カナダ・日本・世界を見つめる8人組 #26


トロント市民はリスとあらいぐま(ラクーン)とで街を共用している。
大きな庭や公園の近くに住んでいる人なら、特にラクーンを身近に感じているに違いない。リスと違って、基本的に夜行性のラクーンを直にみたことがなくとも、生ゴミが道に散らばっている光景は目にしたことがあるに違いない。
ラクーンはかわいい。めっちゃかわいい。そして賢い。とてもずる賢い。しかも器用。なぜか非常に器用なのだ。で、好物は人間が出す生ゴミ、特に肉類が大好きだ。
数年前、トロント市ではゴミ対策の一環として一軒家の外に置くグリーン・ビン(生ゴミを対象としたボックス)、ブルー・ビン(リサイクル製品を対象としたボックス)、ブラック・ビン(普通ゴミを対象としたボックス)のゴミ回収システムを導入することにした。
すでに問題となっていたラクーンの生ゴミあさりを防止するため、グリーン・ビンのデザインはあくまで、ラクーンが絶対に開けられないことが条件であった。そして各々の家庭へ届けるまえに一年間テスト期間も設けた。その一年の間、ラクーンがグリーン・ビンを開けて生ゴミをあさることはなかった。これなら大丈夫ということで、いざ、各家庭へ新しいゴミ用のビンが届けられた。(ちなみにトロントのゴミ回収は生ゴミが週1、リサイクルと普通ゴミは隔週の回収である。)
さて一般家庭へ出回った新しい「ラクーン絶対防止!」のグリーン・ビン。ところが瞬く間にラクーンたちに開けられ生ゴミを荒らされてしまった。ラクーン防止のはずが・・・と皆最初はショックを受けたが、現実に開けられるのだから仕方ない。
トロント住民に配布されるゴミ箱。左から生ゴミ用、普通のゴミ用、リサイクル用。生ゴミは毎週、普通のゴミとリサイクルはそれぞれ隔週に集められる。
大きな石を乗せたり、バンジーコードで止め口を強化したり、週一のゴミ回収の日まで生ゴミを冷凍庫に入れたり、と各家庭でそれぞれ対策を練ってラクーンとゴミ問題に対応をしてきた。また今後もしていかざるを得ないであろう。
我が家でも数年前まで生ゴミ荒らしのラクーンと格闘(?)をしていた。その様子を先日、日本から遊びに来ていた方に話をしたら予想以上の関心と笑いが取れたので、私も忘れる前に書き留めることにした。
有りがたいことに我が家には古いガレージがあり、ドアは頑丈な両開きである。私たちは新しく来たグリーン・ビンをガレージの中に入れていた。ガレージの中なのでラクーンの心配はないと思ったのは束の間。チキンの骨が生ゴミに加わったときは99%の確率で荒らされた。野菜だけの時は荒らされなかったことに気がついたので肉はゴミ回収前日にしか食べないようにしようと試した時もあった。ガレージには鍵はないが、留め式なので、その留めを変えたりしても不思議なことにいつも器用に開けられた。ビンの上に大石も乗せてみたが、グリーン・ビンは見事に押し倒されていた。肉のにおいを消すため、ポプリなどをガレージの中に入れてもみた。
すべて、見抜かれた。そして地面に散らばった生ゴミをかき集めることに慣れ初めてきたとき、ふと、ガレージの天井の柱からグリーン・ビンをぶら下げることが出来るのではないかということに気がついた。紐でつるし、地面から150cm以上浮いているグリーン・ビンをさすがのラクーンも手を出そうとはしないだろうと実行してみた。安心してその晩のチキンの骨が入っている生ゴミも入れた。
次の朝、案の定ガレージは開いていた。でもさすがに今度こそ、ラクーンに勝ったぞ、という気持ちでガレージの中をのぞいた。グリーン・ビンはまだ天井からぶら下がったままだった。が、蓋は開いていて、生ゴミが地面に散らばっていた。敗北。見事ラクーンの勝利。
グリーン・ビンの下に娘の三輪車が動かされていたことから想像すると、いつものように肉の匂いを嗅ぎつけたラクーンたちがガレージを開け、届かないところにあるグリーン・ビンに手が届くように、ガレージ内にあった三輪車を側に動かし、チームワークで肩車でもしながらグリーン・ビンを開け、中のものを取り出したのであろう。まったく、感心するしかなかった。我が家はしばらくベジタリアン食になった。
ラクーンの不思議さは続く。何故か、その「天井ぶら下げ事件」以降私たちのゴミが荒らされることはなくなった。代わりに、裏庭のデッキに糞のプレゼント(?)が週一ぐらいで置かれている。生ゴミ処理か糞処理か。悩みはつづく。
今後ともトロント市民はこの可愛いく、器用で、ずる賢いラクーンと生活を共にしていくことでしょう。
ケートリン・グリフィス
カナダ・バンクーバー生まれ。8歳から15歳までを神戸の公立学校で学び、現在でも神戸弁での会話が大好きだ。大学院では日本史を専攻。ライヤソン大学継続学習スクールとトロント大学で日本語、日本史の講師を勤めてきた。異分野で活躍する女性たち、Group of 8の仲間との刺激的な付き合いからは学ぶことが多く、とても楽しい。
The Group of 8
2011年夏、カナダ在住の翻訳家や通訳、活動家、物書き、研究家、学生などの有志が集まり、それぞれの分野で築き上げてきた仕事や研究、日常について語り合ったのがG8の会の発足のきっかけとなり、月に2回ほどカナダ・日本・世界についてのコラムを発信している。
thegroupofeight.com






