第32回東京国際映画祭スペシャルインタビュー 『カメラを止めるな!』で第59回日本映画監督協会新人賞を受賞し、最新作『スペシャルアクターズ』を公開した上田慎一郎監督


 第59回日本映画監督協会新人賞を受賞され、インタビューの翌日には東京国際映画祭での『カメラを止めるな!』の上映と、崔洋一監督とのトークイベントも予定されていた上田慎一郎監督。最新作『スペシャルアクターズ』の製作秘話とともに、現在の心境をうかがってきました。

日本映画監督協会新人賞受賞について

ー明日には東京国際映画祭での『カメラを止めるな!』の上映と崔洋一監督とのトークイベントが予定されています。現在の心境をお聞かせください。

 『カメ止め』の野外上映は、日本で1回だけ公開初期に山口県で実施したことがあって、それ以来です。野外上映だと客席のお客さんの顔が見えるので、最初はなんとなく見ていたお客さんがだんだん前のめりになって笑いだす姿が見えて、すごく思い出深かったです。今回も、野外上映をみんなと一緒に見られることも楽しみですし、お客さんの表情やリアクションが見られるのもすごく楽しみです。

 崔監督には、日本映画監督協会新人賞をいただいたときにお会いして、今回2回目です。勝手なイメージで怖い監督と思っていたのが、新人賞のときはすごく優しかったです。でも長時間しゃべったことはないので、ほどよい緊張感に包まれています。明日は30分くらいですが、「日本映画の未来」という大きなテーマで、あまりいろいろ考えていくよりは自分が思うことを素直に話せればと思っています。

ー『カメラを止めるな!』の大ヒットで様々な変化があったことと思いますが、それまでと今とで一番変わったことをお聞かせください。

 オファーをたくさんいただいてすごく忙しくなりましたし、妻と鈴木(上田監督作品で音楽を担当している鈴木伸宏氏)と一緒に会社を設立して、事務所を作ったということもあります。テレビやラジオに、このような取材を受けることも多くなり、街なかで声をかけていただくようにもなりました。自宅も引っ越しましたし、生活環境はあらゆることが変わりました。ただ僕自身は物欲があまりないので、食べるものや着るものはあまり変わっていないです。ただ、忙しくなったことで自分より年上の人と仕事をすることがほとんどになったので、以前は35歳ならもうオッサンで早く芽を出さないと、と言われていたのが、今は若いと言われるようになりました。

 精神的に変わったのは、自分の好きなことややりたいことを詰め込んで作った『カメラを止めるな!』を一番評価していただいたことで、自分の好きなことを信じていいんだという自信が深まったことです。あと、『カメラを止めるな!』が自分のやりたいこと、好きなことをやり切った作品でも、やっぱりはまらない人もいるじゃないですか。だから、それなら自分の好きなものを粛々と作っていくだけでいいという肚が決まりました。

『スペシャルアクターズ』について

ー今回、撮影の日程も迫る中で脚本をいったん白紙に戻したそうですが、そのときの心境を教えてください。

 やるしかない、っていう心境です。クランクインの2か月前に、そこまでに書いていた20ページくらいの脚本では映画にならないと思ったので、そのまま行くほうが怖かったんです。ポンコツ超能力者たちがスパイ集団となって世界を救うコメディでしたが、それはこの予算規模では茶番になると思いました。また、お客さんと地続きの特別ではない人たちが力を合わせて頑張るのが自分の映画じゃないかと思っていたので、超能力を使える人たちの設定も違うんじゃないかなと。新しいものを作るしかないと覚悟を決めたほうが、むしろ楽になった気はします。

ー出演者のみなさんに当て書きする形で脚本を書かれたそうですが、みなさんの声はどのくらい反映されているのでしょうか。

 白紙に戻したときに、アイデア、キーワード、やりたい役などを一人ひとりに聞き、それが反映されている部分は結構あります。金髪役の愛ちゃんは、どんな役かわかんないけど金髪がやりたいです、と言ったのが反映されています。主人公の大澤数人は「貧乏」というキーワードを出してきて、貧乏の役になりました。あて書きというのは、基本的にワークショップやオーディションで彼らを見ている中で、ここをすくい取ろうっていうのを反映させていった感じです。

ー物語展開について、オチを思いついてからそれに向かって物語を組み立てるのか、物語を作っているうちに、結果的にあのオチにつながるのか、という点が気になります。今のお話だと、物語より先にキャラクターがいて、そこから物語を作っていったのでしょうか。

 並行して作っていきました。最初に、日常の中で演じることを生業とする何でも屋の俳優集団がいて、そこに何か依頼が来て解決する話にしようというのが大枠で頭の中にありました。そこからキャラクターを配置して進めていきました。まず、プロットと呼ばれる骨組みを1ヶ月くらい推敲して、ある程度固まった段階で脚本に取りかかりました。

ー主人公の和人と『ジョーカー』の共通点を指摘するツイートが多く見られます。同時期に比較される映画が出てきたという点を興味深く感じていますが、意識していた社会問題などはありますか?

