONI&GUY(トロント店)へ就職。ワーホリ時代から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再びトロントのTONI&GUYへ復帰し、北米TOP10も受賞。2011年にsalon bespokeをオープン。今もサロン勤務を中心に、著名人のヘア担当やセミナー講師としても活躍中。世界的ファッション誌“ELLE(カナダ版)”にも取材された。salon bespoke
130 Cumberland St 2F647-346-8468 / salonbespoke.ca
Instagram: HAYASHI.HIRO
PV: "Hiro salon bespoke"と動画検索
















