【第50回トロント国際映画祭インタビュー】『JUNK WORLD』堀貴秀監督|トロント国際映画祭|特集インタビュー

口笛奏者のひとりとして出演している武田裕煕さんに、『Whistle』の制作の経緯や口笛奏者として思いを伺った。
今年のトロント国際映画祭(TIFF)では、ミッドナイト・マッドネス部門でストップモーションアニメ映画『JUNK WORLD』が上映された。前作『JUNK HEAD』がカナダでは2017年と2021年のファンタジア映画祭で上映され、日本国内では2021年に劇場公開となり、一躍評判となったジャンクシリーズ。その待望の第2作が、満を持してTIFFに登場した形だ。北米プレミアとなった真夜中の上映が大盛況に終わった翌日、堀監督にお話を伺った。
『JUNK HEAD』から『JUNK WORLD』に至る制作の経緯

―今回、この映画がどのように始まったのか、制作の経緯を教えてください。
『JUNK HEAD』のときは自分自身に映像経験がまったくなくて、40歳くらいまで芸術家を目指して内装業の仕事をしながらずっと生活していたんですけれども、40歳手前になって急に映画を作ろうと思い立って、30分くらいの短編をとりあえず作ったんです。『JUNK HEAD』の冒頭の部分なんですけど、短編として仕上げたら、フランスのクレルモン=フェラン国際短編映画祭で賞を取ったり、日本の短編映画祭で賞を取ったりして。それをYouTubeにアップにしたら、いきなりハリウッドの製作会社の人から連絡が来たりして、結構評判になりました。
でも、自分が英語をまったくしゃべれないので、ハリウッド関係を全部スルーしてしまいました。そこに日本の会社からお金を出すという話が来て、30分に60分くらい足して長編にして『JUNK HEAD』ができたんです。それも結構評判になって、そこから作品ができたんですが、出資会社の人と意見が合わず、その映画を4年間くらい公開できなかったんです。その間に今のアニプレックスさんという会社がお金を出すという話になって、『JUNK WORLD』が作れました。
―40歳くらいになって映画を撮ろうと思ったということですが、それまでに映画監督になりたいと思っていたわけではないのでしょうか。
勉強もしておらず、知り合いもいなかったので、映画を作れるとはまったく思っていませんでした。その頃、新海誠監督が一人で短編アニメを作ったというのがニュースになっていたんです。映画って一人で作れるんだというのをそのときに初めて知って。自分はCGやアニメの知識はなかったけど、作品で操り人形を作っていたんです。そういうのを動かせば映像になるんじゃないかと思い始めて、ストップモーションなら簡単にできそうだなと思って作り始めました。
『JUNK WORLD』の映画制作について

―今回『JUNK HEAD』から『JUNK WORLD』へと、続編を作るにあたって苦労した点や、技術的に進化した点があれば教えてください。
『JUNK HEAD』のときは人形を一個作るにも粘土で原型を作って石膏で型を作ってといったアナログ作業でした。その後ちょうど3Dプリンターの技術が発達してきて、今回はパソコン上で3Dでモデリングをして3Dプリンターで出力するプロセスで、本当に粘土を一度も触ることなく人形を作りました。造形面ではそれが一番大きいですね。3DCGで動くような人形はコマ撮りではなくCGで表現するとか、そういうところで手間やコストを下げていった感じです。
―今回、前回と違って難しかったところはありますか。
3Dの技術をゼロから覚えたので、3Dプリンターを使うにしても失敗が多く、使い方を一から勉強するところから始める難しさがありました。
全体的に予算が少なすぎて、『JUNK HEAD』のときは平均3人くらいで作ったんですよ。今回、多少予算は上がったんだけど、それでも6人くらいしかいなくて。専門分野もなく、みんなが何でもやるみたいなやり方も、スタッフには苦労が多かったと思います。
―今回新たに登場するキャラクターや設定で、特にこだわった部分があれば教えてください。
今回もやはり、あのスケールの映画を表現するには圧倒的に予算がなかったので、時間を繰り返す設定でセットを使い回す手法、キャラを再び登場させるみたいな手法で予算を節約した部分が大きいです。
―今回、3名から6名へとスタッフが2倍になった分、変わった点がいろいろあるのではないでしょうか。
そうですね。やはりCGを入れた点が大きいです。ただ、6人とも基本的にみんな初心者で、映像経験のない人間ばっかりだったので、集まってから「君ちょっとCGを覚えてよ」みたいな感じで、始まってから覚えてもらいました。結局、相変わらず素人の集団で作った感じで、セリフもスタッフで入れていきました。
―メンバーが増えて、人が多くなるとそれだけコミュニケーションも大変になったのではと思います。大変だったところと、逆に楽になったところがあれば教えてください。
自分がこう言ったつもりでも、出来上がったものは結局通じていなかったのでやり直し、みたいなことは結構多かったです。それを差し引いても、全部自分がやっていたら本当に10年20年とかかる映画が3年でなんとか出来たというのは大きいんです。ただ、行き違いでストレスがかかるところもかなりあって、結局、今回のスタッフがみんな辞めてしまいました。
三部作の完結編となる次回作について

