【TIFF】「さよなら歌舞伎町」廣木隆一監督
眠らない街・新宿歌舞伎町にあるラブホテルを舞台にした群像劇。
5組の男女の人生が交錯する1日を妖艶に描き出した
廣木隆一監督にインタビュー!
ヴァイブレータ、余命一ヶ月の花嫁、きいろいゾウなど数々のヒット作を作り出している廣木監督。二度目のトロント国際映画祭出品となる「さよなら歌舞伎町」はコンテンポラリー・ワールド・シネマ部門での出品となった。あえて日本の当たり前の日常を映し出した群像劇はトロントの観客にどう映ったのか。初めてのトロントはカラッとしていて体が楽チンと語る気さくな廣木監督に、本作だけでなく映画にまつわる様々なお話を聞いた。
海外と日本のお客さんの違い
海外のお客さんと日本のお客さん、一番違いを感じるところは「笑い」というところですね。日本だと、感動できないとダメ、泣けなきゃダメ、という感じがあるのですが、海外の人たちはもう少し深く観てくれるのでうれしいです。反応がたくさんあって笑えるところは笑ってくれますし。感動したと言ってくれた外国人の方もいて面白かったですね。どこで感動したんだろうと・・・(笑)。今回の作品は群像劇だったので誰かに思い入れをしてみた結果、感動したのか、それとも映画全体で感動したのか気になりましたね。多くの人は主演の染谷君の視点で見ている人が多いとは思いますけどね。ただ、映画を作る時は海外の方も見てくださるからといって、特に意識していることはほとんどありません。どちらかというと日本人の日常生活や今思っていること、日本で今起こっていることを題材にすると海外に受けるという印象です。
日本の日常の一環で映している反在日運動は恥ずかしいこと
10月に行われる釜山国際映画祭にも参加しますが、お客さんの反応は少し楽しみですね。日本でしばしば行われているヘイトスピーチは本来警察が取り締まらなくてはならないことなのに、野放しになっているのはとても恥ずかしいことだと思います。まあ、韓国でも日本の国旗を燃やすなんてことはあるので…なので釜山国際映画祭のお客さんがどういう風に観てくれるか、とても楽しみです。
比較的短いスパンでたくさんの映画を撮る
私の撮る映画はどの映画も比較的撮影期間は短いです。デビュー作は1時間の映画で撮影期間はたったの4日間でしたし。最短だと3日間 というのもありました。逆に最長は 40 〜 50日、 1ヵ月半くらいですかね。この「さよなら歌舞伎町」は2週間での撮影でした。普通のロケスタイルではなくて、皆で機材を持って次の撮影場所まで徒歩とかで移動して撮影するという形でした。この2週間殆ど寝てないのではないか、と言うくらいでしたね。ラブホテルのお客さんが帰った後、昼間に室内でのシーンを撮影して、ロビーの撮影は深夜泊りのお客さんが入った後に夜11時以降から撮影をします。そして少し仮眠してまた次の日へと言う繰り返しですね。基本的に日本の製作期間は短いです。日本のマーケットだけで計算するので、制作予算がそれほど高くないのですよ。アメリカなどは予算が高いので3、 4ヶ月とか半年とか費やしていますが・・・。 逆に制作期間が短いから年に数本撮ることができるということも言えます。
尽きないアイディアは毎日の生活の中から
今回の映画、群像劇は昔から作りたかった映画です。脚本を担当してもらった荒井晴彦さんがラブホテルのルポを見せてくださって、それは清掃員をやっている方が、ホテルの内情について書いている本でした。それがこの映画の始まりですね。他にもアイディアは、今回のように脚本家の方から企画をいただくこともあれば、自分たちで立ち上げたりもします。あとは、自分が今やってみたいことと、その時に起きた事件などから発想していくこともあれば、読んで面白かった小説や漫画からということもあるので、 割と日常生活の中で映画のことは常に頭の片隅にあります。来年公開の映画は「さよなら歌舞伎町」を含めて3作品ありますが、来年3 月公開の作品はトロントに発つ前日まで撮ってい ました。今増えてきている少女漫画からの映画化なのですけれど、少女漫画は初めてのジャン ルでとても難しかったです。1番難しかったのは 少女漫画の定番である「好き」という気持ちを伝えるということでした。
作品ジャンルの広がる転機
新しいジャンルに挑戦することができたり、撮るジャンルの幅を広 げられるようになったのは「余命1ヶ月の花嫁」の大ヒットが大きいですかね。自分の中で転機 となったかはあまりよくわからないですけれど、 世間や映画業界の方たちの自分に対する意識が変わったのは確かだと思います。自分では今も昔も同じようにやっているつもりなのですけど、 周りからの印象の変化によって上がってくる企 画も変わってきて、今に至るのだと思います。 これからはアクション映画に挑戦してみたいと思 っています。ホラーは怖いのでやりたくないです ね(笑)仕事がある限りはこれからもずっと続 けていきたいと思っています。
TORJA読者に一言メッセージ
トロント映画祭は本当にいい映画祭なのでそこで放映される日本映画はぜひ見に行ってほしいと思います。なかなか日本でも見られないような映画もあって、それくらいちゃんと見て選んでくれているので楽しんでいただけたらなと思います。そして僕らに出会ったときはぜひ声をかけてくれたらうれしいです。
廣木隆一
「性虐!女を暴く」(82)で映画監督デビューし、しばらくピンク映画を手がける。「魔王街 サディスティックシティ」(93・OV)で、ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭ビデオ部門のグランプリを受賞した。米サンダンス・インスティテュートに留学し、帰国後に発表した「800 TWO LAP RUNNERS」(94)で文化庁優秀映画賞を受賞。03年「ヴァイブレータ」で、第25回ヨコハマ映画祭の監督賞など数多くの賞を受賞する。09年の「余命1ヶ月の花嫁」は興収30億円を超える大ヒットを記録。その他の作品に「やわらかい生活」(05)、「M」(06)、「軽蔑」(11)、「RIVER」(12)「きいろいゾウ」(13)など。
さよなら歌舞伎町
「さよなら歌舞伎町」は、廣木監督と「ヴァイブレータ」や「やわらかい生活」でもタッグを組んでいる脚本家の荒井晴彦によるオリジナルストーリー。一流のホテルマンになれなかったラブホテル店長・徹(染谷)と、ミュージシャンになる夢を抱く沙耶(前田)のカップルなど、新宿歌舞伎町のラブホテルを舞台に、5組の男女の人生が交錯する1日を描く。日本ではR15の本作ではきわどいシーンが満載ながらも、妖艶で感情的なラブホテルでの1日をコメディ要素満載で作り上げられている。