カナダ・日本・世界を見つめる8人組 5月(2014年)
17 . トロントでボランティア by 空野優子
留学のためにトロントに来て数ヵ月経ったころ、近所の識字教室でボランティアを始めた。役割は、チューターとして読み書きを教えること。移民の50歳くらいの女性の担当となり、週に2時間、図書館で一緒に本を読んだり作文を書いたり、時には生活に必要な書類を理解するのをお手伝いしたりした。
英語を学んでいる自分が英語を教えるのに最初は緊張したが、職員の方もほかのボランティアも全く気に留める様子はなく、生徒さんともとても良い関係を築くことができた。
その後いろんな偶然が重なって、卒業後その教室に就職することになり、5年経ち転職した今は、同じく近所のSt. Stephen’s Community Houseという非営利組織 (NPO) でボランティアを続けている。
トロントには、地域密着型のNPO組織が数多くある。
活動内容も様々で、最近日本でも知られるようになったフードバンク(缶詰など腐らない食料品などを中心に、それを必要としている人に提供する団体)、ホームレスの人用のシェルター(この中にも10〜20代の若者向け、DV被害者の女性とその子どものため、緊急時用、中長期滞在型などいくつかの種類がある)、移民・難民向けの英語教室、職業訓練支援、医療・健康に関するサービスから、特定の文化圏・言語圏出身者、またはLGBT(性的マイノリティ)コミュニティを支援する団体など、多岐にわたっている。
例えば、今ボランティアをしているSt. Stephen’sでは、乳幼児の保育園からシニア向けのプログラムや移民支援など主流なものから、アルコールや麻薬依存からの自立を支援するプログラム、地域住民間の問題解決を補助することを目的とするConflict Resolution & Mediation Serviceなど、ユニークな活動も行っている。
運営規模、形態を見ると、数人のスタッフで運営されている団体もあれば、100人以上のフルタイムの職員がいる組織まで、様々である。そして私の知る限り、ほとんどの組織がいろんな形でボランティアを募集、活用している。
これらの広くソーシャル・サービスに属する組織は、学校、図書館、病院などの公的機関の機能を補うセーフティ・ネットの役割を果たしているように思う。
また、活動分野は異なっていても、利用者のニーズに応じていろんな分野の組織が相互に連携している。私が識字教室で働いていた間も、シェルターや教育機関、市役所の福祉課に連絡をとることが頻繁にあった。
トロントのことを何も知らずに一人でやってきて私にとって、軽い気持ちで始めたボランティアは、思いがけず貴重な経験となった。良い面も負の面も含めて、自分の住む地域の社会事情をよく知ることができたし、ボランティアを通じて出会った人たちは、よそ者の私を同じコミュニティで暮らす一人として自然と受け入れてくれたように思う。
トロントに長期滞在目的にやってくる日本人は年々増加しているという。私の場合、最初の2年間は学生だったため、時間の融通が利いたことは大きいが、費やした時間以上の経験が得られた。
少しの時間と興味さえあれば、いろんなボランティアの種類があるので、機会があればぜひ一度試されることをおすすめする。
今月の著者
空野優子 (Yuko Sorano)
2002年に大学留学のため日本を離れて以来、アメリカ、フランスでの学生生活を経て、2006年よりトロント在住。現在トロント市北部に位置するヨーク大学で職員として勤める傍ら、コミュニティーワーク、英語教育にも携わる。
The Group of 8
2011年夏、カナダ在住の翻訳家や通訳、活動家、物書き、研究家、学生などの有志が集まり、それぞれの分野で築き上げてきた仕事や研究、日常について語り合ったのがG8の会の発足のきっかけとなり、月に2回ほどカナダ・日本・世界についてのコラムを発信している。
http://thegroupofeight.com