―じゃあ次が本当に大変ですよね。
そうですね、もうどうなるんだろうっていうところまで来ています。でも、どうなるんだろうっていうところも、ファンのみなさんには楽しんでもらおうかなと思っています。
―その辺も発信しながら作っていくのでしょうか。
結局、作る段階からエンタメとして表現していくことを考えています。今もう結構カルトっぽい感じの存在になってきちゃって、ファンには熱い人が結構多くて。映画が完成して楽しむんじゃなく、制作中も楽しめる感じの雰囲気にしようかなと思っています。
―次回作は、いつまでに完成しなければいけないといった期限はあるのでしょうか。
本当は、2028年の頭にアニプレックスさんに納めると契約で決まっていたんですけど。それが決まった後にスタッフがみんな辞めてしまったので、とりあえず今は契約がストップの状態になっています。あと3年、みんな辞めちゃって予定が見えなくなってしまったので、態勢を立て直してうまくできるかどうか。自分としては、2028年はもう無理だなと思っているので、たぶん1年か2年伸ばしてもらうことになります。
次回はもう少し心の余裕を持ちながら作れる態勢にして、それでOKならまたお願いできるかなという段階ですね。
今後の映画作りについて
―もともと内装業をされていたというお話でしたが、それと、あれほどいろんなクリーチャーや物語世界を作っていくことは、関連しているのでしょうか。
映画を作るまでにいろんなものに手を出していて、絵を描いたり彫刻をやったりマンガを描いたり、ディズニーランドの建設に関わったりしてきました。セットを作るのは、結局ああいうちょっと変わった古びた塗装を小さくするだけなので、もうすごくすんなりできるんですよ。全部の技術が映画のために役に立っている感じですね。
―そうやって、ものを作りながら映画を作っていくスタイルで、今後も続けていくのでしょうか。なんとなく、それだけいろいろできたら実写映画も普通に作れそうに思えます。
そうですね、やっぱり実写映画には挑戦したいところです。もともと実写映画が好きで実写映画を作りたいっていうのがあって、今の自分にはその知識がないのでとりあえずコマ撮り映画を作っているだけなんです。コマ撮り映画に可能性は感じているので、それはそれでやりたいんですけど、実写もやりたいです。やっぱり映画業界的に、実写のほうが自分のイメージでも格が上なんですよね。大きい映画祭でも、実写映画ばかりじゃないですか。実写映画でとりあえず一本面白いものを撮って実力をアピールしたい、みたいな思いはちょっとあります。
―それは、次回作の完結編が終わってからの話になるのでしょうか。
同時進行で、もう作りたい映画のストーリーはいくつか考えていて、次回作も準備しつつって感じですね。
国内外での上映に際しての反応や違いについて
―『JUNK WORLD』がTIFFのミッドナイト・マッドネス部門に出品された今の心境を教えてください。
海外映画祭で、これだけ大きいトロント国際映画祭に来られたので、これからの可能性に期待してしまいます。
―日本国内と海外の反応で、何か違いがあったりしますか。
国内では評価自体はすごく良かったんですけど、興行的にはまだまだで、その辺が不思議なところでした。自分としては、今回の『JUNK WORLD』は海外のほうが合うのかなという気がしていたんです。だからどちらかというと、今後の海外展開に期待しています。
トロントの読者へのメッセージ
―最後に、トロントの読者にメッセージをお願いします。
自分が作品を作るときは、これが最後かもしれないと思いながら取り組んでいるので、次は、今回の『JUNK WORLD』の海外の反応次第かなと思っています。トロントから何かが始まればいいなと思っているので、応援してもらえると嬉しいです。
1971年、大分県生まれ。大分県立芸術緑丘高校卒業後、内装業のかたわら2009年に短編映画『JUNK HEAD 1』の自主制作にとりかかり、2013年に完成。2015年から制作開始した長編映画『JUNK HEAD』が2017年に完成するが、2021年に劇場公開に至る。2022年から制作開始した長編第2作『JUNK WORLD』が2025年に公開され、TIFFで北米プレミアとなった。地上が汚染され、人類は地下に暮らす近未来。労働力として開発された人工生命体マリガンが人類に反乱を起こした末に停戦協定が結ばれていたが、地下世界に異変が発生。人間とマリガンによる共同調査チームが結成される。前作『JUNK HEAD』の前日譚となるシリーズ第2弾。
監督: 堀貴秀
出演(声): 松岡草子、堀貴秀、三宅敦子、杉山雄治、井戸田郁也
















