夏到来、である。|カナダで出会う音楽の話【第2回】
カナダは野外屋内に関わらず音楽イベントが盛んな国だ。特に夏季は各地で大きな規模の野外フェスが開催され、世界中からミュージシャンや観客がやってくる。トロントだけでも探したらきりがないくらい多くのライブやイベントが行われていて、無料のストリートフェスなどもあり、老若男女問わず音楽に親しめる機会がそこかしこにある。
また季節や音楽とは直接関係のないイベントにも何かしらの生演奏が入っていたり、DJがその場でプレイしていたり、定期的にオープンマイクを開催しているライブハウスがあったりなど、音楽を直接肌で感じる事が当たり前の様に出来る環境で私達は生活している。素晴らしい事だと思う。
トロントは言わずと知れたマルチカルチャーの都市だ。様々な人種や文化が共存している。音楽もたくさんのジャンルが存在している。ライブハウスやクラブ、フェスやイベント等もジャンルごとに分別され、ジャズならあそこに行けばよい、ヘビメタならここで聞けばよいと分かりやすい構図になっている。
ただ、トロントは例えばニューヨークなどとは違ってメルティングポットといわれる街ではない。様々な人種や文化が共存はしていても、そこで交じり合い、認め合い、溶け合っていっているかというと決してそうではない。
十年程前にカリビアン系のクルーザーイベントに数回お邪魔した時、東アジア系の女性は私一人だけだった。ボリウッドダンスのイベントを観に行った時もそうだった。一般的に民族音楽や移民の文化はあくまでもサブカルやインディペンデント的な扱いで、色々な背景からその領域を出るのはなかなか難しく、結果商業として成り立つ音楽、いわゆるメジャーとされるものは、まだまだあーやっぱりなーな感じの保守的なものになってしまっている。
いわゆるロックはこうでなきゃいけない、クラシックはこうあるべき、カントリーはこうみたいな、カテゴライズされ、そこにとどまってどこへもいけない閉塞した感じ。まぁどの大都市でもそうなのかも知れないが、特にリベラルで色々な差別のない都市ですよと謳っているトロントが、実は結構そうでもないじゃんみたいな事を見たり聞いたり、または実際に経験すると、個人的には残念だなぁという思いも正直なところある。
ただ、私達やそれより下の世代には果敢に挑戦して面白い物をつくろう、発展させていこうとしている方がたくさんいらっしゃるし、文化的背景がひとつやふたつではないこの街の多くの若い方や子供達の新鮮な感性にも期待して、そこはあまり悲観的になる必要もないかなとも思う。
パリや東京、ベルリンなどが音楽都市と言われている中、なんやかんや言ってもトロントも文化や芸術に関してはとてもがんばっていらっしゃる都市のひとつだ。面白くて新しいものは、複雑で混沌としたエネルギーや社会背景から生まれるのもこれ事実。そういう意味でも、トロントはこれからの益々の芸術に関する発展そして成功が楽しみな街なのではないだろうか。
SAYAKA MUSIC STUDIO グリフィス千佳
兵庫県神戸市生まれ。モデルを経てライブや舞台を中心に歌手、役者として活躍。2012年に移住、現在はさやか音楽教室で講師を務める。1児の母。