タックスシーズンを活用してエステートプランを見直そう|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第15話】
読者の皆さんの中にも、遺言書は持っているけれど、気づけば、あれから数十年たっていたという方もいらっしゃるかもしれません。 そこで、今回は、 あなたの「万が一」に備えるためのエステートプラン(遺言書、財産管理・身体の世話のための委任状、生命保険、レジスタードプランなどを含む総合的な相続計画)の見直し(Review)についてお話します。
見直すポイント
遺言書や、生前の「もしも」にそなえる委任状は、「もしも」の出来事が起こる前の最後に作られた文書が有効になります。そのため、その文書がご自身の現況と希望を反映したものであるかが大事です。遺言書や委任状は、二~三年ごとに内容を見直し、次のことを中心に確認するとよいでしょう。
①遺言執行人や委任状代理人は健在か
遺言書で指名されている遺言執行人(Executor/Estate Trustee)や、財産管理・身体の世話のための委任状代理人(Attorney for Property and Personal Care)が死亡していた場合、いざこれらの文書が使われる場面になって、遺産の手続きや財産管理、身体の世話を担う人が不在となり、煩雑な手続きが生じます。
②相続人は健在か
遺言書に指定していた相続人(Beneficiary)が他界したり、遺贈先の団体がもう存続していない、相続人との関係が悪化したなど、意図していた相続人への相続分や遺贈分の行方が問題となることがあります。
③書面の内容が今の自分の希望と現況を反映しているか
遺言書の内容は、今のご自分の現在の財産状況や心境、家族関係を反映し、自分の希望に即したものになっているか確認してみましょう。たとえば、別居中で疎遠になった配偶者に、委任状で自分の財産管理や、医療行為の決定を委ねたくない場合もあるでしょう。
生命保険やRRSPの見直しも忘れずに
なお、遺言書に限らず、生命保険、RRSPやTFSAなどのレジスタードプランの受取人指定(Beneficiary Designation)についても、自分の希望が反映されているかを確かめる必要があります。たとえば、指定した生命保険の受取人が、離婚相手になったまま亡くなったとしても、離婚という行為自体が受取人指名を無効にするということはありません。この点について、裁判所は一貫して、「契約内容の更新は本人の責任である」という立場を取るため、受取人指名について争いが生じても、基本的に法的保護は望めません。
こんなときにはエステートプランの更新を
次は、エステートプランを更新すべき時期にあたる、人生の出来事の一例です。
① 新しく家族が増えた(子や孫の誕生、養子を迎える)。
② 子供が社会人になり、お金の管理を任せられる年齢になった。
③ 結婚・再婚した。
④ 遺産をのこしたい事実婚(コモンロー)のパートナーがいる。
⑤ 別居を開始した。
⑥ 離婚した。
⑦ 資産内容が大きく変わった。
⑧ 家族間で大きなお金の貸し借りがあった。
⑨ 親族から多額の相続や贈与を受けた。
⑩ 州外または国外に財産を取得した。
⑪ 遺言書や委任状に指名された家族の死亡、病気、障害に直面した。
⑫ ビジネスを始め、事業主になった。
⑬ 遺贈する予定だった特定の不動産を売却した。
⑭ 宝くじに当たった!
書面に「プランB」を盛り込む
なお、通常、専門の弁護士が遺言書や委任状を作成する場合は、頻繁に書面を作り直さなくても良いように工夫します。例えば、遺言執行人や委任状代理人の死亡・病気に備えて、第二・第三希望の人物を指名したり、相続人が遺言者よりも先に他界した場合の遺産分配について指定するなど、いわゆる「プランB」を設けています。なお、結婚・別居・離婚などの婚姻関係に変化が生じた場合、このような「プランB」だけでは対応できない部分もありますので、エステートプラン全体を見直すことが大切です(夫婦関係の変化については、本欄第4話「多様化する家族の形と相続」をご覧ください)。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。
スミス希美(のぞみ)
福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。