「人生を180度変えた1本の電話」舟橋峰雄さん カナダ歴:14年|私のターニングポイント第25回

舟橋 峰雄さん
カナダ歴: 合計14年
経歴 2008年にカナダに移民してからは運送業、寿司職人、大工等色々な職を経験させて頂きましたが、現在は航空機を組み立てる日系の会社で生産技術のリーダーとして勤務しております。
クタクタになりながら電気のついていない一人暮らしの部屋へ
帰って弁当を食べて、後は寝るだけという毎日
20代前半のとき、私は日本で業務用の厨房機器を開発製造、販売をする会社でフィールドテクニシャン&営業という仕事をしていました。毎日朝から夜遅くまで客先を走り回り、一日が終わる頃には身も心もクタクタで、最後の気力を振り絞ってコンビニに晩御飯の弁当を買いに行き、部屋に帰り弁当を食べて寝るという生活でした。
そんな生活から抜け出したいのにその術も知らず精神的にもどんどん追い込まれていきました。転職も考えましたが行動しても上手くいくはずもなく、さらに気持ちが落ち込み、気力もどんどん失われていく毎日でした。
農家を営む日系移民の方が書かれた自伝書との出会い
そんなある日、私の母がカナダに転勤になった友人の家に遊びに行く機会があり、帰国の際にオンタリオ州で日本野菜の農家を営む日系移民の方が書かれた自伝書を持ち帰って来ました。たまたま私が実家に帰った際、その本が目に留まりそのタイトルと表紙の著者の写真に惹かれ読んでみることにしました。
その本には著者ご本人がカナダに移民された際の過程、その後の苦労、その末に達成されたことなどがイキイキと書かれており、当時八方塞がりだと思い込んでいた私には全く想像も出来なかった世界で、全てが新鮮であり、また大きな衝撃を受けました。
その農場に行ってみたい、そこで働きたいという強い気持ちが私の中に芽生えました。その本は著者ご本人より入手していたため、本の裏表紙にはその方の住所と電話番号が書かれていました。それに気づいた私は自分の気持ちを抑えきれず、すぐに電話し、「自分を農場で働かせてください」とお願いしました。その答えは以外なほどあっさりとしており、「いいですよ。カナダにいらっしゃい」でした。今から思うとこの電話一本の会話が自分の人生を180度変えたのでした。
ワーホリでカナダに。
人生と価値観を大きく変えた農場生活
その後ワーキングホリデービザでカナダに渡りました。トロントに到着した私は地下鉄の乗り方も分からず重たいトランクを引きずったまま何駅分かを夜の雨の中歩きました。また恐る恐る入ったマクドナルドでは、英語力ほぼ0だった私の注文を親切に助けてくれた店員さんのことなど今では全てが良い思い出です。
翌朝ユニオンステーションからVIAトレインに乗り込み、電車は田園風景の中を数時間走り農場近くの駅に到着しました。そこにはすでに人生の恩人となる農場のオーナーが車で迎えに来てくれていました。彼は見るからに頑丈そうな体で、肌も日々の農作業でこんがり焼けており少し日本人離れした風貌でしたが、ニコニコして朗らかな方でした。
農場の中を案内してくれ、一つ一つの野菜を熱意を込めて説明してくれました。最後に農場の片隅止まっていたトレーラーにたどり着き、一言「これが今日から君の家だ」という言葉に大きな衝撃を受けました。その瞬間から始まった4人のメキシコ人との6か月間の共同生活は私の人生と価値観を大きく変えました。
秋になり農場が繁忙期を終えたためトロントに移動しました。その後の新な出会い、ホームシック、永住権取得までの4年間の日本一時帰国、カナダへの再上陸、結婚、幾度かの転職、郊外への引っ越しなどきりがないですが、さまざまな経験と出会い、葛藤と挫折や克服を経て現在に至ります。
恩人である農場のオーナーは2019年、コロナが世界に広まる前に亡くなりました。いつでも再会出来ると思っていたので、亡くなる前の数年間は会いに行っていなかったことを悔やんでいます。それでも昨年秋に妻と子ども達を連れて農場に行き、オーナーの奥さん、農場の後を継いで今でも野菜を作り続けている娘さんと旦那さんに会うことが出来ました。
現在私は45歳になるので、農場で働いていたのはもう20年ほど前の話になりますが今でもあの日々の事は鮮明に覚えており、またオーナーの娘さんと旦那さんも大事な友人となりました。改めて思い出しても、あの20代のあの日に農場のオーナーに掛けた電話から全ては始まったと思っています。
■ いまの自分に点数をつけるとしたら?
50点
現在45歳なのでだいたい人生の折り返し地点かなと、また将来の自分の可能性へ期待を込めた点数です。
■ 学生時代のエピソード
小中学校は名古屋で過ごし人を笑わせるのが好きだったので友人も多く楽しい毎日を過ごしていた。しかし中学生の時、家の都合で田舎に引っ越した事がありました。都会からの転校生、話す方言など周りと自分の「違い」を全て否定され、いじめに合いました。その時の辛い経験からカナダの「皆違って当たり前」という環境がより一層心地良く感じるのかもしれません。
■ もし人生をやり直せるとしたら、いつ?
20代前半。今の生活にボチボチ満足しているという前提で、若い頃にもっと貪欲に一人で旅をしておけば良かったと思います。20代の頃との45歳の今の自分では新しい文化、人、場所に触れた時の感じ方もきっと違うでしょう。
■ 人生で大切なことは?
目の前にある人・事を大切にし、それに夢中になること。遊びも仕事も出会いも苦労も瞬間瞬間を夢中で取り組んで向き合っていけば、全てが繋がっていき自分では思いもよらない場所に到達できると思います。
■ 将来の夢・ライフプラン
まだ行ったことのない場所に家族で旅がしたいです。いつか妻の田舎の秋田でゲストハウスでも出来たら良いかなとぼんやり考えています。
-好きな本: 『Family Handyman』、『ぼくはカナダのだいこん百姓』
-尊敬する人:日系カナダ移民の先輩方。今の自分がカナダで快適に生きていけるは先人の方々が築いてくれた土台があってこそ。
-感謝している人と一言メッセージ:家族、友人、同僚含め今まで出会った全ての方。全ての出会いがあって今の自分があります。
-カナダの好きなところ:異文化でみんな違う事を多くの人が当たり前の様に受け入れているところ。