カナダ人茶道家 ランディー・チャネル宗榮さん インタビュー
20年以上、日本の茶道界で活躍を続けているカナダ人茶道家、ランディー・チャネル宗榮さん。茶道家としてお茶会の開催以外にも、執筆活動やカフェの経営など多岐にわたる活躍が注目されている。そんなランディーさんに茶道を始めたきっかけや世界が持つ抹茶のイメージ、今後の茶道についてなど幅広く語ってもらった。
なぜ日本へ行き、どのような過程で茶道を始めましたか?
まず一つだけ、裏千家では茶道を“Sado”とは呼ばず、“Chado”とよんでいます。私がもともと日本を訪れた理由は茶道ではなく武道を学ぶためにきました。当時の私は茶人になるなんて思ってもいませんでしたね。ただ、私は文武両道の信念を身につけたいと思い、茶道を習い始めました。今では茶道を始めて30年経過し、茶道を教える立場にもなりましたが、私自身まだまだ学ぶことも多いです。
茶道を通してどのような日本文化や歴史を学びましたか?
私は1993年から1996年まで裏千家学園茶道専門学校に通っていました。午前中は裏千家に関わる歴史や芸術の勉強に専念し、午後は実際にお茶の点て方や手順、裏千家の心得を学びました。お茶はしばしはある種の芸術だと言われていますが、それはお茶が様々な日本の文化伝統を引き継いでいるからだと思います。
つい先日、ちょうどそのトピックについて本を書き終えたところです。「茶の湯文化は日本のマスターキー」というタイトルで、まさにお茶を通して広く日本の歴史や文化を学ぶことができることについて触れており、私自身も本当にたくさんのことを学ぶことができました。
ランディーさんがカナダ人茶道家として活躍される中で、日本人から質問されて答えにくいことや説明が難しいと感じることは何ですか?
まず、日本人はそんなに多くの質問をしてきません。今まで日本中で講演会を開催し、いつも最後に質疑応答の時間を設けていますが、「何か質問がある方はいますか?」と聞いた瞬間に会場がシーンとしてしまいます。
ただ、一度誰かが質問をしてくれると次々と質問が出てくることが多く、実際は本当に色々な疑問・質問を抱えている人が多いようです。その最初の質問を引き出すことが1番難しいことですね。答えにくいというわけではなくですが、日本人にとって理解しがたいことがより面白い質問のようで、〝なぜ私が茶道をしているか〟という質問を1番多く受けています。
日本人ではない外国人に茶道を説明する時に1番気をつけていることはありますか?
私は日本人であろうとなかろうと対応や説明するときに区別や違いをつけないように気をつけています。例えば、カナダ人全員がホッケーをするわけではないように、日本人だからといって全員がお茶を飲み、お茶についての基礎知識があるわけではないからです。私が唯一区別をするのは英語で話すか日本語で話すかですね。
日本人は本物の抹茶は苦いものであると分かっていますが、アリゾナのような甘い飲料が外国には売られています。それらによって外国人が間違った抹茶のイメージを持っていることはありますか?
日本でも私が抹茶を出す時に参加者の方から抹茶に対して強いイメージを持っている印象は受けません。そもそも多くの人が抹茶には黒味を帯びた濃緑色の濃茶と鮮やかな青緑色の薄茶という2種類のお茶があることを知りません。しかし、肝心の飲み物としての〝お抹茶〟よりもケーキやアイスクリームなどデザートに使用される抹茶味は非常に人気が高く、その評判はすでに世界中に広がっています。
最近になって非常に健康に良いとして飲み物の〝お抹茶〟も注目が集まり始めています。食物繊維、ビタミン、葉緑素が豊富で、非常にたくさんの抗酸化物質が含まれています。それは抹茶が世界で一番混じりっけのないお茶だからでしょう。紅茶やウーロン茶のように酸化させたり、発酵させることもなく、何かと混ぜて風味付けすることもありません。
実際に私のカフェで出している抹茶も京都府京田辺市で取れる茶葉のみを使いオリジナルの抹茶を作っています。濃茶・薄茶それぞれに2種類ずつのブランドを用意しているので飲み比べて頂くこともできますよ。
海外での抹茶ブームはこれからももっと広がりを見せると思いますし、それに伴い、外国の人々も抹茶についての知識・見解を深めていますね。
私たち日本人にとっても正座を長時間することは辛いのですが、どのように克服しましたか?
最初に助言として、正座はあまりしないでください。多くスポーツドクターが正座は血の循環を止めてしまい、関節にストレスを与えてしまうので、体に良くないと言っています。ただ、茶道においては正座をする機会が多いのですが、練習して慣れていくしかないですね。中には相慣れないタイプの人もいるので、それは仕方がないと思います。
近年、日本での茶道人口は減っていると思うのですが、今後の茶道についてどうお考えですか?
確かに現在は茶道人口は減少傾向にあると思いますが、その時々のトレンドによって一気に増えたりすることもあるので、また茶道の波はくると思います。1980年代、バブルの時が1番茶道人口が多かった時だと思います。ただ、長年に渡って、いつも私のお店にお茶を楽しみに来る人がいるので、常にお茶に興味がある人がいるのは確かです。
問題はどれぐらい真剣に深く茶道に取り組みたいかでしょう。大切なのは多くの人が抱いている茶道に対してのマイナスイメージや間違った考えをなくしていくことだと思います。一般的に茶道は作法に厳しくてお金が掛かり、つまらないものだと思われているかもしれませんが、もっとオープンに茶道を広めていくことで実際に試してくれる人も増えるでしょうし、茶道のいい部分を見て、経験してもらい、友人と一杯の茶を共有する楽しさを知ってもらいたいです。
次に向けて何か始めていることはありますか?
先ほど紹介させていただきましたが、11月には私が書いた「茶の湯文化は日本のマスターキー」が出版されます。すでに出版社の方から次は和食について本を書きませんか?と声を掛けてもらっているので、今後はその執筆に向けて準備や調査で忙しくなると思います。ただ、正直に言うと一番の目標は十分に蓄えて早く引退することでしょうか。
カナダ人であるランディーさんからトロントに留学・ワーホリに来ている若者にアドバイスやコメントをお願いします!
私はもう長い間日本に住んでいるので、逆にカナダらしい経験について聞く立場のような気がしますが、一番伝えたいことはたくさんの友達を作り、一緒に様々なイベントやパーティーに遊びに行ってください。
また、学校外での活動を充実させたり、興味があることについて勉強することをお勧めします。習えることはアイスホッケーを含むスポーツや音楽、料理、芸術など、数えきれないほどありますし、もちろんカナダでも裏千家の勉強ができます。学校以外のイベントでは、自分と同じ興味を持った人が集まるのでより強い絆が生まれるかもしれませんし、英語以外にも何か楽しく学べるのがいいですね。
ランディー・チャネル宗榮 15-1a.com
裏千家教授の資格をもつ日本で活躍をしているカナダ人。長野県松本市から京都へ拠点を移し、現在彼がプロデュースしたカフェ「らん布袋」を経営している。現在は教室だけでなく、テレビや雑誌など活動の場を広げている。
らん布袋 ranhotei.com
京都市中京区上瓦町64 京都三条会商店街内