気になる死後の税金のお話|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第26話】
カナダに相続税はないけれど…
日本では、相続人が受け取った遺産金に対して相続税を支払いますが、そもそもカナダには、相続人が負担する相続税というものがありません。しかしカナダでは、相続人ではなく、故人の遺産(Estate)の中から税金を支払うという形で、納税義務が生じます。
死後も必要なタックスリターン
カナダにお住まいの皆さんが、毎年インカムタックスの申告をするのと同様に、死亡した後にも、故人の確定申告をする必要があります。
①Final Return: 死亡した年の元旦から死亡日までのインカムタックスのリターンは、最終確定申告(Final Return)と呼ばれ、遺言執行人、もしくは無遺言による遺産管財人などの、遺産の人格代表者(Legal Representative)が申告納付を行います。
②申告期限: 次のように、故人の最終確定申告の期限は、死亡の時期によって異なるため注意が必要です。
•1月1日~10月31日の間に死亡した場合は、翌年の4月30日。
•11月1日~12月31日の間に死亡した場合は、死亡日から6か月以内。
③T3 Return: 死亡日以降に生じた所得は、相続人への遺産の分配が完了するまで、毎年、信託用のタックスリターン(T3 Trust Income Tax and Information Return)で申告納付する必要があります。
死亡直前に全財産を手放したとみなす
カナダでは、税法上、個人が死亡すると、死の直前に、所有していたすべての財産を市場価値で手放(譲渡)したとみなされます(Deemed Disposition)。そして、財産の取得日から価値が上昇している場合は、その増加利益に対して、キャピタルゲイン税(Capital Gain Tax)が生じます。
また、RRSPやRRIF(Registered Retirement Income Fund)については、あなたが亡くなる直前に、アカウントに保有する額を時価で引き出して所得を得たとして課税されます。
夫婦間で税的責任の先送り(Spousal Rollover)
ただし、法律婚またはコモンローの夫婦のうち一方が亡くなり、残された配偶者が故人の財産を相続し、RRSPかRRIFを受け取った場合は、前述のみなし譲渡課税は残された配偶者が死亡するまで、先送りされます。
確定申告は遺言執行人の大事な仕事
故人のインカムタックスの申告と支払いは、遺言執行人の仕事の中でも、最も重要な仕事です。基本的に、インカムタックスの支払いが完了するまで、相続人への遺産を分配することができません。 仮に、インカムタックスの支払いが完了しないまま、相続人に遺産を分配してしまい、後にカナダ歳入庁(Canada Revenue Agency – CRA)から追徴課税をされたとしましょう。税金の支払いに、相続人にすでに手渡した遺産の一部を返すことを要求してお金を回収するのは、至難の業です。その結果、未払い分について、遺言執行人が自己負担する羽目になります。
㊗支払い完了~Clearance Certificateの取得
このように、故人の税的責任は、遺言執行人の自己責任にもなることから、遺言執行人の保護を図るため、遺言執行人は、CRA から故人の税金の支払いがすべて完了したことを証明する「清算証明書 – Clearance Certificate」を申請し、発行してもらう必要があります。
オンタリオ州の遺産管理税 – Estate Administration Tax
CRAへ支払う税金とは別に、オンタリオ州では、遺産の種類と大きさによって、一般に「プロベイト – Probate」と呼ばれる、裁判所での遺産管理手続きが必要になる場合があります。裁判所でのプロベイト手続きを行う際に、遺産の価値に基づき、遺産管理税を支払う必要があります(プロベイトについては、本欄第9話を参照)。
なお、遺産管理税に関して法改正が行われ、2020年1月1日より次の点が変更になりました。
①5万ドル未満の遺産については、プロベイト税が免除され、5万ドル以上の遺産には、1000ドルごとに15ドルずつ(すなわち遺産価値の1.5%)課税される。
②オンタリオ州財務省への遺産情報申告書(Estate Information Return)は、プロベイト完了日から6か月以内に提出すること(以前は90日以内)。
必ず専門家に相談を
以上は、個人が亡くなった時に生じる主な税金の基本的なお話です。税制のルールには多くの例外がつきもので、とても複雑です。生前の相続対策の段階も、死後の遺産管理の段階も、ともに専門の会計士に相談するのが得策でしょう。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。
スミス希美(のぞみ)
福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。