カナダ・日本・世界を見つめる8人組 #35
シリア難民問題 ドイツ・ニュルンベルク市の状況
by モーゲンスタン陽子(2015年9月)
浜辺で息絶えた幼児の写真を機に世界中の注目がシリア難民問題に集まったのは、ちょうどこの夏、カナダに「帰省中」のときだった。ヨーロッパ、とくに私の暮らすドイツの対策がしきりと報道され、カナダにいながらドイツに関する記事に毎日のように目をとおした。
私は修士課程の1学期を、オーストリアのグラーツ大学で過ごした。家族をドイツに残していたので隔週で帰省していたし、気晴らしにブダペストにも三度ほど足を運んだ。毎日のように報道される、ハンガリーからオーストリアを経由しミュンヘンに到着する鉄道路線は、私自身が何度も通ったことのあるルートでもある。そんなこともあってますます、帰ったら私も何かしなければ、という気にさせられた。
ひどい時差ぼけ、カナダより1週間遅れのバック・トゥー・スクールと戦い、やっと今日、ボランティアの申し込みに、市の協賛のもとで運営されている「インターナショナル・フラウエン(女性)・カフェ」に行ってきた。実際は一週間前に行ったのだが、移転した事務所のアドレスが古いままになっており、たどりつくことができなかった。
ここで少し私事に触れさせてもらうと、以前この場でも述べたとおり、私は現在離婚調停中である。異国の地でシングルマザーとしてやっていけるのかという不安に押しつぶされそうになり、えらく「縮こまっていた」時期もあった。ただ、もともとお金のことを考えるのが大嫌いな性分のうえ、縮こまっていた反動で、ええい、今日明日食うのに困っているわけでもあるまいし、やりたいことはやろう、と決心した矢先だったのである。
その、長年やりたかったことのひとつが、女性と子供を不当な暴力から守るということだった。もちろん、男性なら放っておいていいというわけではないが、非常事態で第2第3の被害に遭いやすいのはいつも女性と子供だ。「フラウエン・カフェ」を選んだのはそんな理由からだった。
結論からいうと、今日すぐに何かの役に立てたわけではない。まず、今回の難民危機でボランティア志望者が殺到し、その身元確認などを従来の少ない職員で行っているから、てんてこまいで仕事の振り分けさえもうまくできていない状態のようだった。物資の寄付にしても同じで、すでに飽和状態に達し受け入れを保留している。
「市の各施設の職員は経験豊富な方々ですが、とにかく今はボランティア志願者が殺到しています。折り返しの連絡がやっとついたと思ったら、すでに他施設での仕事を任されていて、結局協力できない、ということも」と、カフェのアンネ・マヤー氏。今回カフェで募集していたのは、難民女性たちのアパート探しに同行し、言語面でのサポートを行うというものだった。
実際には個人宅での受け入れオファーも多いそうだが(私もオファーをした一人だ)、「やはり正式の手続きなしに個人に任せることは難しい」とのことだった。手順を重んじるドイツらしいが、それが事態を滞らせている面もあるかもしれない。
日々到着する難民の数や報道を見ると、あたかもドイツの国じゅうが難民で溢れかえっているかのような印象を受けるかもしれないが、実際にはひっそりとしたもので、これまでの日常となんら変わりはない。到着した難民はバスでドイツ各地の施設に送られるし、数日前に仕事でミュンヘン中央駅を訪れた際も、先週ドイツ・オーストリア国境の検問が復活したせいか、難民の影はまったくなく、そこにあるのは十九日に始まった、かの有名なオクトーバー・フェストに向かう、革の半ズボンや山娘風ドレスに身を包んだ老若男女の姿ばかりだった。
さて、オクトーバー・フェストといえばミュンヘンが有名だが、実際はこの時期、規模の差はあれドイツ各地で似たような祭りが行われる。いわば秋の収穫祭で、カナダに暮らす皆さんなら、CNE(エキシビジョン・プレイスで晩夏に催される移動式遊園地)を思い浮かべるとよいだろう。十三日までここニュルンベルクでも行われていたが、特筆すべきはその会場が、以前ナチ政権時代に党大会の本拠地であった敷地であることだ。
そこには当然、巨大なビア・ツェルト(ビアホールになるテント)もある。難民収容施設が不足していたニュルンベルク市が着目したのはそこだった。通常ならフェスティバル終了後に跡形もなく撤去されるテントだが、それをそのまま収容施設として残すことにしたのだ。ナチスの拠点が難民を保護することになるとは、なんとも不思議な縁だ。
話を元に戻すと、このような大規模な施設にはセキュリティが施され、正式に登録されているボランティアしか入れないので、だれでも立ち寄って協力できるわけではない。ただ、シリア難民に限らなければ、ウォーク・インで参加できる小規模な施設もいくつかあるようだ。
ここドイツでも、朝晩の冷え込みが激しくなってきた。テント暮らしもそう長くできるものではない。せめて住まいだけでも早急にみつかればよいと願わずにはいられない。
今後審査などを経て何かしら協力できる機会があれば、そのときはまたここで報告したいと思う。
モーゲンスタン陽子
作家・翻訳家。東京都出身。ドイツ在住。トロントでクリエイティブ・ライティングを始め、カナダ、アメリカの文芸誌等に作品を発表。2014年にはアメリカの出版社から処女小説を刊行。カナダ文学の翻訳『北斎と応為』は今年日本翻訳大賞にノミネート。日本ペン・クラブ会員。
The Group of 8
2011年夏、カナダ在住の翻訳家や通訳、活動家、物書き、研究家、学生などの有志が集まり、それぞれの分野で築き上げてきた仕事や研究、日常について語り合ったのがG8の会の発足のきっかけとなり、月に2回ほどカナダ・日本・世界についてのコラムを発信している。
thegroupofeight.com




