【TIFF】「夢と狂気の王国」砂田麻美監督
誰もが知りたいスタジオジブリの裏側をドキュメンタリー映画として作り上げた
砂田麻美監督に突撃インタビュー!
自らの父の闘病生活をつづったドキュメンタリー映画「エンディングノート」で監督デビューをし、本作が2作目の砂田監督。知りたいけど簡単には覗けないスタジオジブリの世界を撮り続けた「夢と狂気の王国」。今年のトロント国際映画祭では、TIFF Docs部門に出品され、舞台挨拶や現地メディアのインタビューなど精力的に活動をしていた砂田監督。トロント、北米でも非常に人気が高いジブリ映画だが、その舞台裏を撮ったドキュメンタリー映画はどのように観客に届いただろうか。
トロント映画祭はずっと来てみたかった映画祭
トロント映画祭については、街が一体となってお祭りムードになっていて、お客さんたちも映画とのかかわり方がすごくレベルが高いと、先輩方から常に聞いていたのですごく来たいなと思っていた映画祭です。映画というのは基本的に受け身の姿勢で観るものですが、受け取るだけでなくそれを跳ね返すという感覚をすごく感じました。上映会後のQ&Aがあるからそれを感じられたのだと思いますが、それだけでなく自分がその映画とどのようにかかわるかということを作品ごとに考えながら観に来ているように感じられました。一方的に観せられるだけでなく、自分たちもそれに対してボールを投げ返すというような感じがあって、最近の日本に比べると非常に珍しい鑑賞の仕方だと感じました。
スタジオジブリは…夢と狂気の世界!?
スタジオジブリはとても高いクオリティのものを生み出して、かつ興行成績もいい。その2つが両方とも高いということは往々にして少ないと思うのです。でも、それを何十年にもわたって守り続けている。それがどんな場所で行われているのかを目の当たりにしたときに、猫がのんびり昼寝をしていたり、昔から同じ形の机の上で鉛筆を走らせ続けているなど、ある意味で全く期待を裏切らない形で存在していたという、そのこと自体がすごく奇跡的なものだと思いましたし、そういう中でやり続ける人たちというのはある種の狂気を孕んでいないとできないことだと思うのです。わかりやすい狂気ではないかもしれませんが、それをやり続ける信念や、ずば抜けた才能をそろえた人たちが奇跡的に同じ時期に出会ったということはものすごいことだと思います。きっと、この「狂気」という言葉は「奇跡」という言葉に置き換えることができるかもしれません。普通ではできないようなことが、平和に淡々と行われていて、こんな場所が日本の中にあるということがとても不思議でしたし、もしかしたらこういった場所はこのスタジオジブリが最後の桃源郷かもしれないという意味でいろいろなミラクルを見た気がしました。
撮影時間は短く、でも大事な瞬間は逃さないように
基本的にカメラを回しすぎるということは、映画自体のクオリティを下げることだと思っているのでまずそれはしないようにしました。やはり、撮影している相手が宮崎監督だったり高畑監督だったり、会える機会の限られた方たちですから、どうしてもずっと回したくなってしまう。でもそれだと定点カメラみたいになってしまって私のいる意味はなくなってしまうのです。そして、相手との関係性も存在として見られるのではなくカメラがそこにあるというだけの存在になってしまう。私はカメラマンも監督も兼ねていたので、反応する瞬発力を研ぎ澄ましていなければならないと思い、「この瞬間」というときを逃さないようにカメラを回していました。お気に入りのシーンは宮崎監督、高畑監督、鈴木さんがすごく絶妙なタイミングで屋上に集まってきたシーン。あれはジブリの方たちから見てもすごく貴重な瞬間なようで皆さん驚いていました。その時に自分がたまたまそこに居たことは、時々いる映画の神様のおかげだなと思います。それと1番最後のカットの宮崎監督がこちらに一人で歩いてくるシーン。後ろの方に子供たちが列になって歩いてくるのが見え、まるで宮崎監督が自分の背中を見せているようなシーンなので印象に残っています。
これから挑戦したいもの
たまたま大学の時は映画研究会ではなく、ドキュメンタリーを作るサークルにいたので、ドキュメンタリーは好きで観たりもしていました。でもずっとついている監督はフィクションの監督なので、フィクション映画はやりたいと思っています。たまたま2本ドキュメンタリーが続きましたけどドキュメンタリーだけでなく、今後はほかのジャンルにも挑戦したいと思っています。
TORJA読者への一言
日本では今ミニシアターがどんどん減っていて、いろいろな国の様々なジャンルの映画を観る機会がどんどん減っています。なので、こんなに多国籍の映画が一度に観れる映画祭というのはすごく貴重なものなので、映画に興味がある人も無い人もぜひ観に行ってほしいと思います。日本ではなかなかできない経験だということに気付いていらっしゃらない人もいると思うので、ぜひたくさんの映画を観てほしいと思います。
砂田麻美
1978年生まれ。慶応義塾大学在学中よりドキュメンタリーを学び、卒業後はフリーの監督助手として是枝裕和監督らに師事。ガンを患った自身の父親の最期に迫った初監督作品「エンディングノート」(11)は、一種の社会現象を起こし数々の新人監督賞を受賞。ドキュメンタリーとしては異例の興行収入1億円を突破した。松任谷由実(荒井由実名義)の「ひこうき雲」ミュージッククリップやau「ジブリの森」のCMの演出も手掛けている。
夢と狂気の王国 yumetokyoki.com
2013年、東京・小金井。碧々とした緑に身を隠すようにして、国民的アニメーションスタジオの“スタジオジブリ”は存在している。宮崎駿、彼の先輩であり師匠である高畑勲、そしてふたりの間を猛獣使いのごとく奔走するプロデューサー、鈴木敏夫。観客のみならず、世界の映画関係者やアニメーションの担い手たちにも多大な影響を与え続けてきたジブリの功績は、この天才たちによって紡がれ続けている。半世紀以上にわたって苦楽を共にしてきた彼らの愛憎、そして創作の現場として日本に残された最後の桃源郷“スタジオジブリ”の 夢と狂気に満ちた姿とは…。
最新作の「風立ちぬ」(宮崎駿監督)と「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)を制作中のジブリに広がる光と影に満ちた日常を通じて、繊細な表情までを捉え、スタジオの“今”を映し出した。「エンディングノート」で一躍脚光を浴びた砂田麻美監督が伸びやかに描く、唯一無二のスタジオジブリの新たな物語。