カナダ・日本・世界を見つめる8人組 7月(2014年)
19. 消えた1,181人の先住民女性 by 斎藤文栄
私にとってカナダは、移民社会で、公平性を重んじ、差別の少ないところというイメージがある。だから時々、とんでもない人種差別、女性差別事件が報道されると本当に驚く。
5月中旬に、先住民の女性が殺害又は行方不明になった事件をまとめたRCMP(王立カナダ騎馬警察:カナダの連邦レベルを管轄する警察)の報告書が発表された時は、その数の多さに驚いた。なんと1980年から2012年までの間に、1,017人の先住民女性が殺害され、164人が行方不明になっているという。これは従来いわれていた数(500~600人)よりもはるかに多い。女性が被害者の殺人事件における先住民の割合は、近年むしろ高くなっていることも証明された。1984年には8%だったのが、2012年には23%を占めている。カナダで殺害される女性の4人に1人が先住民とは異常な数字である。
この件に関しては前々から国内の先住民グループや人権団体のみならず、国連の女性差別撤廃委員会や人種差別撤廃委員会などからも早急な調査と問題の分析が求められていたが、RCMPの報告書を受けて国内における公的調査を求める声は高まっている。ただハーパー政権は新たな調査は必要ではなく、その予算を犯罪対策に使うべきだと主張する。対策に乗り出すべきというのは一理ある。しかし、先住民女性に対する暴力は始まったことではない。先住民女性が暴力を受けやすいことは既に様々な調査で指摘されていた。本来なら政府はもっと前から対策をとるべきだったのだ。
また政府の言い分は、更なる調査を要求すれば、その分対策が遅れることになると脅しているようにも聞こえる。しかし適切な対策を行うためには、徹底的に事態を明らかにする必要がある。そのためにも公正で中立的な調査をを政府の予算でやるべきだろう。RCMPは捜査機関であるため、RCMPの捜査が行われなかった事件やRCMP自身が捜査中に先住民女性に対し暴力を振るったという事件はRCMPの報告書には出てきにくい。また報告書には事件の背景(貧困、失業、薬物、飲酒などとの因果関係)、分析、施策の評価など欠けている視点も多い。RCMP自身、昨年の秋に国連に提出した数字よりも被害者の数が多くなったのは、昨年は時間がなく十分な調査が出来なかったからであると認めているように、もっと時間と予算をかけて第三者が調査すれば、新たな事実が明らかになることもあり得る。
古今東西を問わず、時の政府に不都合な事実は歴史から封印されがちだ。事実を歴史に残すためにも徹底的な調査、公的な報告書が望まれる。日本におけるいわゆる従軍慰安婦問題でも、1991~93年にかけて政府が調査を行い、それに基づいて慰安婦の強制性を認める内閣官房長官による「河野談話」が発表されたにもかかわらず、調査の正当性に対する疑義が今になって出され、慰安婦の強制性を否定しようとする動きが国会で大きくなっている。再調査といっても、既に多くの慰安婦の方々が亡くなりつつある中で実態調査は一層難しくなっている。今回の先住民女性の問題にしても、既に何十年と経ち犯罪の起きた状況を精査するのが難しくなっている事件もあるだろう。ここで政府が調査を開始しなければますます事態の解明、分析は難しくなる一方だ。
実は昨年秋、国連の女性差別撤廃委員会のメンバーが、先住民女性が殺害又は行方不明となった事件について調査するためカナダを訪問している。しかし、この調査の報告書はハーパー政権が公表に反対しているため、入手することはできないという。政権は、徹底的な調査をする予算がないというのであれば、まずこちらの国連の報告書の公表に踏み切るべきではないだろうか。
いずれにせよハーパー政権は、今回のRCMP報告書を受け、更なる行動を起こす時である。これ以上、先住民女性の犠牲者を増やさないためにも。
今月の著者
斎藤文栄 (Fumie Saito)
新潟県三条市出身。大学卒業後地元マスコミにUターン就職。その後米国に留学し女性学と公共政策を学ぶ。帰国後は国会議員の秘書としてDV法など様々な立法・政策作りに関わる。その後、行政府やNGO、英国留学も経験しつつ、一環して女性の人権に関わってきた。現在トロント定住中。
The Group of 8
2011年夏、カナダ在住の翻訳家や通訳、活動家、物書き、研究家、学生などの有志が集まり、それぞれの分野で築き上げてきた仕事や研究、日常について語り合ったのがG8の会の発足のきっかけとなり、月に2回ほどカナダ・日本・世界についてのコラムを発信している。









