その苦労は報われる? ~遺言執行人への報酬について|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第20話】
費やす時間だけではなく、何かと気苦労も多い遺言執行人の仕事。そこで今回は、遺言執行人へ支払われる報酬(Executor’s Compensation)についてお話します。
報酬は苦労への対価
オンタリオ州の法律では、遺言執行人は、遺産管理のために経験した「手間、苦痛、苦労、時間に対する公正で正当な報酬」を請求することが許されています。それでは、遺言執行人の報酬は、どのように決められるのでしょうか。
信託銀行(Trust Company)の場合
遺言書の中で信託銀行を遺言執行人に任命した場合は、報酬契約書(Compensation Agreement)によって報酬額が定められています。通常、遺言書をサインする前に、信託銀行と報酬契約を結びますが、実際に報酬が発生するのは、ご本人がその遺言書を残して実際に亡くなり、信託銀行が遺言執行人の任命を受諾し、実際に任務を遂行した後となります。信託銀行を遺言執行人として検討する際には、信託銀行の担当者から、報酬額とサービスについて、直接説明を受けるとよいでしょう。
個人が遺言執行人を務めた場合
①一般的な計算方法
遺言執行人の報酬額の計算方法は、法律上の規定ではありませんが、長年裁判所が採用してきた料率の概算は、「遺産としての収入額の2.5% 」に「遺産からの支出の2.5%」を加えた額となります。この計算式に基づくと、遺産額の約5%が遺言執行人報酬額のベースとなります。
ただし、この料率は、あくまでも目安であり、遺産の大きさ、遺言執行人の責務、業務に費やした時間、遺産管理に要するスキルと能力、そして、遺産管理の成功度、という五大要素に照らしながら、報酬額を調整します。このように、個々の事情に応じ、遺言執行人の「公正で正当な報酬」(Fair and Reasonable Compensation)を決めることになります。
したがって、遺産額が大きいからといって、そのまま自動的に約5%が報酬としてもらえるわけではありません。通常、報酬の請求は、業務の最終段階である遺産分割前の会計報告と同時に行われ、提示する報酬額に対し、相続人全員の合意が必要になります。なお、相続人の合意を得られない場合や、未成年者や財産管理能力がない相続人が含まれる場合は、裁判所での遺産会計審査の手続き(Passing of Accounts)を踏まなければなりません。
②遺言書で報酬額を設定することも可能
遺言書の中で、あらかじめ遺言執行人の報酬額を定めることも可能です。その場合は、遺産内容や大きさ、その複雑性を考慮し、適切な報酬額を検討しましょう。
③報酬の支払いを望まない場合
もし、遺言執行人への報酬の支払いを望まない場合は、遺言書の中で報酬の受け取りを禁じることを記載しなければなりません。そのような指示がない限り、遺言執行人は報酬を請求する権利があります。なお、報酬禁止条項は、任命した遺言執行人が辞退する原因にもなりますので、検討する方は、十分に注意する必要があります。また、その旨を事前に遺言執行人へ伝えておき了解を得ておくとよいでしょう。
遺言執行人報酬は個人所得扱い
ちなみに、遺言執行人の報酬は、個人所得としてインカムタックスの対象になります。そのため、遺言執行人が相続人でもある場合は、あえて報酬を請求せず、遺産金をタックスフリーで受け取ることを希望する人も少なくありません。
良い仕事をしたことが第一の条件
報酬を受け取るためには、遺言執行人が、遅滞なく遺産管理業務を行い、詳細な会計記録をつけ、相続人の最善の利益のために努力したかどうかが、鍵となります。したがって、遺言執行人が良い仕事をしたことが第一条件といえるでしょう。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。
スミス希美(のぞみ)
福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。