海外でも人気の、“戦う花嫁”がコンセプトのマンガ『ウェディングピーチ』で知られる 漫画家・谷沢直さんインタビュー
漫画家の谷沢直さんが2月15日から3月1日の約2週間に渡ってトロントに滞在、ジャパンファウンデーションの日本語講座特別クラスの講師として、地元学校で講演、ジャパンファウンデーションにてマンガの描き方ワークショップや講演を行った。
谷沢さんの代表作である『ウェディングピーチ』は、1990年代に小学館コミック『ちゃお』で連載、アニメ化もされた作品で、海外でも多くのファンを持つ。今回開催したワークショップはいずれの回も参加申し込み受付開始からすぐに枠が埋まってしまうほどの人気ぶり。東京・中野で英語によるマンガの描き方講座を開講している谷沢さんは、慣れた様子で生徒それぞれにアドバイスを送っていた。
今回のトロントを含め、これまで数々の海外でのイベント参加、ワークショップ開催経験を持つ谷沢さんに、これまでの経験を通して感じる日本と海外のマンガに対する感覚の違いなどについて伺った。
マンガ世代、そして世代以外にもマンガの正しい情報を伝えていきたい
日本であれば、おそらくマンガのワークショップにはマンガを描くことが好きな人が集まるのでしょうが、今回のように海外でワークショップを行うときは、マンガの執筆道具や日本文化に興味があって参加してみたという方も多く、また講演でも同様に、年配の方やあまりマンガに馴染みのない方も多く参加してくださっていました。
日本のマンガ世代は一番上が50代くらいで、この世代以上となるとまったくといっていいほど、こういったマンガ関連のイベントに参加される方はいらっしゃいません。海外ではマンガが入ってきたのが遅いということもあってマンガ世代は一番上でも30代くらいだと思うのですが、イベントには初老の方もいらっしゃいます。マンガ世代ではないであろう方々にもマンガというもののあり方や正しい情報を伝えることができたのであればとても嬉しいです。なかには前日の講演を聞いてまた来てくださったという方もいて、こういった経験は今までなく、とても嬉しかったですね。
マンガ環境から作り出される良い絵と悪い絵の境界線
今回のワークショップでは、上手さを気にせず、マンガツールに触って楽しみながらマンガを描けるようになってもらおうという思いで行いました。練習用に見本絵を用意したのですが、みなさんその絵を模写してしまうのですよね。日本人の多くは、たとえいたずら書きであったとしても小さい頃に絵を描いた経験があるもので、何かしら自分の絵柄というものを持っていたりするものです。マンガの書き方本やマンガクラブもどこにでもあって、容易にマンガを描き、触れられる環境があります。
ですが、海外にはそういった環境がなく、そのために良い絵と悪い絵の境界線がはっきりしていないのか、立ちながら急いで描いた絵であっても喜んでくれるのですよね。単純に感覚の違いによるものかもしれませんが。
絵やストーリーだけではない、マンガ特有の「躍動感」
この50年間、マンガは紙で読むことを前提に発展してきました。マンガにはストーリーや絵柄だけでなく、コマ割りや吹きだしの位置といった細部にまで意味があります。これは海外コミックとは大きく異なったマンガ特有のもので、マンガに親しんでいる日本人にはコマ割りや吹きだし位置によって作り出される「視線の流れ」や「躍動感」の感覚も伝わりやすいのですが、なかなか海外の方にはその理解は難しいようなのです。英語版や電子書籍版を校正する際、吹きだし位置の調整などをお願いすることがあるのですが、その意図がわからず、未調整のまま出版されることもあります。ある時「日本のマンガはまるで映画のようで、バンドデシネ(フランスの漫画)は絵付き小説のようだ」と例えたフランス人の生徒がいて、あぁ、この人にはその感覚が分かっているのだなと思ったものです。もちろん、日本人であれば作者の意図したことが100パーセント伝わるというものでもありませんがね。
海外では現代マンガしか読んでいないという人が圧倒的に多く、いうなればクラシックの知識がなく、現代音楽をいきなり聴いているようなものです。もちろん、クラシックの知識がなくても楽しめると思いますが、手塚治虫や石ノ森章太郎といったクラシック作品も読んでいくことでマンガの読み方も変わってくるのではないかと思います。
谷沢 直(やざわ なお)
東京都出身。第14回藤子不二雄賞にて入選した『ゲンゴロウ参る!』が『別冊コロコロコミック』に掲載され デビュー。代表作に『ウェディングピーチ』(小学館コミック『ちゃお』連載)『怪盗シスターズ いただき!パ ンサー』(小学館『ぴょんぴょん』連載)、『Moon & Blood』がある。 東京・中野にある「マンガスクール中野」にて『マンガ作品制作―基礎・応用』『英語によるマンガの描き方講座』などの講師も務めている。
谷沢直ホームページ
『谷沢直のまんが番外地』:www.geocities.jp/yazawanet