【特別インタビュー】文化庁「新進芸術家海外研修制度」活用ー多様性の街トロントに導かれてー入江恭平さんと万里紗さん|2人のアーティストが選んだ道|カナダで挑戦する若者
文化庁の「新進芸術家海外研修制度」。毎年、採択されるのはごくわずか。その狭き門をくぐり抜け、ヨーロッパやニューヨークが主流の中、研修先にトロントを選んだアーティストが2人いる。
世界で活躍する劇団「Corpus」に所属し、舞台芸術プロデューサー/マネージャーとして活動する入江恭平氏。そして、「Tarragon Theatre」にレジデントアーティストとして滞在する女優・戯曲翻訳家の万里紗氏だ。
私はトロントで活動する中で、この2人と日系アートコミュニティーで出会う機会に恵まれた。せっかく同じ街にいるのなら、この「偶然とは思えない選択」について、ぜひ話を聞いてみたい――そう思い、取材を申し込んだ。
入江恭平さん
「カナダで学ぶ〝新しい働き方〟舞台芸術の未来をつくるために」

応募のきっかけ
日本で体を壊したことをきっかけに、合理的で多様性に配慮した労働環境に興味を持ち、応募前からトロントに滞在していました。そして、日本の労働環境を変えたいという思いが強くなり、そのために「吸収する」つもりで応募しました。
現在の活動
「Corpus」では、劇団の経営、国際的なセールスやプロモーション、海外公演のためのノウハウを学んでいる入江さん。カナダのアートマネジメントやアーツカウンシル制度、現地の組織運営などについてもリサーチを進めているという。
「今の日本の若者は、自分の権利を主張するようになり、新しい日本へ変わろうとしている〝前夜〟にいると感じています。だからこそ、カナダが持つ多様性や公平性を、僕が今しっかり吸収し、それを日本へ〝輸入〟することが、現在の自分の役割だと思っています。」
今後について
現在、研修の成果をもとにしたシンポジウムを企画している入江さんは、研修後は日本で演劇業界のユニオンを設立し、海外と日本を舞台芸術でつなぐプロデューサーを目指すという。
「トロントでの経験を通して見えてきたのは、アートを取り巻く環境を〝人の意識〟だけでなく、〝仕組み〟から変えていくことの重要性です。これは日本の舞台芸術だけの話ではなく、アート業界、ひいては全産業界に広げていきたいテーマでもあります。こうした取り組みこそが、日本が国際社会の中で次のステップへ進むための鍵になると感じています。この研修は、その第一歩です。」
万里紗さん
「声なき声を可視化するジェンダーと多様性をめぐる挑戦」

応募のきっかけ
「数年前から、なんとなく〝カナダが呼んでいる〟という感覚があったんです。たまたまカナダ演劇に詳しい方と出会う機会があり、戯曲をたくさん紹介していただいたのですが、〝ここまで勇敢な戯曲が書けるのは、観客を信頼している証だろう〟と感じました。」
一方で、日本でジェンダーをめぐる問題を上演する際、どこまで自分たちと地続きの問題として観客に提示できるかは、いつも挑戦のしどころだとも感じていう。
「文化的な土壌が大きく違う気がしたんです。それを解き明かしたいと思いました。」
そう語る彼女には、いつも〝埋もれてきた女性たちの声を舞台に上げる〟という目標があった。
現在について
「入江君がハード(制度)をつくる人だとすれば、私はソフト(作品)によって社会に働きかけるタイプかもしれません。アプローチの方法は違っても、志す先は同じだと思っています」と語る。
また、彼女はジェンダー問題だけでなく、LGBTQや「障害」を持つ人をめぐる課題にも視野を広げている。
「マイノリティのアーティストが活躍する姿の可視性が低い限り、全員「日本人」全員「健常者」の物語しか生まれません。関心を持つ機会がなければ、多様な人々がその人らしく生きられる社会の必要性にさえ、一生気づかないかもしれない。社会を変えるのは制度だけではなく、物語や文化の側でもあると思うんです。」
今後の目標は、「カナダフェミニズム現代戯曲シリーズ」の出版と、在外研修報告会の開催だという。
インタビューを終えて(Hanano)

今回の取材で、私自身が映画や舞台を学ぶためにトロントへ来ると決めた日のことを思い出した。その原点に立ち返りながら、この街の「多様性」の素晴らしさをあらためて再認識できる機会となった。芸術って、やっぱり素晴らしい!
https://corpus.ca/about/corpus-team/kyohei-irie/
万里紗(Tarragon theater 所属)
https://tarragontheatre.com/artists/artists-in-residence/














