ドジャーズ対ブルージェイズ戦がカナダに贈ってくれたもの|カナダ・日本・世界を見つめる8人組 |文・三船純子
三船純子
岩手生まれ岩手育ち。東京と横浜での生活を経て、1989年からアメリカ・ミシガン州に12年、2000年からはカナダ・トロントで暮らしている。日米でのさまざまな仕事を経て、現在は社会福祉とコミュニティーワークにかかわっている。
肌寒く冷え込んだハロウィーンの翌日の土曜日に、ワールドシリーズトップの勝敗を決める、トロント・ブルージェイズ(以下ジェイズ)対ロサンゼルス・ドジャーズの最終戦がトロントのロジャーズ・スタジアムで開催された。昨年は最下位チームだったジェイズが昨年優勝したドジャーズとの最終戦シリーズまで漕ぎつけた数週間は、トロント中が今までにない熱狂的な盛り上がりを見せた。
私自身は実は大の野球ファンではないが、野球シーズン中の恒例行事としてロジャーズ・スタジアムに年に数回は足を運ぶ。野球好きの家族や友人たちに誘われ試合についていく感じだ。ドジャーズとのファイナルプレイオフが始まった際には、我が地元の岩手県花巻市出身の大谷翔平選手、そして佐々木朗希選手や山本由伸選手もいるドジャーズを勿論応援するつもりでいた。日本の家族や友人などから「どちらを応援するの?」と聞かれて「やっぱり日本人選手のいるドジャーズかな」と返し、カナダ人の家族や同僚などには「ジェイズを応援するけれど、日本人選手たちはどうしても応援してしまいそう」と答えていた。
ところが最終戦シリーズでジェイズが勝ち進むにつれて、周りのジェイズ応援がどんどん加熱すると、あまり野球に関心が無かった自分もだんだんジェイズ旋風に感化されてくるのを感じた。最終戦までは実は試合を見始めても途中で寝てしまっていた。夜中に目が覚めて試合のスコアを確認しながら、どこかで、ジェイズがドジャーズに勝てる確率はあまり無いと思っていた。それは周りの野球ファンも同様に感じていた節がある。ところがジェイズが勝ち続ける根強さとチームワークを証明し続け、32年ぶりに世界一になれる可能性が高くなるにつれ、トロント中がジェイズ・フィーバーに包まれていったのだ。
どれくらいの盛り上がりだったかというと、今回のワールドシリーズ第7戦はカナダ史上最も高額なスポーツイベントとして正式に記録されたそうだ(@TickPick)。普段50ドル程の立ち見席のチケットが1,200ドルから2,000ドルまでに跳ね上がり、ホームベース後方の座席は21,000ドルを超えたそうだ。とにかくトロント中がジェイズ・フィーバーに吹き荒れたのだった。
このところトランプ関税報復に苦戦する一方、米国製品非買キャンペーンに併せて自国製品購買運動が活発化しているカナダである。広がり続ける経済格差に増え続ける犯罪や不透明な将来への不安など、あまり明るいニュースがなかったように感じていたカナダ人にとって、ジェイズの快進撃は久々に心躍る出来事だった。カナダ中が一致団結して、カナダのプライドにかけてもジェイズを盛り上げなければ!という使命感がファンの間に膨らんでいったような気がする。
ドジャーズに勝利を導いた山本投手の歴史的な活躍に感動しながらも、その圧倒的な彼の実力がジェイズ敗戦を招いてしまった。複雑な気持ちだ。やはり日本人選手のベスト・パフォーマンスの為に徹底した努力を惜しまない姿勢やその活躍振りは、海外にいる私たちにとっても誇らしく嬉しいものだ。2年前にジェイズを選ばずドジャーズを選択した直後の大谷選手がトロントに試合に来た際、日本人移住者の友人たちと大谷選手を応援しに行った。一緒に行った仲間の中には一人でも試合を観にいくジェイズファンもいた。悲しかったのは外野席で大谷を応援する私たちの周りのジェイズファンからの大谷選手に対する強烈なブーイングの嵐だった。
今回のロジャーズ・スタジアム戦でも、大谷選手への「We don’t need you!」コールがニュースになっていた。そこまで根に持たなくともいいのに、品が無い野次だと思ってしまう。1000ドルの立見席で第1戦を観にいった前述のジェイズファンの友人は、今回もピッチングの練習をする山本選手のすぐ近くで、大声で酷いヤジを飛ばすファンの様子を撮影してシェアしてくれたが、日本人にとっては人種差別もあるのではないかと複雑な心境になってしまう。それでもそんな野次を物ともしない彼らの活躍に私は心からの声援を送り続ける。
ジェイズの敗戦が決まった直後、多くのジェイズファンは言葉無く座席から動けなくなったそうだ。泣き崩れて父親に慰められる男の子の映像は多くのファンの共感を呼んだ。勝敗に関わらずに、ジェイズのパレードを決行すべきだ、トロント市はチームの為に市役所の前の広場で式典を催すべきだといった声も多かった。
ジェイズが敗戦した翌日に、たまたまダウンタウンで会う約束があった日本人移住者の友人たちと慰め合った。ジョン・シュナイダー監督がチームが気持ちを持ち直すのには2週間はかかるだろうと言っていたが、トロントが優勝を逃したショックから立ち直るにも少し時間がかかりそうだ。敗戦翌日のトロントは心なしかひっそりとしていた。
次の週ジェイズの会長マーク・シャピロがトロントスター紙に、ファンに向けたメッセージを一面広告で出した。その一部が下記だ。
「・・・振り返ってみて最も印象に残るのは、このチームが成し遂げた偉業だけでなく、ファンの皆さんが彼らに抱いた称賛の気持ちです。皆さんは彼らの根強さ、回復力、人間性、そして何よりもお互いへの愛情を観たはずです。チームメイトであることの真髄をこれほど体現したチームは他にありません。それは単なるプレーの質ではなく、彼らの人間性そのものだったのではないでしょうか。彼らの結束と無私の精神は、カナダ中の人々を一つに結びつけました。私たち全員が必要としていたこの時に、ブルージェイズは皆が愛する野球の試合を通じて、私たちを奮い立たせ、勇気づけ、結束させてくれたのです。・・・」
野球をよく知らない私でも、これが野球の醍醐味かというハラハラドキドを経験できた。色々な思いでワールドシリーズを観戦したファンに大きな感動を与えてくれた両チームに感謝したい。私自身も野球の試合をこれからさらに楽しめるような気がしている。そしてジェイズの来シーズンの活躍を心から願ってやまない。Let’s Go Blue Jays!

2011年夏、カナダ在住の翻訳家や通訳、活動家、物書き、研究家、学生などの有志が集まり、それぞれの分野で築き上げてきた仕事や研究、日常について語り合ったのがG8の会の発足のきっかけとなり、月に2回ほどカナダ・日本・世界についてのコラムを発信している。
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