「子の成長を見届ける母」 | トロントの日系幼稚園の園長先生コラム【第88回】
前回、フォスター犬について書いた記事を読んでくださったTORJA読者の多くの方からご感想を頂き、驚きと同時に感謝の気持ちでいっぱいです。
パピーミルのことを初めて知ったという意見も多かったのですが、「何かできることはないですか?」と言ってくださる方までいらっしゃり、保護犬について関心を持ってもらえた事が本当に嬉しく、書いて良かったなぁ、と心から思っています。
さて、フォスター犬さくらも、一生一緒に過ごせるステキな家族が見つかり、無事巣立って行きました。
実は、フォスターファミリーとしてボランティアをすることになってから、どっぷりとこの活動にハマってしまいまして…さくらの後にもすぐ、また別の保護犬サニーをフォスターすることになりました。フォスターする家族のメーリングリストに〝緊急〟のメールが来て、この保護団体が救助しようとしている犬のリスト内で殺処分の日が迫っている仔がいるので誰かフォスターできないか⁉というものでした。無理してでも引き取ってあげれば、助かる命がある!そう思ったら、手を挙げないわけにはいかないのでした。
9月からフォスター犬を受け入れ始めたばかりの新米夫婦が、右も左も分かっていないのに、一度に2匹も普通とは言えない環境で育って来た犬を引き取るのですから、家の中はひっちゃかめっちゃか(笑)。パピーミルで育ってきた仔達は、ひどい食生活を強いられてきた事から、栄養バランスのとれたちゃんとした食事を始めると、お腹の調子が悪くなる仔が多いのだそうです。
うちに来た仔達もそれに漏れず、来てすぐに吐くわ下痢だわで大騒ぎ。夜も寝られず、ひっきりなしに後始末です。不思議なもので、赤ちゃんが居るのと同じなんですよ、これが。寝ていても、犬のちょっとした動きでパッと目が覚め、辛そうな状態を何とか抱っこして添い寝して乗り越え、犬が安らかな眠りに付き始めてくれた時には、母の様な気持ちと安堵感で私もぐっすり眠れます。こうした事を繰り返していると、これまた母子の絆に似た様な信頼関係が築けるのです。生まれて初めて信頼できる存在の人間に出会った安らぎ。
お母さんに頼り、甘えて、お母さんだけを見ながら日々を過ごし、目一杯の愛情を受けて多くのことを学んでいきます。一緒にしてはいけないんでしょうが、人間の赤ちゃんとフォスター犬のお世話って、本当に似てるんです〜。
そして、子育てを通して、親も成長できるところも、そっくりなんです(笑)。1匹1匹に個性があって、性格も体調も好みも能力も全く違いますから、それぞれの仔にあった内容のことをその仔のペースで進めてあげる。個性を大切にしたいから色々調べて勉強するので、知識も身につきます。忍耐力は基本中の基本ですが、言葉で訴えることの出来ない仔の状態を把握しないといけませんから、観察力も養われます!忙しい生活の中で時間の優先順位を考えて行動し、手を抜けるところは存分に抜き、タイムマネジメント力も向上。こうして、新米フォスターママも、フォスター犬を通して学び、成長している訳です。ね、人の子育てそのものでしょ?これは、私の職業柄、仕事にも非常に有利です。もう、良い事ずくめじゃないですか!
こうして、家族として同じ時間を過ごし、どこに行くにもママの後追いをして来た仔達とUnconditional Loveで繋がっていたとしても、フォスターママはやがて子離れしないといけなくなる時期がやって来ます(涙)。
これまた、実際の親子関係も同じですよね?親より(いえ、親とは違った形で)もっと他に好きな人が出来る時が来ますから。子の幸せを誰よりも願い、新しい家族に託す。寂しくも嬉しい瞬間です。
兄弟姉妹がいる家庭は、こうして一人、また一人と送り出しているんですね。私は、実の息子がまだドシンと家に居座った状態ですので、こんな気持ちになるのはまだ先かと思っていましたが、まさかこんな風にワン娘たちを次々と嫁に出すとは全く思ってもいませんでした。
こうして今現在、池端家はなんとも不思議な家族構成が成り立っている訳ですが、実際にはなんとなくこれまたナーサリーとも似ている様な…。卒園して行く子達を見送ったかと思ったら、季節が変わり新人さん達をまた迎え入れる。
一人一人の可愛い園児、また1匹1匹のフォスター犬の成長を見届け、送り出す。大切で掛け替えのない時間や想い出を積み重ねていける私は…なんとも幸せで…たまりません。感謝。
池端友佳理
京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立、園長を勤める。