【TIFF】「野火」塚本晋也監督

鮮やかな大自然の中で必死に戦う人間のコントラストを描く、20年越しの思いを込めて
「野火」を作り上げた

塚本晋也監督インタビュー!

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塚本晋也監督

「6月の蛇」「鉄男 THE BULLET MAN」で知られる塚本晋也監督が20年間の構想期間を経て、大岡昇平の戦争文学「野火」を映画化!
ベネチア国際映画祭出品に続いて、今年のトロント国際映画祭ではウェイブレングス部門に出品された。非常に深い内容の映画に対して観客から寄せられたQ&Aセッションの質問一つ一つにも丁寧に答える塚本監督に心境を聞いてみた。


今年のトロント映画祭の印象

前まではよく観光にも来ていたのですが、今回は映画祭に多くの時間を割いているので、そんなに街の雰囲気を楽しめていません。映画祭自体は相変わらず良い雰囲気で、とても活気がありますよね。みなさんキビキビと映画館から映画館へ渡り歩いていますし、映画のバイヤーさんたちとのやり取りも非常に活発です。そういった意味でとても勢いがありますね。

トロントでの上映を終えて

上映後のQ&Aでは、夜中なのにお客さんがあんなに残ってくださって、またとても熱心な質問と暖かい気持ちがありました。まだできたばかりの映画なので緊張して臨んでいるのですけれども、ここトロントではほっとしました。ベネチアでは本当に一番初めの上映だったので、僕自身もぼーっとしていたこともあるのですが、ずっと長い拍手をスタンディングオベーションでしてくれました。ただ、この映画は本当に疲れる映画なので実際のところみなさんはどう思っているのかなというのは心配だったのですが、トロントでの上映後は観客の皆さんの顔が熱心で、暖かい感じだったので良かったな、と安心しました。

20年強の構想を経て今と昔の表現方法の違い

最初に作りたいと思った当時まだフィルムだったので、そうだとしたら16㎜ではなくて35㎜かもっと大きなファイルでないと自然の美しさは撮れないと思ったのですが、今はデジタルになって、極彩色の自然っていうものも割と表現しやすくなってきました。今みたいに、金銭的に難しい事態になっても撮りたいものが出来たのでそこが良かったですね。

大自然と人間のコントラスト

大自然は少し必要以上に明るくして、本当は少し暗い雰囲気にした方がいいのかもしれないのですが、あえて凄く明るくして人間の方をもっと汚らしく、黒々しく描きました。この対比が非常に大切だったのです。映画を通して全体的には突発的に物事が起こるようにしたのですが、丘に向かっていくあの場面は戦争の山場でもあるので、じっくりと表現しました。映像は激しいのですが、音楽を作ってくれた石川忠さんは、そこで激しい音楽を付けるのではなく「ここは普通に生活を営める場所なのになぜこんなことをしなければならないのだろう」という寂しい、悲しい気持ちを表現してくれました。

撮る側と演じる側、両方を通した映画製作の面白さと難しさ

面白さを追求したとき、いつも私はこういう形でやっていますので、映画を分担では考えていません。全体をひとつの塊として考えていますので、自分が体を張って表現するということが、私には向いています。ただ、今回がジャングルでの撮影だったので、健康面やお腹ぺこぺこの状態で何テイクもやり直すのは辛かったですね。テイクがうまく行かず、「またか・・・」という時もありますが何度でもやり直しました。自分の感情はゼロにして、ただ淡々とやりますね。こればかりはそんな状況を作り出してしまった自分が悪いので、怒ってもしょうがないです。

人間が極地に追い込まれた時の行動 人が人を食べること

(市川崑監督が作った)前の野火の方が「食べない」ってことへの頑張りが強かったですね。主人公は食べていませんし。原作の小説では食べているのですが、映画では食べようとしたら歯がボロボロで食べられないのです。僕のものでは原作通り、(田村の食糧が尽き、数日間彷徨って空腹で倒れた際に)食べていますね。それは猿の肉だって言われてですけど、何かを感じてはいたと思いますけどね「本当に猿の肉なのかなー」って。田村がそのあとまた食べることになるかどうかは謎なのです。食べちゃったのかもしれないですし、だからあんなに何度も謝っていたのかもしれない。食べていなかったとしても十分謝ることは多かったですし。それは皆さんで考えていただけたらと思います。

「野火」を海外で上映することについて

海外でこそ上映してもらいたいです。もちろん日本でも上映したいですが、海外の人にも観ていただきたいです。やはり日本が今どんどん戦争に向かっていると思いますから。全員がそう思っているのではないというのを、理解してもらいたいですね。戦争を体験した人の痛みを次の世代へ伝えていかなければいけないと思うのですが、言葉で痛みというのは伝わりにくいので、やはり残念なことに戦争を体験した方が亡くなり、痛み知らない人ばかりになると急速に大きく戦争へと向かっていくのですよね。

今後作りたい作品

戦争のことで一番やりたかったものはこの映画で、違うテーマでもう一本作りたいです。でも、ちょっとこのテーマを引きずったものも作りたいのですが、僕が子供だった頃の映画を作りたいですね。高度成長期で戦争が終わって、ちょうど15年後に僕が生まれているのですが、まだ戦後の余韻が残る中でどんどん新しくなって、成長していく時代ですね。

これから「野火」をみる読者へ

日本や他の国での上映の時にみて頂くか、もし見逃してしまったとしてもDVDなどで観て欲しいです。感情に訴えるというよりは、目を背けたくなるシーンもあって、ただ体に痛みを与える映画ではあるので、なかなか辛いものもあるかもしれません。美しくもない、戦争というものを考えて議論してもらったりするきっかけにして頂けたら嬉しいです。


塚本晋也

1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。14歳で初めて8ミリカメラを手にする。「鉄男」(89)で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。主な作品に、「東京フィスト」「バレット・バレエ」「六月の蛇」「KOTOKO」など。製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてに関与して作りあげる作品は、国内、海外で数多くの賞を受賞。05年には2度目の審査員としてベネチア映画祭に参加している。俳優としても活躍。監督作のほとんどに出演するほか、「とらばいゆ」「クロエ」「溺れる人」「殺し屋1」で02年毎日映画コンクールほか男優助演賞を受賞している。

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Courtesy of TIFF

野火
大岡昇平の同名原作を映画化した本作は、第二次大戦末期、フィリピンに攻め込んだ日本兵が体験する極限状態を、監督自身が演じる主人公・田村一等兵の視点から描く。インディペンデント映画とは思えない壮絶な戦闘シーンとともに、手加減なしのバイオレントな描写もある。映画全体を通して原作が鮮明に描いたフィリピンの極彩色の自然とその中でぼろぼろになっていく人間のコントラストが描かれ、戦争の深く荘厳な痛みを伝える…。