カナダに財産を持つ日本居住者のための相続対策|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第28話】

TORJA読者の皆さんをはじめ、日本にはカナダとつながりのある方が多く住んでいます。

人の移動と国際相続

  • 仕事や結婚で日本に移住したカナダ人。
  • 日本に留学しているカナダ人。
  • カナダに留学していた日本人。
  • ビジネスや駐在員としてカナダで仕事をしていた日本人。
  • 投資目的でカナダに財産を持つ日本人。
  • カナダに子供が住んでいる日本人。
  • 若い時にカナダに移民した後、日本に帰国してリタイア生活を送る人。

このような日本とカナダの人々の往来は、相続にも影響します。日本に住みながら、銀行口座や不動産などの財産をカナダに持っている方もいらっしゃるでしょう。そこで今月は、相続発生の拠点を日本に移し、日本人やカナダ人に限らず、日本の居住者がカナダ(オンタリオ州に限る)に財産を残して亡くなった場合の相続手続きについてお話します。

相当厄介な日加相続

①預金・投資口座の場合

カナダの銀行に預金口座や投資金口座を残して亡くなった場合、口座名義人の遺言書の認証謄本(Notarized Copy of a Will)と、死亡証明書の提出を求められます。銀行は、遺言書で任命された遺言執行人に対してのみ、残高証明書を発行します。

しかし、遺言書を作らずに亡くなった場合、日本のご家族が法定相続人であることをいくら主張しても、銀行は情報開示に難色を示します。また、遺言書がない場合は、居住国の裁判所による遺産管財人の任命証書(Certificate of Appointment of Estate Trustee)を提示するよう求められます。さらに、日本にはオンタリオ州の遺産管財人任命証書に相当する書類がないため、遺産分割協議書のような、日本で有効な相続書類を提出しても、カナダの金融機関には通用しないことがほとんどです。こうした日加間の法制度の違いも大きな壁となります。

また、遺言書があればプロベイトを免除してくれるほどの少額の口座であっても、遺言書がないために、オンタリオ州裁判所で遺産管財人任命の手続きを踏まざるを得ず、そのためのコストが全く割に合わないという事態が生じます。

②不動産の場合

日本の居住者が単独名義で、オンタリオ州で不動産を所有していた場合、その不動産を売却したり、相続人へ名義を変更するためには、遺言書が必要になります。もし、所有者が無遺言で亡くなった場合は、オンタリオ州の裁判所による遺産管財人の選任を受けなければならず、この手続きを経ずに故人の不動産の権利を扱うことはできません。

言葉と法律の壁は思った以上に高い

このように遺言書がない場合、せっかくカナダで築いた財産を残されたご家族が相続するためには、言葉だけではなく、法律の壁も非常に以上に高く、経済的にも精神的にも相当な負担がかかります。そこで、カナダに財産がある場合は、相続の円滑化のため、カナダ財産に対応する遺言書を作成することが大切です。そのためには、

  • カナダ財産用のカナダ法(財産所在地の州法)に基づいた遺言書
  • 日本財産用の日本法に基づいた遺言書

と所在地別に分けてそれぞれ用意するとよいでしょう。

遺言書は日加両国で対応を

日本居住者がカナダ財産を扱う遺言書を作成する場合は、次の点に留意するとよいでしょう。

①事前にカナダ財産の相続手続きを確認

カナダに残した財産の相続には、実際にはどのような手続きが必要になるのか、事前に現地の弁護士に確認しましょう。

②遺言執行人の任命

カナダ財産に対応できる人を確保するために、必ず遺言執行人を任命しましょう。オンタリオ州では、遺言執行人がたとえカナダ国籍を持っていても、居住地が日本である場合は、裁判所からプロベイトの許可が下りないため、カナダに住む遺言執行人を任命することが理想的と言えます。

③両国の弁護士の連携が不可欠

カナダと日本それぞれで遺言書を作成するにあたり、一方の遺言書をサインすることでもう一方の遺言書が撤回されてしまわないよう、十分に注意しながら用意する必要があります。そのため、国際相続に精通した日本の専門家と、カナダの弁護士が連携を取りながら遺言書作成を進めるとよいでしょう。

税務のアドバイスも忘れずに

最後に、法律だけではなく、日加間の相続対策には、日本とカナダ両国の税務の専門家からもアドバイスを受けることを忘れないでください。

[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。

スミス希美(のぞみ)

福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。