元トヨタ・カナダ社会長のレアル・タンゲイ氏が旭日中綬章を受章
1月23日、旭日中綬章を受章したレアル・タンゲイ氏の叙勲伝達式が総領事公邸にて行われた。トヨタ・カナダの会長、そしてトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・カナダの社長を務めたレアル・タンゲイ氏。カナダにおける自動車産業の発展に貢献したと同時に、トヨタの企業精神である「トヨタ・グローバルビジョン」をカナダにおいて発信し、日本とカナダの経済関係を発展させるべく重要な役割を果たしたとされ、今回旭日中綬章が認められた。
日本の製造方法・企業精神をカナダに
伊藤恭子総領事は、タンゲイ氏を「日本にとって素晴らしい盟友である」と讃え、今回の受章を祝福。受章に至るまでタンゲイ氏は様々な功績を挙げ、カナダにおける日本の自動車産業への投資をカナダ経済の重要な一部にしたとタンゲイ氏の影響の大きさに言及した。
中でもタンゲイ氏が大きく影響を及ぼしたのが、カナダにおける「カイゼン」や「ジャスト・イン・タイム」など日本の製造方法や精神の普及だ。1991年にトヨタ・モーター・マユファクチャリング・カナダ(TMMC)に入社したタンゲイ氏。当初、日本の製造方法や精神はまだ馴染みのないものだったため、簡単には受け入れられなかったという。しかし、タンゲイ氏の主導により、これらの文化が徐々に普及し、TMMCの製造数拡大にも寄与。彼の製造方法に対する姿勢が広く知られ、日本の企業文化がカナダへより広く発信されるきっかけになったそうだ。
タンゲイ氏の努力の成果により、カナダで生産されるトヨタの自動車の品質は大幅に向上。TMMCは自動車製造業界の中でも名誉ある「JD Power Award」を何度も受賞した。この功績が日本のトヨタ本社の目にも留まり、TMMCがいまや全世界に普及している「レクサス」の日本国外拠点第一号として選ばれることになった。
また、タンゲイ氏自身もカナダ人として数々の「初」を成し遂げた人物だ。2010年7月にはTMMCでカナダ人として初の会長に就任。2013年4月にはトヨタ・カナダで同じくカナダ人として初の会長に就任した。
トヨタの上席執行役員の一員になった際、彼はトヨタの「グローバル・ビジョン」の作成を主導。2011年に発表された「グローバル・ビジョン」の中には「高い品質」はもちろん、「地球環境に寄り添う意識」といったサステナビリティへの高い意識、そしてタンゲイ氏自身がカナダにも発信し続けてきた「改善の精神」というキーワードも盛り込まれている。今となっては全世界におけるトヨタで共有されている企業理念。この「グローバル・ビジョン」を通してタンゲイ氏はトヨタを「真の意味でグローバル企業にすることに成功した」と伊藤総領事は述べた。
日本とカナダの架け橋に
さらに、日本とカナダの間の橋渡し役としても活躍したタンゲイ氏。CAPCの自動車投資小委員会委員長として常に変わりつつある貿易や投資を取り巻く環境を分析し、日本とカナダの両政府に様々な提案を行った。オンタリオ州のキャサリン・ウィン元首相が日本を訪問した際にもアドバイザーとして同行したタンゲイ氏。ウィン元首相と共に、トヨタだけでなく多くの自動車や後期関連の企業を訪問し、日本とカナダの経済関係がより強固なものになるべく貢献したという。
また、企業や政府レベルのみならず、地域に根付いた草の根運動においても活躍。TMMCの活動の一部として、日本とカナダの青年ホッケーチームの交流にも携わったという。カナダのチームが日本を訪れた際にも同行するなど、キャリアを通じて幅広い世代やフィールドにおいて二国間の関係強化に貢献した。
「私」ではなく「私たち」で成し遂げた結果
続いてタンゲイ氏本人が登壇。「日本国外での最高峰の勲章である旭日中綬章を受章できたのは光栄なこと。自分が行ったことが認められるのにこれ以上に意義のある章を考えられない」と感極まった様子だった。しかし、タンゲイ氏は「この章は決して一人で得たものではない。私ではなく「we」(私たち)を祝福するべき」だと周りのサポートの重要性を強調。「今までやってきたことは一人ではなく、全ての人と共にやってきたものだ」と語った。
「カナダ」と「ジャパン」のシナジーにより生まれた成長
続いてタンゲイ氏はTMMCの成長の経緯について言及。「初めは小さい工場で、誰もここまで成長するとは思っていなかった」と振り返った。TMMCの飛躍的な成長についてタンゲイ氏は、TMMCの「ロゴ」を引用した。TMMCのロゴには「カナダ」を象徴する大きな「C」と「ジャパン」を象徴する大きな「J」があり、この二文字が共に頂きを作っている、と説明。「これは両国のシナジーの象徴である」と二国関係の重要性を強調した。この精神を元に、ケンブリッジの工場の生産能力は年に5万台のから年に9万7000台へと大きく成長。いずれは20万台以上を生産する予定だという。
さらに、TMMCとして飛躍的な年となったのが2003年。「レクサス」を製造する日本国外の第一拠点としてTMMCが選ばれたのだ。それより12年間、日本国外でレクサスを製造する唯一の工場として、カナダにおける自動車産業がいかに高品質であるかということをカナダ国内外に証明する絶好の機会になったという。TMMCは今となっては全体で年に50万台以上生産する工場に成長。多くの雇用も創出され、地域に貢献することができているとタンゲイ氏は語り、「コミュニティーのサポートに感謝したい。サポートなしでここまで来ることはとても難しいことだった」と改めて感謝の言葉を述べた。
一方で、TMMCも雇用創出のみならず様々な形で地域へ貢献。同社が培ってきた製造の知識が業界内の他の企業から病院にまで応用されているという。この例を元に、タンゲイ氏は「ものづくり」の本質について言及。製造業の核となる「ものづくり」とは「モノ」を作ることだけではなく「ヒト」を作ることでもあるとした上で、「社会に貢献するということが私たちが目指す最終目的だ」と地域貢献の重要性を強調した。このためにも、「私たちが培ってきた知識を共有することで世界を少しでも変えることができたら本望だ」と語った。