サントリーホールディングス 新浪 剛史社長 インタビュー
サントリーホールディングス
新浪 剛史社長 インタビュー
日本とカナダの経済交流イベントにてサントリーホールディングス 新浪剛史社長が登壇。講演後、TORJA編集部では同氏にインタビューを実施。ビームサントリーのカナダ市場への展開やTPPを軸とした日加交流への期待、さらにはトップビジネスリーダーとしてのメッセージなど様々な分野で語ってもらった。
多くの日加ビジネス関係者が参加した注目の講演会でしたが、振り返ってみていかがでしたか?
多くの方に参加していただき、 とても有意義な機会でした 。全ての質問に対して時間の関係でお答えすることができず、ただそれだけ多くの質問があるということは皆さんが非常に関心を寄せて頂いているということなので、大変有り難いと思いました。トロントというのは大変綺麗な街で、同時に皆さんのホスピタリティ・マインドを感じさせていただいたので、また良い季節の時に訪れたいと思います。
ビジネス界のトップリーダーとして多忙な新浪社長ですが、過去も含めてトロントには出張などでよくお越しになったのでしょうか?
実は非常に久しぶりでして、1989年にハーバード・ビジネススクールにいるときに、スーパーマーケットで代表的なLoblawに視察に行きました。President’s Choiceなどのブランドを持つ同社は当時非常に先進的な経営をしていて興味を持ちました。もう20年以上前のことになってしまいますが…。今回トロントの一番の印象は、トロント・カナダという国はダイバーシティなのですね。カナダという国はダイバーシティの価値を徹底的に受け入れているのが、すごい強みだと感じました。
世界最大のスピリッツ市場であるアメリカに隣り合うカナダ市場ですが、北米といってもカナダはカナダなりの特徴があると思います。そこでビームサントリー(*1)におけるカナダの位置づけや今後の展開など教えてください。
生産面においてはカナディアンクラブ(*2)があるので、これをより一層伸ばしていきたいと思います。マーケットとしてはカナダのマーケットは非常に大きなポジションに位置しており、そういった意味ではジムビーム(*3)といったバーボンを中心に、我々が持っているシグニチャー・ブランドを中心に更なる拡大に努めていきたいと思っています。
*1 2014年、サントリーによるジムビーム社の買収はその額1兆6000億円、当時世界第4位のビーム社と第10位のサントリーが一緒になったことで世界3位のプレミアム・スピリッツメーカーが誕生し、大きな話題になった。
*2 オンタリオ州のウィンザーに蒸留所を持ち、大自然が育てたライ麦・とうもろこし・ライ麦芽・モルトを原料とし、6年以上の熟成期間を経て、手間ひまかけて仕上げられている。
*3 1795年から続く伝統と格式を持つジムビームは世界No.1バーボン(2014年販売数量。「IMPACT NEWSLETTER February 1&15 2015号」より)として世界中の人から愛されている。
最近の報道でサントリーワインインターナショナルが日本国産ブドウだけを使った「日本ワイン」をビームサントリーの営業力と販路を使い成長が期待できるアジアに海外展開していくとありました。また日本のプレミアム・ウイスキー(*4)は今世界の愛好者の中でも人気が集中しており、また日本製ウイスキーの評価も高まるばかりですが、今後カナダでも御社の日本製ウイスキーなどが楽しめるようになるのでしょうか?
