株式会社 良品計画 松﨑 暁 代表取締役社長 インタビュー
松﨑 曉(まつざきさとる)
1954年生まれ。78年西友ストアー(現合同会社西友)入社、05年良品計画入社。執行役員海外事業部中国担当部長、専務取締役、海外事業部長を経て今年5月より現職。
Yorkdale Shopping CentreにMUJI3号店がオープン!
2014年にカナダ1号店となるMUJI Atrium店のオープンを皮切りに、昨年はミシサガのSquare One Shopping Centreに第2号店をオープン。「生活に必要なものを必要な形で作る」というMUJIのコンセプトに加えて、生活のすぐそばにあるMUJIの存在がカナダの人々からも着実に支持を集めている。そんな中、今年10月、ついにトロントはもとよりカナダ最大規模とされるYorkdale Shopping Centreに第3号店がオープンした。
新サービスを導入した期待の店舗オープンにあたり、毎回オープニングに日本から駆けつけている株式会社良品計画の松﨑暁社長に、MUJIカナダとしては最大規模の店舗について、そして新たに導入されたMUJIらしいサービスの誕生秘話、さらには来年バンクーバーでの出店などと噂されている中での今後のカナダでの成長戦略や展望などについて伺った。
MUJIカナダ最大規模となる3号店が、今一番注目されているYorkdale Shopping Centreについにオープンしました。新しいサービスも展開されるということで、改めて意気込みをお聞かせください。
第1号店のAtrium店そして2号店のSquare One Shopping Centre店に続き、カナダの中でもベストショッピングセンターの1つであるYorkdale Shopping Centreには出店したいと思っていました。これまでカナダでオープンした2店舗よりもさらに広く、皆様に最新のMUJIを体験していただける十分なサイズとなっています。日本で展開している無印良品の最新店舗、最新の製品を海外のMUJIに持ってきたいと私は考えています。新しく展開されるサービスもその一つで、やはり日本と同じサービスを展開しないと海外のお客様は満足されないだろう、との思いがあります。できるだけ新しいコンセプトを持って来たい、という思いが詰まった店舗です。
新サービスの一つである刺繍サービスは、早速人気を集めているようです。「無印」の商品を個人がカスタマイズできるこのサービスは、どのように生まれたのでしょうか。
そもそも無印良品は、必要な機能だけをお客様に提供し、無駄なものは排除する、というコンセプトからスタートしました。ですから、無印良品創業時代の精神、という観点でいえば刺繍サービスは生まれなかったと思います。1983年頃、無印良品では、赤ちゃんのよだれかけに使えるガーゼを販売しました。当時、百貨店等ではガーゼに刺繍やアップリケを施した製品を販売していましたが、無印良品では、必要な機能だけをお客様に提供する、という考え方から刺繍やアップリケの入っていないガーゼだけをより低価格で販売したのです。刺繍やアップリケは、各家庭でお客様ご自身で施してもらった方が良い、要は、当時の無印良品は商品の使い勝手をお客様に委ねる、という考え方でした。
ところが今は、ご両親ともに働いていてご家庭でアップリケや刺繍を一つ一つ施す、という時間が中々とれないことも多い時代です。社会の変化に伴い、刺繍を無印良品で施す、というサービスが今こそ必要だろう、そういった想いから刺繍サービスが誕生しました。ですが、このサービス開始に際しては社内で喧々諤々の議論がありました。これが果たして無印良品の提供すべきサービスなのか、という意見が相当数あったことも事実です。それでも、やはり時代は変化していますので、変化に即した合理的なサービスとして提供していこうということになりました。
インテリア・アドバイザー、スタイリング・アドバイザーの店舗常駐も新サービスとして導入されましたが、先ほどのお話にあった「必要な機能だけを提供する」というコンセンプトから考えると、一歩踏み込んだ考え方から始められたサービスなのでしょうか。
我々は、「商品を売る」、ということではなく「暮らし方を提案する」ことを大切にしています。どういう生活をお客様が送りたいのか、そしてその暮らしにMUJIの商品がどのように関わっていけるのか、という形でサービスを展開していきます。
現在、日本ですとインテリア・アドバイザー、スタイリング・アドバイザーに加え、食品の試食をお客様に勧め、商品の説明をするテイスティング・アドバイザーのサービスも開始されています。各アドバイザーのコンサルティングを通して、お客様がMUJIの商品で暮らしをより良くカスタマイズできるという点で、おもてなしですとかホスピタリティーのサービス拡充という意味でも期待の新サービスとなっています。
日本ではMUJIパスポートなどのアプリサービスも好評と聞きました。時代はどんどん変化し、今やサービス産業もITや人工知能の導入について様々な議論がされていると思います。そういった時代の変化の最中で、人によるサービスと、ITや人工知能によるサービスの融合については、御社ではどのように考えられているのでしょうか。
まず、アプリとしてダウンロードできるMUJIパスポートは我々にとって非常に武器となる存在になっています。例えばインテリア・アドバイザーによる相談会は、MUJIパスポートを活用して予約ができます。昔は電話で予約をとっていたのですが、今はMUJIパスポート上にインテリア・アドバイザーのスケジュールが出るようになっており、お客様が簡単に選ぶことができます。
また、お客様にとって負担となっていた「レジ待ち」をセルフのキャッシュレジスターを設けることで、負担の軽減を測っています。
さらに、お客様から頂く様々なお問い合わせに対し、人工知能を導入して過去の質問を分類しデータ化することで、同様の問い合わせに対しては即時に回答ができるようにしています。以上のように、より良いサービスをお客様に提供するという意味で、積極的にITや人工知能を導入しています。
今年はインドへの出店も非常に話題になりましたが、現地での反応は如何でしたか?
