カナダから日本を見つめる 日本経済に関する講演会 開催
在トロント日本国総領事館、ジャパンソサエティらが共催
11月29日、30日の二日間にわたり、日本経済についての講演会が行われた。今回スピーカーに迎えられたのは、元日銀理事であり、現在はアフラック・シニアアドバイザーである木下信行氏。29日は、トロント大学マンク国際問題研究所日本研究センターと、在トロント日本国総領事館が共催するJapan Now講演会シリーズの第3回目、かつ日本研究センターの開設記念シンポジウムとして開催。30日にはジャパンソサエティ、在トロント日本国総領事館、Torys LLP共催(その他提携企業・団体多数)で、日系企業やカナダの現地企業などから集まった人々を対象に開催されることとなった。
トロント大学マンク国際問題研究所での講演
冒頭では、マンク国際問題研究所暫定所長ランダル・ハンセン教授、そして伊藤恭子総領事による挨拶が行われた。伊藤総領事はマンク国際問題研究所の関係者への謝辞を述べ、カナダと日本の関係はとても重要であり、トロント大学に日本研究センターが設置されたことはとても大きな意味を持っているとした。
講演者である木下氏は、日本経済を企業レベルから分析した際に見えてくる問題点と、日本経済が成長と革新を続けていくための解決策について説明。その中で、日本における問題点は企業の低い生産性と、減少し続ける労働者数であると述べた。加えて、日本の生産性は研究開発に多額を投じているにも関わらず、内向き志向により革新的な製品やサービスの開発が難しく、アメリカやドイツ、その他OECD加盟国に遅れをとっていると指摘。今後これらの問題を解決していくにあたり、キャピタルリロケーションや生産性の低い企業を救済し続けるのではなく、EU諸国らを手本に、新しい企業やアイデアを受け入れていく体制を整えていくことが重要だと述べた。そして、日本は新しいことを始めるまでに時間はかかるが、一度始動するとしっかりとやり遂げるため今後の動きに期待したい、と講演を締めくくった。
続いて、アントン・ブラウン・アトランタ連邦準備銀行シニア・アドバイザーにより、少子高齢化が日本経済に与えている影響とその対策に関しての講演が行われた。日本は生産年齢人口1人あたりのGDPの値が世界でトップとされているが、その労働者の数は年に90万人ペースで減少しており、このままでは日本経済の衰退が懸念されるとブラウン氏は述べる。ブラウン氏は打開策として、増税して政府の出費を現行のままにする、政府の出費を減らす、出生率の回復、ジェンダーギャップを無くす政策実施、そして移民の受け入れという5つの案を挙げた。
この日の講演会に対し、日本研究センター暫定所長ルイス・ポーリー教授は、「テーマが「経済」だったにも関わらず政治や社会、そして国際問題にも目が向けられたことで、日本研究センターの開設記念シンポジウムとして極めてふさわしいものとなった」と述べた。
Torys LLP Toronto Officeでの講演会
翌日、Torys LLP Toronto Officeにて行われた講演会。冒頭では、ジャパンソサエティのベン・シプリエッティ会長より挨拶が行われ、今回ジャパンソサエティのイベントに初の出席となった伊藤恭子総領事を歓迎すると共に、日加修好90周年となる2018年には様々なイベントやセミナーを計画していると述べた。
前日同様、滑らかな口調で講演を進めていく木下氏。グラフなど、あらゆるデータに基づいた説得力あるレクチャーに、会場の誰もが真剣に耳を傾けていた。講演後に設けられたQ&Aセッションにおいても参加者より多くの質問が寄せられ、経済大国である日本が抱える問題に対して、カナダの人々も非常に興味を持っている様子がうかがえた。
最後にジャパンソサエティのエグゼクティブディレクターを務める奥沢麻美氏より参加者や関係者各位へ謝辞が述べられ、これまでもジャパンソサエティは人々を繋ぐことで、日本とカナダ間のビジネス・経済における関係性強化を務めてきたが、今日の講演はまさにその良い例となったとした。今回初めてカナダを公式訪問したという木下氏には、参加者のサイン入りの『CANADA IMAGES OF THE LAND』という写真集が贈呈され、非常に和やかな雰囲気の中、講演会は幕を閉じた。