Maurice Dekkers 監督インタビュー

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今回初めて長編ドキュメンタリー映画に挑戦したMaurice Dekkers監督。北米最大のドキュメンタリー映画祭Hot Docsでは200本以上の映画の中からMUST SEE 10に選ばれるほどの注目映画。製作のきっかけやシェフReneとの出会い、実際に日本での撮影を通して感じた日本食文化などについて語ってもらった。

この作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

もともとReneと一緒に仕事をしてみたいと思っていて、知人にお願いして彼を紹介してもらいました。その時は一緒にテレビ番組を製作するつもりでミーティングを行ったのですが、Reneが日本で期間限定のNOMAレストランをオープンすることを教えてくれて、その話を聞いた瞬間に映画にするべきだと感じました。私も日本に行ってみたいと思っていましたし、なにより、日本への出店はReneの夢であり挑戦ですし、その過程を追いかけてフィルムに収めなければと思ったのです。実際はReneが日本へ発つまで2週間しかなかったのですが、迷いはありませんでした。細かい計画を立てる時間は全くありませんでしたが、とにかく彼を追いかけ撮影を始めました。

実際に日本へ行って体験した日本食文化についてどう思われますか?

本当に〝素晴らしい!〟の一言です。どこで食べても美味しいですし、駅の中で購入できるサラダやお弁当のクオリティも非常に高い。またレストランの数も多く、北米やヨーロッパのように大きな店舗ばかりではなく、たった5席しかないような小さなお店まであるという事実に驚きました。さらに〝日本食〟といわれて連想するのは寿司ですが、実際に日本へ行くと何でも食べられるということにも驚きました。フランス、イタリア、中華、インドなどなど様々な料理を食べることができますし、どれも本場よりもレベルが高く、本当に食に対する関心の高い国だと感じました。

その中で私がもっとも感動したのは日本のウイスキーです。スーパーで簡単に購入できる上に値段も安い。飲む前はそんなに期待していたわけではなく、手頃な値段だし試してみようという感じでしたが、一口飲んでその風味に衝撃を受けました。すぐにグーグルでそのウイスキーについて調べましたが、著名なウイスキー評論家にも評価され、ウイスキーバイブルに選出されていると知り納得できました。

他にも日本ではヨーロッパで見かけない食材を手に入れることもできました。梨を初めて食べたのですが、あのみずみずしさと甘みはとても美味しかったです。滞在中は日本国内を旅行し、伝統的な漬物や納豆に加え、様々な料理にも挑戦しました。ほとんど全ての物が美味しかったですし、ずっと話し続けられるくらいとても豊かな食文化だと思います。

非常に食文化が好きで情熱もあるようですが、なぜシェフのような仕事ではなく監督になろうと思ったのですか?

小さい頃から母にも〝あなたはきっとシェフになるわね〟と言われ続けていました。ですが、シェフという職業では、祝日など、みんなが休みの時に仕事をしなければなりません。そのことを考えた時に、それは自分がやりたいことではない、と思ったからです。料理を作るのは大好きなので、毎日料理をしますし、家族に振舞ったりもします。好きだからこそ距離を置いているのでしょう。

この映画の制作を通してRene達と一緒にキッチンに立ってみたい、いつか今の仕事を辞めてシェフになるのもいいかもしれないと思える瞬間もありましたが、それと同時にシェフになるということはとても大変で、彼らのようなレベルになるためには多くの知識、技術、努力が必要なのだということも再確認できました。なので私は映像を通して食材を提供してくれる農家や漁師の仕事に注目したり、シェフの努力や技術などを伝え、たくさんの人に食について考えて欲しいと思ったことが監督を目指したきっかけです。

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今回の制作を通して難しかったことはなんですか?

全体を通してとても楽しかったです。もちろん料理とは食べることを目的に作られているので、実際に味わえない映像を通してどれだけ伝えられるか、という点はテレビの番組制作の時から難しく感じています。また、実際のキッチンの中では大きなドラマがあるわけではなく、テクニカルな発言が多かったり、考えることが多くあまり会話がなかったりと撮影していて単調になりがちです。他のフード番組ではシェフがいつも怒鳴っている印象があると思いますが、そのようなありきたりな作られたドラマではなく、この映画にふさわしい自然なドラマを見つけることがとても難しかったです。

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テレビ番組と映画制作で感じた大きな違いは何ですか?

テレビでは放映日に向けて番組を制作し、作り終えた後もすぐに次の作品に向けて制作を開始します。テレビ作品は次から次へと消費されていくイメージですが、映画だと作品が長く残るのがいいですね。一つの作品を完成させるために1年半以上という長い時間を費やしたのも初めてでした。その後、このようにフェスティバルに招待されて初めての土地を訪れることができたことも良かったと思います。

今後挑戦したいことは何ですか?

次も食に関連した何かを創りたいと思っていますが、それが何かはまだ決まっていません。今回の映画撮影の為に今まで働いていたテレビ制作の仕事を辞め、自分のプロダクションも休業状態ですので、テレビ番組ではないことは確かです。また映画を撮るか、本を書こうか考えているところです。他にもチョコレート会社を運営しているので、それがどのように育っていくかにもよると思います。

異国の地トロントで頑張るTORJA読者にメッセージをお願いします。

この作品は食に関連した映画ではありますが、クリエイティブであるという面から多くの人に共感してもらえる映画だと思います。シェフ以外のどんな職業でも新しい物を作る為に、考えて、試して、失敗から新しいことを学び、また挑戦する。その繰り返しから得られる結果を皆さんにも見ていただきたいです。私たちは環境が大きく変わった時、その環境に順応する為に考え、新しい知識や技術を身につけることができます。皆さんのトロントでの生活もそのように有意義になるといいですね。今回この映画を見逃してしまった方は、日本での上映も予定されているので帰国した際にぜひ観てみてください。


Ants On A Shrimp

“世界一予約の取れないレストラン”と称されるコペンハーゲンにあるレストラン“NOMA”。幾度となく世界一食べたいレストランに選ばれるほどの人気店が2015年1月にマンダリンオリエンタル東京に期間限定でオープン。コペンハーゲンのNOMAを閉め、スタッフ全員と日本へ渡ったオーナーシェフRene Redzepi。シェフReneが日本独特の食材を調べ尽くし、東京での営業に向け新しいコースメニューを創り上げるまでの苦労と努力を写したフードドキュメンタリー。

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Maurice Dekkers

tonyschocolonely.com
オランダ出身。主にテレビ番組向けのフードドキュメンタリーを製作しており、今回の“Ants On A Shrimp”で長編映画デビューを果たす。監督としての顔の他にもテレビ制作会社“DahlTV”やチョコレート会社”Tony’s Chocolonely“の社長を務めるなどフード関連で幅広く活躍している。