おひとりさまの相続対策|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第27話】
無遺言で亡くなった場合はこうなる
①遺産は法定相続人へ
まず、お子さんがいない方が遺言書を作らずに亡くなった場合、残された遺産は、法定相続人(Heir)の間で分けられます。お子さんがいない方の、オンタリオ州の法定相続人の優先順位は次の通りです。
子供がいない法律婚の夫婦の場合は、残された配偶者が全遺産を相続。
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子供がいない独身者、もしくは、子供がいない夫婦のうち最後に残された配偶者が亡くなった場合は、故人の両親の間で等分。
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両親が先に他界している場合は、故人の兄弟姉妹の間で等分。
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先に他界した兄弟姉妹がいる場合は、他界した兄弟姉妹の相続分をその子供たち(姪甥)の間で等分する、もしくは、子供がいない場合は、生存する兄弟姉妹で等分。
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甥姪もいない場合は、故人に一番近い血族の近親者(Next of Kin)の間で等分。
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近親者が誰もいない場合は、州の財産に帰属。
法定相続人は、必ずしも本人が希望する相続人ではない
その1.コモンローのパートナーは、法定相続人ではないため、子供のいないコモンロー関係にある人が無遺言で亡くなると、その両親や兄弟姉妹が法定相続人となります。
その2.法定相続人となる兄弟姉妹には、半血(異母異父)の兄弟姉妹も含まれ、同順位の法定相続人となります。
これらに加え、法定相続人探しも大変です。もし、故人が日本で生まれたカナダ居住者で、日本のご家族と長年連絡をとっておらず、ご家族情報も乏しい場合、法定相続人を探し出すのは至難の業となります。
②無遺言による遺産管財人(Estate Trustee Without a Will)の任命
無遺言で亡くなった場合の次の難点は、遺産管財人の任命です。オンタリオ州では、遺言書を作らずに亡くなった場合、遺産を扱う法的権限を持つ人物が誰もいないため、州の裁判所で遺産管財人を任命する手続きが必要になります。しかし、遺産管財人の任命には、一定の制約があります。
- (1)法定相続人が遺産管財人の任命を受ける優先順位を持つ。
- (2)遺産管財人は、オンタリオ州居住者であること。
- (3)申請する遺産管財人の任命に、法定相続人過半数以上の合意が必要。
- (4)遺産管財人の申請者は、州裁判所に保証金(Bond)を収めること。
このような制約から、法定相続人全員が日本にいる場合、日本の相続人は遺産管財人になることができません。そこで、遺産管財人として、オンタリオ州居住者を選び、日本の法定相続人からの合意を得て、保証金免除の特別手続きを取り、裁判所から任命を受けることになります。この裁判所での手続きは、複雑かつ時間と費用がかかります。また、誰も遺産管財人になる適任者がいない場合は、信託銀行や、オンタリオ州政府が遺産管財人の任命を受けることもあります。
遺言書を作るにあたって
このような複雑な手続きを避けるため、お子さんがいない方は、やはり遺言書を作成することが重要でしょう。作成時は、次の点を考慮する必要があります。
①遺言執行人(Executor)を選ぶ
遺言者の死後の遺産を扱う権限を持つ、遺言執行人を選任する必要があります。遺言執行人の候補としては、オンタリオ州、もしくは、カナダ国内居住者が好ましく、友人や親戚を選ぶことも可能です。また、カナダ国内に頼れる人がいない場合は、信託銀行(Trust Company)を選ぶという選択肢もあります。
②相続人(Beneficiaries)を決める
・個人へのこす~
日本にいるご兄弟姉妹や、お世話になった友人など、居住地にかかわらず相続人を選ぶことができます。相続分の割合についても、自由に設定できます。
・チャリティーにのこす~
相続人として、慈善団体・教会・医療機関など、支援したい団体、または、支援したい慈善目的を選ぶこともできます。カナダの多くの教会や慈善団体は、CRAにチャリティーとして登録されているため、チャリティーへの遺贈は、税的優遇があるのも魅力です。
このように、お子さんがいない方の相続は、意外に複雑です。ご自身の希望が叶うよう、しっかりと相続対策をしておきましょう。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。
スミス希美(のぞみ)
福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。