トークイベントの様子

トークイベントの様子

 ないです。まあ、同時期にシンクロすることって、よくあるんでしょうね。『カメ止め』を作ったときも、『ブリグズビー・ベア』という映画とよく比較されていました。ものづくりを描いたテーマだったり、監督が同い年で上映時間が一緒だったりと。なにか無意識下に導かれてやっていることかもしれないし、たまたまなのかもしれないし、とフラットに考えています。まあ同時代を生きているので、ニュースからつながったものがシンクロしたのかもしれないなとは思いますけど、意識はしていないです。

ー映画で心の病気を扱うにあたって特に気を付けたことや、注意を払った場面があれば教えてください。

 緊張すると気絶するという設定は、実際にはPTSDやパニック症候群に近いものだと思いますが、そこの描き方の塩梅はすごく慎重にやりました。あまりリアルに描くと社会派映画みたいになるし、軽く描くとコントみたいになるので。例えば、君の病名は何々、と具体化することはしないようにしました。緊張すると気絶するのは極端ですが、誰もが緊張したりプレッシャーに襲われて委縮しちゃったり、いつもの力が出せないときがあると思います。そんなふうに、誰もが心当たりのあるように心がけていたかもしれません。

ー上田監督のようなコメディ映画を作る日本人監督は、これまでなかなかいなかったように思います。映画、舞台、小説など、これまでに影響を受けてきたものを教えてください。

 アメリカ映画の古いスラップスティックコメディやロマンティックコメディが好きというのは影響があると思います。20代の頃に三谷幸喜さんの舞台やドラマや映画がすごく好きで、そこからビリー・ワイルダーが好きになりました。『アパートの鍵貸します』や『お熱いのがお好き』といった小洒落たウェルメイドコメディやロマンティックコメディが好きになり、さらにビリー・ワイルダーの師匠であるエルンスト・ルビッチも見始めました。ハワード・ホークスやプレストン・スタージェスなど、アメリカの黄金期というか、1920年代から60年代のウェルメイドなコメディやスラップスティックなコメディ、あとウディ・アレンがすごく好きなので、ウディ・アレンからも影響があると思います。主人公が格好いい奴じゃなくて面倒臭い奴とか、不器用で見ているこっちがイライラさせられてしまうようなところとか。笑いの部分では、ダウンタウンの影響がすごく大きいですね。ダウンタウンのコントは、ちょっとシュールなよくわからない面白さというか、芸術やアートに片足を突っ込んだような笑いがあって、そういう笑いからの影響も受けています。ダウンタウンのファミリーのコントを見ていると、あの中に入りたいと思うチーム感があって、部活に入りたい、みたいな感じはすごく影響を受けていると思います。あと、学生時代から漫画が家に千冊くらいあったので、漫画の影響も大きいと思います。小説は逆に純文学ばかりで、村上春樹や夏目漱石ばかり読んでいましたね。

ー今回、監督補を奥様のふくだみゆきさんが務められていますが、本作品にはどれくらいの関わり方でうまく進めていかれたのか、喧嘩にならなかったのか、など教えてください。

 関わり方のレベルは作品によって違いますが、今回は監督補ということで、オーディションでのキャストの選抜からワークショップでシナリオを作っていくときも、撮影の現場にもずっと一緒にいました。がっつり関わっています。喧嘩はほとんどしないですね。出会いが映画祭で、自分の映画製作団体にスタッフとして入ったので、妻であると同時に仕事仲間で、わりと公私混同な感じです。ただ、現場では一歩引いていてくれた感じです。心の支えみたいな。やっぱり監督の妻って、他のスタッフは気を遣うじゃないですか。だから気を遣わせないように一歩下がっていてくれて、助言をしたいときはコソコソっと来て耳打ちしてくれる感じでしたね。

ーカナダの印象を教えてください。

 カナダの印象は…広い、寒い、あと、おしゃれってイメージがあります。広い大地のイメージがありますが…北米にはまだ行ったことがないんです。

ーカナダ在住の読者に向けてメッセージをお願いします。

 いま日本で『スペシャルアクターズ』の公開が始まっていますけど、日本以外の方がこの映画を見てどう感じるかというのはすごく興味があるので、見られる機会があったら見ていただきたいですし、できればそのリアクションを見に行きたいなと思います。

ーぜひカナダでの上映を楽しみにしています。

上田慎一郎監督

 1984年生まれ、滋賀県出身。劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』が2018年に大きな話題となり、第59回日本映画監督協会新人賞を受賞。最新作『スペシャルアクターズ』が2019年10月に公開された。