インタビュー 浜野高宏氏
NHK編成局コンテンツ開発センターのチーフ・プロデューサーとしてドキュメンタリー作品に携わりながら、Toronto Hot Docsに長年参加。今年長年のドキュメンタリー作品に対する功績を称えるMogul Awardを受賞された浜野氏にこれまでの経緯など話を聞いた。
プロフィール:1966年生まれ。1990年にNHKに入局。広島放送局、報道局、NHKエンタープライズ勤務などを経て、現在、編成局コンテンツ開発センター、チーフ・プロデューサー。国際共同制作で「祖国を奪われた人々」(2006)、「異界百物語」(2008)、「ナノ・レボリューション」(2012)などを制作。また、東日本大震災後は「震災後を歩く デヴィッド・スズキ」(2012)、「心をひとつに」(2013)、「波の向こう」(2013)などをプロデュース。その他、「妖しき文豪怪談」(2010)、「太秦ライムライト」(2013)などの制作・劇場上映にも携わる。
■ トロントの街、またHot Docsについての印象はどうですか?
もう20回ぐらい来ていますし、トロントは大好きです。Hot Docsは素晴らしいフェスティバルだと思います。世界中いろいろな所に行かせてもらっていますが、1番感心するのはトロントの人がドキュメンタリーを熱心に見るところです。たぶん世界でもここまで熱心なドキュメンタリー専門のフェスティバルはあまりないのではないかと思います。その街全体の雰囲気が私たちのドキュメンタリー制作を支えてくれている気がします。
■ 今回Mogul Award賞を受賞されましたが、ご感想は?
こういう賞は日本にはなく、普通私たちがもらう賞は作品に対する賞です。なので、この私に対する「よく頑張りましたで賞」という感じがとても不思議な気持ちでした。ですが過去欧米の人ばかりが受賞していたこの賞を私が受賞することで、これから世界で活躍したいと思っている日本人にはある意味勇気になるかなと思います。それに最近、日本の若い監督やプロデューサーたちとTokyo Docsというピッチセッションを始め、このフェスティバルのようなことをしたいと思っている人が増えています。そういう背景もあり、私が賞をもらったというよりは、日本のそういった人たちに対してHot Docsの人たちが「いっしょにやっていこう」という意味を込めた、そういう賞だと思っています。「日本人を代表していただきました」という気持ちですね。
■ 日本のドキュメンタリーを世界の人々に見てもらうという気持ちはいかがですか?
嬉しいです。僕は日本人であることが、海外では売りになると思っているので、「自分の後ろには日本がある」というのをいつも強調してきました。それが自分らしいと思いましたし、日本のユニークなところは、やっぱり外国の人も面白がってくれます。海外向けの作品は外国の人にとって知っている世界で、それではつまらないですよね。そういう意味で、いわゆる純粋な日本の話が海外ではうけるということに気がつきました。
■ もともとドキュメンタリー作品を作りたくてNHKに入社されたのですか?
実は私はもともと映画監督になろうと思っていました。大学では全然違うことをしていたのですが、高校生の頃8ミリフィルムを遊びで撮っていました。いざ就職となった時に、映画監督は就職してなれるものではないとわかり、近いものはテレビかな、と思いNHKに入社しました。最初は報道局という部署へ行き、その後広島に3年間いたのですが、その時に5分とか10分のドキュメンタリー番組を作っていました。それを1年2年やっていくうちに面白くなり、いつのまにかドキュメンタリーが専門になっていました。
■ ドキュメンタリー作品を作るとき、その題材を取り上げるきっかけなどはどこで得ますか?
ドキュメンタリー素材の特別なきっかけは、あるような、ないような感じです。今私はスポーツ番組や旅番組の制作もやっています。仕事ですので必ずしも「やりたい」と思っているものだけでは成り立ちません。ただ本当にやりたいものは自分の中にひっかかります。情報は色々な人と会ったり、本を読んだり様々ですが、私は好奇心旺盛なので、気になるものを調べ始め「面白いかもしれない」といって始めることが多いです。また仕事を長くやっていて良かったのは、何もしなくても人から「こういうことをやりたい」という売り込みがあったりします。また日々の発見はメモにとっておいた方がいいと思います。それが5年後くらいに花咲いたりしますね。
■ Hot Docsを始め、浜野さんは世界中の方とお仕事をする機会が多くあると思いますが、海外の方と働くときに戸惑うことなどありますか?
いろいろありますが、基本的に国籍、年齢、性別などはあまり気にしません。面白くて共鳴しあい、楽しくできる人であればいっしょに仕事をしたいと感じます。海外に来ても、やはり良い人、嫌な人両方いますよね。それは日本も同じだと思います。それにせっかく作ったら日本だけじゃなく、世界中の人に見てもらいたいので、コスモポリタンな感覚を持っている人とやりたいですね。いろいろな世界の人と仕事をする機会があるのがこの仕事の面白いところです。
■ 文化の違いで戸惑うことはありませんか?
文化の違いで戸惑うことはあります。私は比較的カナダはとても日本に近いと思います。難しいのはヨーロッパの人ですね。何時間も続けて言い合いになることもあります。相手も引かないのですが私も引きません。ですがそのやりとりの中でお互いのボトムラインを理解できるのだと思います。しっかり伝えるということはやはり大事で、初めは探り合いですが、何度か仕事をし、仲良くなるとそういうことを早めに出し合ってスムーズに確認できるようになります。本当に相手が必要なことを分かった上で新しいルールを作っていくということが大事だと思います。
■ トロントで目標のために頑張っている日本人に向けてメッセージをお願いします。
トロントに来ているみなさんはすでに行動力のある人たちです。「いつか海外に行けたらいいな」と思うだけで実行に移さない人も多いです。私は初めてHot Docsに来た時、何もわからないままピッチセッションに参加しました。1年間アメリカにいましたが、それでも全ての質問が理解できたわけではありません。ですが私は根が楽観的なこともあり「とりあえず居よう」と思い参加していました。そうすると面白いもので可愛がってくれたり、気にかけてくれる人に出会えました。下手でも一生懸命何かに取り組んでいると、なんとかしてやろうという人が出てきてくれます。それを信じて一生懸命取り組み続けることが大切です。ポジティブ・楽観的ってとても重要なキーワードですよ。