日本の小売業としては、MUJIがインドでの第1号の認可となりました。2012年ごろから交渉をしていたのですが、実は私が最初から最後までその交渉を担当していたのです。インドは法律の制度が非常に難しく、具体的にクリアしていくのはかなり困難でしたが、無事オープンすることができました。
話題、という点での話ですが、2012年に経済産業省の展開するクール・ジャパン戦略推進事業の一環で、インドでファッションショー形式のMUJIの展示会を行ったことがあります。デザイナーの方が多く会場にいらしたのですが、MUJIのことを知らない人はほとんどいませんでした。彼らは口々に「MUJIはいつインドに来るのか?」と聞いてきましたので、インド店オープン前に際してはMUJIはかなりの話題性があったと思います。
実際、インドでオープンした1号店、2号店は非常に大きなマーケットとなっています。商品が足りなくなり、普段は使用しない航空便で商品を送る事態となるなど、オープン前の話題性そのままに非常に大きな反響をいただいています。
続々と世界中へ展開していく御社は、大きな意味でのローカライズをすることなく、世界中で同じ品揃えを展開しているかと思います。世界各国・各都市で暮らし方の慣習や文化が違う中、御社の製品が受け入れられているのには、どのような理由があるとお考えでしょうか。
まず、MUJIの商品開発の基本となるのは、本当に必要なものを、必要な形で作る、という考え方です。つまり、生活の基本性が強く現れた商品となります。この生活の基本性、という点は、実は世界中どこに行ってもあまり変わらないものなのです。ですから、そうした生活の基本性が備わった私どもの商品が、世界中どこでも受け入れられるのかと思います。
しかし、今後は各地域の特性に着目した製品も出していきたいと考えています。基本的な商品の生活性は変わりません。例えば水筒ですと、中国のお客様は日本人に比べてよりたくさんお茶を飲まれる傾向があります。そこで、中国のMUJIで販売する水筒は日本サイズよりも容量を大きくする、といったように、それぞれの国の生活スタイルに合わせて土着した商品に変えていきたいという思いがあります。こういった取り組みは2017年度から始めていきます。
カナダでは、バンクーバーでもMUJIの出店が待ち望まれています。トロントでのさらなる展開も含め、今後の展望をお聞かせください。
私が良品計画に入社してから12年、これまでずっと海外店舗の展開に関わってきました。我々の事業の基本的なモデルは、1つの都市に5店舗以上展開することです。物流効率という点で、やはり5店舗くらい展開しないと効率化をはかることができません。そういう意味では、トロントでも早期に5店舗体制にしたいと考えています。また、最新の店舗を海外にも持ってくる、という意味では、将来的にはトロントにさらに大きな店舗を設けて、MUJI BooksやOpen MUJIなども展開していきたいです。
また、バンクーバーについては、来年にもオープンしたいと考えています。トロントのAtrium店ではオープン当日に600人以上ものお客様が並んでくれました。トロントは非常に移民の方が多く、特に香港、中国、インド、フィリピンの方が多いと思います。それらの国や地域では、MUJIはたくさんの方々に認知されており、ブランドとしても高い評価を得ています。実際、Atrium店オープンの際に並んでくれたお客様の8割がアジア系の方たちでした。バンクーバーでもアジア系の方は多く暮らしていらっしゃるので、恐らく、オープンした暁にはAtrium店オープン時の様子が再現できるのではないかと思っています。
読者にメッセージをお願いします。
この度カナダに3号店がオープンしましたが、まだまだ我々の力足らずの部分もあり、日本の店舗と比較すると商品展開も少なく、価格も高い、と感じられている方がいらっしゃるかと思います。先ほども申し上げましたが、物流を効率化することで、価格の見直しは常に行っていきます。
日本の方が海外で生活する際、その基本的な生活インフラに我々MUJIがなりたいと思っていますので、社長として現在の状況にはまだ満足していません。我々は、「わけあって安い」というキャッチコピーを掲げて世に出てきました。ですから、価格合理性というのは非常に大事になってきます。日本の方々が、日本と比べた時に不満足とならない価格体系の実現、それに加えてより充実した品揃えを実現するためにまだまだ頑張ってまいりますので、MUJIの今後にどうぞご期待ください。