カナダ・日本・世界を見つめる8人組 #34
カナダ横断の旅とそのお供:その2 by ケートリン・グリフィス


前回に引き続きカナダを横断したときに選んだ本の紹介をしたいと思う。
私と友人はオンタリオ州から出発しマニトバ州を通り、サスカチュワン州に入った。この州は、プレーリーとよばれる平原草原地帯だ。ここを紹介するユーモアなフレーズがある:「もし犬が走り去ってもその姿を1週間見続けることができる」。それくらい平坦な地形だ。それを鵜呑みにしていた私は初めてプレーリーを目のあたりにし、少しがっかりした。「たしかに、視野を制限するビルや森もないし、走り続ける犬を目で追うのは簡単だろうけど、さすがに1週間は無理だよ。1日ぐらいじゃない?」「いや~、2日は大丈夫だよ」と真剣に友達と話し合ったことが、今でも微笑みとともに思い出される。
さて、この地平線が美しいプレーリーを横断するにあたり、私たちが選択した作者はサスカチュワン州出身のW. O. Mitchellだった。
彼の代表作の1つ、Jake and the Kidはもともと1950年代に民放ラジオ番組で放送するために彼が書いた作品である。それを小説化したAccording to Jake and the Kidのオーディオ版のカセットテープ(当時はまだカセットプレーヤが車にあった時代)を聞きながら広がる大地を前に運転しつづけた。物語の設定は1940年から50年代、 サスカチュワン州にある人口80人ほどの農村で暮らすThe Kidと呼ばれる男の子を中心にプレーリーならではの田舎生活の模様を鮮やかに、そしてユーモラスに描いている。
私たちは逃亡する犬の姿を何気なく探しもとめながら、語り手の声に耳を傾け、穏やかな気持ちでザ・キッドと彼の村で繰り広げられる世界に吸い込まれていった。プレーリー生活の大変さや良さを感じながら、初めてのプレーリーなのに不思議と見渡す景色を懐かしくさえ思った。
友人の叔父家族がサスカチュワン州の田舎で暮らしているので、1泊お世話になった。小さな集落で、まさに人口が80人ぐらいしかいないような場所だった。
余所者は珍しいのであろうか、ジロジロ見られただけでなく、車で後を追われ「誰に会いに来たんだ?」と問われ、その叔父の名を告げると「あー、なんだ、それならあの道を曲がるといいよ」と道案内をしてもらったが、さすがに驚いた。
確認の連絡を入れたようで、私たちが車で叔父の家に着く前にすでに家族が出迎えてくれていた。やっぱり田舎!都会育ちの私としてはこれはかなりのカルチャーショックであったがW.O.Mitchellの世界をちょっと味わえた~、と感動もした。
このこともあり、次に読む本も同じ作家にした。他にも選択肢があったのだが、2人とももう少しこのプレーリーの世界に浸っていたかった。結果、彼の代表作、まさに「カナダ文学を象徴する」とも言われていたWho Has Seen the Windを読むことにした。これもプレーリーを舞台に少年・ブライヤンの目を通して語られるが、特に死とどう向き合っていくのか、という人生の諸相を問いかける。笑いあり、泣きあり、とにかく感動する傑作で、W.O.Mitchellならではのユーモアと優しさあふれる物語である。もしプレーリーを旅するのなら彼の作品をお供に選んでほしい。
さて、音楽のお勧めはサスカチュワン州生まれのJoni Mitchell。
偶然にも苗字は同じだが親戚ではないらしい。しかし、彼女もWho Has Seen the Windに魅了された1人で、同じタイトルの曲を1967年に作って歌っている。まだ彼女の歌を聴いていないのであれば、是非お奨めしたい。
またオンタリオ州出身のバンドで当時カナダ国内で大人気だったThe Tragically Hip(The Hip)の曲も聴いてもらいたい。独特の歌声にリズム感、90年代をカナダで過ごした若者なら必ず彼らの曲を聴いて共に歌って踊っていたはずだ。カナダ横断中の私たちもそうであったように・・・
ロッキー山脈横断の本の選択はまた次の機会に書きたいと思う。
ケートリン・グリフィス
カナダ・バンクーバー生まれ。8歳から15歳までを神戸の公立学校で学び、現在でも神戸弁での会話が大好きだ。大学院では日本史を専攻。ライヤソン大学継続学習スクールとトロント大学で日本語、日本史の講師を勤めてきた。異分野で活躍する女性たち、Group of 8の仲間との刺激的な付き合いからは学ぶことが多く、とても楽しい。
The Group of 8
2011年夏、カナダ在住の翻訳家や通訳、活動家、物書き、研究家、学生などの有志が集まり、それぞれの分野で築き上げてきた仕事や研究、日常について語り合ったのがG8の会の発足のきっかけとなり、月に2回ほどカナダ・日本・世界についてのコラムを発信している。
thegroupofeight.com






