トロント教育委員会に訊く、カナダの教育制度とトリビア
幼児教育から各学校、また社会人学生やコミュニティまで、ありとあらゆる教育機関を統べている、大規模なトロント教育委員会。世界各国から集まる生徒たちを受け入れるためにも、常に先進的な試みを行っている。そんなトロントの教育制度と、革新的な制度をSenior Manager of International Students and AdmissionsのSmita Sengupta博士にお伺いしました。
カナダの義務教育
中学校までが義務教育の日本とは違い、カナダでは5、6歳のグレード1から15、16歳のグレード12までが義務教育。オンタリオではグレード1からグレード8がPrimary School、グレード9から12がSecondary Schoolとして2つに分けられている。年度は9月から翌年6月まで。
通う学校は日本と同じく学区が決まっていて、学校によってレベルに差があるわけではないが、学校の雰囲気や特化した授業内容、またその学校の文化的背景から他の学校とは違う文化イベントが行われることもある。学区外の学校に通いたいときにはOptional Attendanceを提出することによって転校することも可能。ただしこれはその学校に空きがあった時のみで、年度替わりの時のみ申請できる。
Primary Schoolでは定められた科目を勉強する。Secondary Schoolは4年間で30単位以上取得する必要があり、必修科目18単位と残り12単位は選択制だ。通年制(1年かけて8単位勉強する)または2学期制(学期毎に4単位ずつ勉強する)の二種類に分かれている。学校毎に提供されているコースが異なり、芸術や数学などに特化した学校もあるので、生徒それぞれの興味と能力に合わせて選ぶことができる。
ESLサポート
トロント市内のPrimary SchoolとSecondary Schoolには合わせて約23200人の生徒がいる。その中で留学生の数は5%と非常に少ないのだが、在籍している生徒の50%近くは英語を母国語としない生徒だ。ほぼすべての学校にESLプログラムが設けられていて、Primary Schoolでは通常授業の間にESLに通うか、授業内にESLを組み込んでいる学校もある。Secondary Schoolでは5段階のレベルに分けられており、通常授業とは別に履修する。学校によっては地理、数学、化学などをESLで履修することも可能だ。
飛び級制度のないトロントでは他国から来た生徒はトロントの学年年齢に合わせて通学する。科目を理解していたとしても、勉強が遅れていたとしても年齢が最優先される。
学校行事とマルチカルチュラリズム
日本の学生の大多数が楽しみにしている運動会や修学旅行の他にも、多国籍文化のトロントならではの行事も行われている。全ての学校で同じものが行われるわけではなく、それぞれの学校の文化背景によって行われる行事は違ってくる。特定の文化背景の生徒が多い場合に学校全体でその文化背景を学習し、その文化的行事を学校全体で祝うこととなる。
Gifted Program
かつて飛び級制度のあったトロントだが、子供の精神面の成長を考慮して導入されたのがGifted Program。年上のクラスメイトとではなく、同世代と学習、成長していくことに重きが置かれている。基本的にはグレード3の時に担任からテストを受けないか?と推薦され、サイコロジストのIQテスト(Wechsler Intelligence Scale for Children)を受けることになる。トロント市全体で2%のみの子供がGifted Programに通える。ただし、Gifted Programへの参加は任意であり、また参加するグレードも選ぶことができ、元の学校に戻ることも可能だ。学習要項は州で定められているため、通常校と大きく変わることはなく、それぞれの内容をより深く、広く学習していくことになる。
トロント市外にも同様のプログラムがあるが、それぞれ要項が違うためそれぞれでGifted認証される必要がある。担任の推薦がなくてもテストを受けるリクエストを出すことも可能で、1年に1度、IQテストを受けることができる。
TDSBの凄いトコロ
カナダの中でも1,2を争う大きさのToronto District School Board(以下TDSB)、トロント市内の約600のPrimary School、Secondary Schoolを統括し、国際色豊かな学生たちに高水準な教育を提供している。そんなTDBSが今までに行ってきた、また行ってる凄い事実をご紹介。
ECHO SCHOOL 制度の創設
2003年にTDSBが始めたECHO SCHOOL 制度(校舎、校庭のデザインまで環境保全に重点をおいて設計され、そこの学校に通う生徒、スタッフも環境保全について勉強し、実行していく制度)が現在はオンタリオ州に認められ、州全体でECHO SCHOOL 制度を進めている。
学校付属小児病院設立
保険室ではなく、小児病院をトロント市内6つの学校に創設。創設当時はカナダ初の試みであったこの事案。今では多くの生徒を支えている。
Student Nutrition Programs
通常トロント市内の学校で給食制度はないが、家庭の事情などにより十分に食事を取れていない生徒のために、朝食と昼食を提供している。1998年にTDSBのNPO団体としてToronto Foundation for Student Successを設立。政府や大手企業と提携し、多くの寄付金で活動している。現在1日14万食近くの提供を行っている。
Gender-Based Violence Prevention
2009年にカナダで初めて教育委員会のポリシーとして定められた。同性婚の認められているカナダでも同性愛者や性同一性障害者に嫌悪感を抱く人がいる。そこでいじめが起きないように、また生徒自身が同性愛者である自分を受け入れられるように、学校側にガイドラインを用意しそれぞれの問題に真摯対応している。