要注意!こんな遺言書は揉めやすい|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第25話】

 新年明けましておめでとうございます。本年も皆様のお役に立つ情報をお届けできれば幸いです。

 さて、遺言書を作成する最大の利点は、あなたの死後の財産をあなたの希望に即して処分することを可能にするということです。しかし、遺言書の内容によっては、必ずしもご本人の希望が完全に実現しないことがあります。今回は、「」が「争続」になりやすい、揉めやすい遺言書についてのお話です。 

①のこされるべき人にのこされていない遺言書

 遺言書は、通常、家族関係に考慮しながら作成されます。本欄第10話と第11話では、家族間での遺産をのこす義務についてお話しましたが、通常、のこすべき相手として自然に考えられる配偶者や扶養義務のある子供に遺産をのこさない場合は、十分に注意が必要です。 

 例えば、夫婦間の場合、遺言書の中で残された配偶者に遺産が一切のこされていない場合は、死別に伴う家族法上の扶養的財産分与の請求(Equalization Payment Under the Family Law Act)や、扶養者手当請求(Dependant’s Support Claim)を申し立てられ、裁判に発展する可能性があります。

 また、親子間の場合、未成年の子供や、学生や障害を持つ成年の子供などに、遺産が何ものこされていない場合は、亡くなった遺言者の扶養義務が死後も継続しているとみなされることから、扶養者手当請求を申し立てられる可能性があります。 

②のこさない理由が問題になる遺言書

 親子関係の悪化は、遺言書の中で、子供に遺産をのこさないと決める大きな理由となります。もし、その子供への「のこさない理由」が、カナダという国が推進する価値観に反するものだとどうでしょうか。 

 これはオンタリオ州で数年前に争われた例ですが、あるジャマイカ系カナダ人の父親が、白人男性と結婚した娘に対して、遺産を一切のこさなかった遺言書を残しました。しかし、この遺言書に納得できなかった娘は、父親の相続させない動機が人種差別に基づいているとして、遺言書の無効を訴える裁判を起こしました。第一審では、この父親の動機が、公共政策に反するとしてこの遺言が無効に。しかし、第二審では、この判決が覆り、裁判所は、遺言者の「遺言の自由」を尊重するとして、この遺言書を有効であるとしました。

 この裁判は、なぜ相続させないかについての理由が、人種差別などカナダが推進する価値観に反するものであれば、もめるかもしれないという注意を喚起したものといえます。 

③相続人に問題がある遺言書

 遺言書で遺産をのこす相手である相続人が、カナダが尊重する価値に反するものであると、もめる可能性があります。 

 数年前には、ニューブランズウィック州のある男性が遺言書で25万ドル相当のコインコレクションを含む遺産の一部をアメリカのネオナチ団体にのこすという内容の遺言書を残して亡くなりました。その後、この遺贈の有効性をめぐり裁判に発展。その結果、第一審、第二審ともに、州の裁判所は、公共政策に反するという理由で、この団体へのこの遺贈を無効としました。このように、遺言の自由は、のこす相手によっては、実現されないことがあります。 

 そのほか、遺言者を殺害した相続人、テロリスト団体が受遺者の場合など、裁判所がその相続・遺贈を無効にしています。

④のこす条件が問題の遺言書

 遺産をのこすべき相手にのこす希望はあっても、のこすことに様々な条件を付ける遺言書もあります。では、遺言書で次のような条件を付けて遺産をのこすことは可能でしょうか。  

「私の娘が日本人の夫と結婚した場合のみ、遺産をのこす」
「私の息子が私と異なる宗教に改宗したら相続させない」
「私の娘が一生独身で私と同居していれば、遺産をのこす」 

 実は、これらの条件は、過去にカナダの裁判所で無効であると認められた条件の一例です。それぞれの事情で、遺産を相続させるための条件をつけたいという親心は、古今東西共通かもしれません。しかし、結婚や信教の自由を奪うなど、相続人の私生活を著しく侵害するような極端な条件は、公共政策に反するとして、無効になる可能性があります。 

専門家のアドバイスを

 以上のようなリスクに注意し、揉めそうな遺言内容を考えている場合は、あなたの希望ができる限り実現されるよう、専門家のアドバイスを受けることが重要でしょう。 

[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。

スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。