長期的にはそうなるかもしれませんが、現在は、需要が生産量を上回っており、皆様のご期待に簡単に応えることができないという状況になっています。近年、世界的なウイスキーのコンペティションで弊社製品が最高賞を授賞するなど、高い品質を背景に、世界で日本のウイスキーがブームになっています。大変ありがたいことなのですが、長期熟成が必要なウイスキーの生産量をすぐに増やすことができないためこの状況はしばし変わらないという、大変申し訳ない気持ちです。
*4 サントリーが手掛ける日本製プレミアム・ウイスキーは世界のウイスキー業界で数々の賞に輝いている。その一例を紹介。
■サントリー「響」30年
2004年、2006年、2007年、2008年のインターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)「トロフィー(最高賞)」。
2007年、2008年のワールド・ウィスキー・アワード(WWA)「World’s Best Blended Whisky」。
■サントリー「響」21年
2013年、2014年、2015年のISC「トロフィー」。
2010年、2011年、2013年のWWA「World’s Best Blended Whisky」。
■サントリー「山崎1984」
2010年のISC「トロフィー」、「Supreme Champion Spirit」。
2011年のWWA「World’s Best Single Malt Whisky」。
新浪社長は、政府の経済財政諮問会議の民間議員も務められ、講演の中でも先日大筋合意がなされたTPPについて、さらには日本国内の少子高齢化についての問題と改善策、外国人労働者の雇用の規定などについても語られていましたが、大きな枠組みの中で日本は今後どのようになっていけば良いとお考えでしょうか。また日本人の今後あるべき姿とはどのようなものなのだと思いますでしょうか。
まず日本人のあるべき姿とは、日本の文化や歴史を自ら体現できるしっかりとしたアイデンティティーを持っているということだと思います。海外に行くと様々な国の人たちから日本っていいよねと良く言われます。これは日本人ならではの「相手を思いやる気持ち」やホスピタリティ精神など日本文化に根差したユニークネスが相手に好印象を与えているのだと思います。「俺が、俺が…」というマインドではなく、「みんなでやろうよ」という意識は、絶対日本人には重要だと思っています。
一方で海外に出て行く場合、そのような日本人らしさ、日本的なやり方だけで世界に通じるかというとこれが通じないことが多いと思います。
思ったとおりに事が運んでくれるわけではありません。日本人としての課題は、日本人のアイデンティティやホスピタリティ精神など良さを持ちながら、世界に出たら主張するべきことはクリアに主張すべきということをもっとやっていかなければならない事だと思います。
また私は日本の「ものづくり」が中長期の視点では益々重要になってくると思っています。一つずつコツコツ良くしていくという考えはとても大切です。もちろんファイナンスといったお金の面からビジネスを捉えることも重要なのですが、私は実体的なビジネスの柱となる「ものづくり」「技術」「社員のモチベーション」等がそれ以上に大事になってくると思います。これらがTPPを通じてこれから大きくなる経済圏の中で、世界各国に良い製品・商品やサービスを提供できる強みになってくると思います。
カナダとの関わりでいえば、農業関係などカナダの強いところと日本がもっている良いところが一緒になり、ブレンドされていく。これからTPPを経由してこういう取り組みがどんどん出てくると思います。TPPの枠組みは政府が作っていくのですが、活用は民間同士がやっていくのです。人と人を経由して、どんどんボーダーがなくなっていく。今後は民間がどうTPPを活かしていくかということに掛かってくると思います。
カナダにも多くの日本人在住者がおります。ビームサントリーの商品を愛する方々にメッセージをお願いします。
ビームサントリーはジムビームをはじめ、アイリッシュのカネマラ、スコットランドのボウモア、そしてカナダの皆様よくご存知のカナディアンクラブといった多種のブランドを展開しています。スコッチ、アメリカン、カナディアン、アイリッシュ、ジャパニーズこれらの世界5大ウイスキーを世界で唯一持っているのがビームサントリーです。この世界唯一というユニークネスをカナダでも是非エンジョイしていただきたいです。
最後になりますが、カナダという多文化・多民族、そして英語環境の地で頑張る日本人や目標に向かって走る若者にメッセージをお願いします。
私がトロントに来てとても驚いたことは、トロントはアメリカに比べ、ダイバーシティが進んだ都市であるということです。
ダイバーシティを受け入れているカナダにいることはすごく強みなので、それを“take it for granted”と受け取るのではなく、ダイバーシティの中で暮らしているという価値を実感して欲しいと思います。是非このダイバーシティに対してバリューを感じ、そしてエンジョイする、またそれを是とする世界で活躍してほしいと思います。
みなさんには今カナダにいることに価値があると認識し、自分のものとして将来活躍するリーダーとなっていってもらいたいですね。
新浪剛史(にいなみ たけし)
サントリーホールディングス代表取締役社長
1959年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、81年に三菱商事入社。91年、ハーバードMBA取得。2002年、ローソンの代表取締役社長に就任。14年10月より現職。経済同友会副代表幹事。14年9月より、経済財政諮問会議民間議員を務める。