カナダのなぜ?-移民編- 移民の受け入れに積極的!?|特集「カナダの“なぜ”に迫る」
「カナダ」と聞いて、読者の皆さんは何を思うだろう?ナイアガラの滝、メープルシロップ、はたまた「アメリカの隣」だろうか。しかし、現地で話を聞いてみると、皆が一様に口を揃えて答える言葉がある。それは「オープンマインド」だ。TORJA10月号の46人インタビューでも、カナダと聞けば「多国籍」「多文化」といった言葉が散見される。読者の皆さんもカナダ生活の中でこのことは非常に色濃く感じるのではないだろうか。
今、世界を見渡すと「分断化」が進み、移民排斥のニュースも日常茶飯事だ。ではカナダはどうだろう…。難民の受け入れにも積極的で移民大国として注目されるカナダの国民世論の趨勢について考察したい。
ー現状は?
トロント市内を歩いていても、本当にさまざまな人種、宗教の人が街中を行き交っている。「人種のサラダボール」「多文化モザイク」という言葉では足りないほどである。こちらでは数カ国のバックグラウンドを持つ人と出会うことなど日常茶飯事である。
ー国民はどう思っているのか?
カナダという国がオープンマインドであることを疑う余地はないだろう。大手紙や統計局、民間調査会社のどの意識調査でも、移民に対して厳しい目を向ける意見は少ない。
しかし一方で、減少傾向にはあるものの、「あまりにも多くの移民が、カナダの価値観を取り入れていないと思いますか?」との問いに対して、いまだに半数以上が「はい」と答えている。
たしかにカナダの至るところで漢字やハングル、アラビア語など様々な言語が飛び交い、英語を見かけることの方が少ないエリアも存在する。行き交う人々も英語を話してすらいない場所もある。中国系移民が多いエリアでは、銀行の名前が英語よりも大きく中国語で記載されているのも事実だ。
労働力
カナダ統計局によると、カナダの人口は3671万人。これは日本の首都圏とほぼ同じである。それだけの人口が、世界第2位の広大な面積を誇る一国を支えている。移民政策の影響でカナダはG7最高の5%の人口増加率を記録している。
また、2017年の世界銀行の調査では、高齢者(65歳以上)の割合はおよそ17%であり、労働者人口の低下が懸念されている。なお、世界平均は8.7%で、日本は2017年時点で27%なのでより深刻だ。
世論調査でも、「最も優先されるべき移民のカテゴリーは何だと思いますか?」との問いに対し、「経済移民」との答えが最も多く、次点で「家族移民」だった。
また、「今後5年間で、政府が経済移民を増やすことにどの程度賛成しますか?」との問いに対し、半数以上が賛成と回答している。カナダ国民が移民に対して求めるものは労働力であり、経済的貢献を期待して受け入れているのだろう。
反対意見
調査では、半数以上の52%もの人々が「移民の数は適切だ」と回答しているレポートもあるが、移民が「多すぎる」と回答している人々が23%にも上っているものもある。その背景として、アイデンティティのの欠如、移民による雇用機会の損失、犯罪率の増加が挙げられる。
CICは、2019年には新たに33万人、2020年には34万人、2021年には35万人をさらに受け入れるプランを発表した。引き続き、カナダは今後も移民受け入れに舵を切り続けるだろう。しかし、ロイター通信によると、カナダ人の約半数48%が米国からの不法入国者の送還を望んでいると調査報道があったのも記憶に新しい。
美しい変化
奈良時代の歌人に、阿倍仲麻呂という人物がいる。彼は遣唐使として唐へ渡り、結局その地で科挙に合格し、高官にまでなって大成した。彼は終ぞ日本には戻らず、唐の地でその生涯を終えた。彼の死は、『詩仙』李白も大いに悲しみに暮れたとされている。
このような、相手国から「自国に留まってほしい」と思われるよう努めることも肝要になってきているのではないだろうか。
カナダの国旗にも使われているサトウカエデの花言葉は、「Reserve(蓄え、遠慮)」そして「美しい変化」であるという。建国から150年が経過したカナダ。これからの150年の価値とは、その先頭に立つことなのかもしれない。
排除・排斥といった世界の潮流をカナダから変えていく、それこそが世界にとって最も「美しい変化」になり得ていくことだろう。