知らないと困る!事実婚(コモンロー)夫婦の法定相続|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第8話】

 カナダでは、インカムタックスの申告や、移民申請など、法律婚と事実婚(コモンロー)の夫婦は、多くの場面で同じように扱われ、社会的にも同等の夫婦として認知されています。しかし、実際には、私たちの社会生活を規律する一つ一つの法律で、「配偶者(Spouse)」の定義が異なるため、それぞれの法分野で法律婚と事実婚が同等に扱われたり、扱われなかったりするのです。また、事実婚の成立に求められる同居期間も、一年から三年と、法律によって異なります。 そのために世間では、相続権についても、「事実婚=法律婚」であるという大きな誤解を招いています。

無遺言で死亡すると、法律婚と事実婚の扱いは同じではない

 夫婦関係が、法律婚であったか、事実婚であったかによって、大きな違いが生じるのが、パートナーが遺言書を残さずに亡くなった場合です。それでは実際に、どのような違いがあるのでしょう。 

 なお、ここでお話する「遺産(Estate)」には、受取人指定のある生命保険やレジスタードプラン(RSP, RIF, TFSAなど)、また共有名義の財産(銀行のジョイントアカウントや不動産など)、生存するパートナーへ支払われるペンション等は含まれません。以下のお話で、故人の遺産(Estate)を構成する財産の例としては、夫婦のうち一人の単独の名義になっている不動産や銀行口座、投資などがあります。

1.遺産管財人の任命優先権は同じ

 これまでお話してきたように、遺言書を残さずに亡くなると、あなたの代わりになって残された財産を取り扱うことができる、「遺言執行人」(Executor)がいないため、裁判所で無遺言による遺産管財人(Estate Trustee Without a Will)の任命が必要になります。現在の法律では、遺産管財人任命に申請することができる人の優先権は、法律婚・事実婚に関わらず、故人の配偶者もしくはパートナーとなります。この点で、二つの夫婦の形に差異際はありません。

2.法定相続人としての権利

①法律婚の場合

 結婚していた人が遺言書を残さずに亡くなった場合、残された配偶者は、法定相続人(Heir)として最優先の順位に立ちます。オンタリオ州の法律では、無遺言で残された配偶者には、優先的相続分(Preferential Share)として、遺産の中から最初の20万ドルを相続することになっています。そして、亡くなった配偶者との間に子供がいる場合は、遺産から20万ドルを差し引いた残りの財産を、配偶者と子供との間で分けることになります。ちなみに、同じ法律は、法律婚の同姓愛夫婦にも適用されます。

②事実婚の場合

 一方、事実婚のパートナーが無遺言で亡くなった場合、残されたパートナーは、オンタリオ州の法定相続法に従えば、遺産の法定相続人になることができません。もし、亡くなったパートナーとの間に子供がいる場合は、その子供が第一順位の法定相続人になります。子供がいない場合は、亡くなったパートナーの両親へ、両親がすでに他界している場合はその兄弟姉妹へ、と血縁関係をたどって、法定相続人が決められています。 

 そうはいっても、残されたパートナーに法的救いの手がないわけではありません。まず、残された事実婚のパートナーは、亡くなったパートナーの遺産に対し、扶養者手当請求(Dependant’s Support Claim)の訴えを起こすことができます。 その他、残されたパートナーが、事実婚期間中に亡くなったパートナーの財産の形成に貢献したことを理由に、その寄与を遺産の一部から請求すること(Unjust Enrichment Claim)もあります。ただ、これらの請求は簡単なプロセスではなく、裁判所に申し立てる必要があり、費用も時間もかかるだけでなく、残されたパートナーへの精神的負担は計り知れません。

 特に、よくあるケースとして、事実婚にあった故人の法定相続人が未成年の子供となり、原則として、子供たちの遺産金は州の裁判所に18歳になるまで預けられるため、子供たちの親である残されたパートナー自身には遺産が残されず、財政的に困窮してしまうことがあります。

遺言書を準備して問題を防ごう

 このように、事実婚関係にある人が無遺言で死亡した場合、法律婚夫婦に比べ、残されたパートナーへの法的保護はそれほど厚くありません。事実婚関係にある人は、遺言書をはじめ、それぞれの状況に応じた、エステートプラニングをしておくと安心でしょう。

【おことわり】このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。


スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。