政治経済から社会まで!私達の生活に関わる2020年注目ニュース|特集 過去から振り返るカナダ2020「予想と展望」
01.スマートシティを巡り賛否両論
本誌でも以前に特集した、トロントのQuayside沿いに建設される予定となっている「スマートシティ」が注目の的となっている。グーグルの持株会社でもある「アルファベット」が所有する「サイドウォーク・ラボ」が手がけるこのスマートシティ。テクノロジーを駆使して渋滞や家賃、通勤・通学、そして天候などトロントが直面してきた様々な問題に立ち向かうプロジェクトとして話題を集めてきた。
しかし、その一方で住民や利用者にまつわるデータを収集し、一人一人が提供するデータの量や「行動」によって報酬を与えるシステムがあることが示唆されていた。これに多くの団体は「プライバシーの侵害だ」と異議を申し立てている。この計画が実行に移されるか否かは3月20日に行われるウォーターフロント・トロントによる投票で決まる。
02.ダグ・フォード・オンタリオ州首相によるコスト削減
ダグ・フォード州首相が発表したコスト削減の案に多くの注目、そして懸念が集まっている。中でも2019年8月に大きく取り上げられたのは、医療費や育児・保育にまつわる資金提供の削減。この計画では2020年1月1日より予算が削減され、今まで州が一部負担していた公的医療機関にかかる費用が市の負担へと移る。具体的には、今まで州が五割負担していたのが三割に削減。この著しい削減は自治体にとって大きな負担となり、反対の声が多く上がっている。一方、育児・保育については自治体が二割負担するということで以前と変更はない。
また、フォード首相の発言に多くの異議が唱えられている理由としてその信頼性の欠如が挙げられる。これらの計画ももちろんのこと、今まで彼が約束してきた計画の多くが破棄・変更されていたことに多くの人が不安を抱えている。
03.上昇し続ける住宅価格
2020年はトロント市内の住宅の金額が大きく上昇することが予想されている。人口の増加に伴い、家賃や住宅の価格は上昇傾向にあるが、2020年もその動きに歯止めがかかることはないだろう。2019年の住宅の平均価格は約88万カナダドル。2020年にはこれが6%ほど上昇し、約93万カナダドルになることが予想されていて、住居購入を考えている人にとっては痛い打撃となる。この価格上昇の理由として挙げられているのは、人口増加のほかに、経済発展や雇用増加。
また、この先住居購入を検討している人の間ではダウンタウンよりは価格が抑えられながら利便性に長けているスカボロ周辺の地域が人気になるのではないか、などといった予想もされている。
04.カナダで初めて!世界循環経済フォーラム2020が開催
2020年、カナダは世界循環経済フォーラム(WCEF)を主催することになった。このフォーラムは、より人・経済・環境に配慮した商売やビジネスのあり方について議論する場であり、環境問題が世界的な課題となっている今、世界からも注目を浴びている経済フォーラムだ。2018年には横浜市で開催。このフォーラムを主催することにより、「循環経済」と名付けられた、より持続性を重視した経済にフィールドにおける先駆者や学者がカナダに多く集結。北米で開催されるのは初めてなのだとか。
今までの商売やビジネスモデルは「使っては捨てる」という持続性に欠けるものが基本となっていたものの、循環経済では素材や原料を持続的に生産・分配・消費することでその価値をより長く保つことを重視。近年は産業を問わず、多くの企業がそういったビジネスモデルに踏み切っていることも事実だ。
05.食卓に痛い打撃。食料品の物価上昇
日々の生活に欠かせない食事・食料品。2020年はこの食費が上昇する、という情報が発表された。調査の結果によると、一般家庭では食費による出費が約487カナダドルも上昇するそうだ。具体的に見ると、野菜や果物、そして肉や魚介類など、幅広く値段が上昇。主に2%から4%の上昇が多いものの、肉に関しては4%から6%とその上昇率は特に高い。
もちろん、この価格上昇はレストランなどで外食する際にも響いてくる。この価格上昇の理由に、使い捨てプラスチックを使用した梱包・包装、米国・中国の輸出規制、そして言うまでもなく気候変動が挙げられるそうだ。対策として勧められているのは、外食を控えること、そして冷凍の野菜や果物などを活用すること。見栄えは劣ることがあるものの、栄養価においては生鮮食品とさほど変わらないので活用して欲しい、と研究に携わった専門家は言う。
06.さらに増える地下鉄の運休
多くの市民の足に影響を及ぼしているのがTTCの臨時運休や終電時間の繰り上げだ。2019年も頻繁に見られたものの、これが2020年になるとさらに多く計画されている。現在計画されている運休を見ると、週末の運休が34件、一日のみの運休が18件、そして平日の終電時間繰り上げが106件など、変わらず多くの市民の足に影響が及ぶことが懸念される。
この運休や終電時間の繰り上げを行う理由として、TTCは「エグリントン・クロスタウン路線」という名の新たな地下鉄の線の計画や、信号の自動化などを挙げている。また、平日よりも週末の方が利用者数が少ないことから、運休の影響を最小化する目的で週末の運休を多く実行している、という説明もあった。シャトルが代理で運行されるものの、多くの市民の足が影響されてしまうことだろう。
07.オンタリオ州の保険OHIPの変更
学生からお年寄りまで、多くの人に影響が及ぶのがオンタリオ州の保険・OHIPへの変更だ。2019年10月1日と2020年1月1日の二度において、OHIPでカバーされる医療費が削減されたことが大きな話題となっている。10月1日よりは妊婦用尿検査の一部やX線検査の一部など、医療的に重要度・緊急度が高くないものが対象より除外。より多くの批判を集めたのは1月1日より施行された「海外旅行中の医療費」の対象除外。
これらの削減はオンタリオ州が抱えている約117億カナダドル(約9700億円)もの不足を補うためだとされた上で、「海外旅行に行く州民の大半は既に保険に入っているため、この変更によりほとんどの人に対して影響がない」と州は説明。ただし、州民として自動的に対象になった保険が変更になったことで、これからどの範囲が対象なのか、より注意を払いたい。
08.トロント市警察署の予算増加
トロントの警察が2020年の予算を前年より大幅に上げたことが注目を浴びている。その予算は実におよそ10億カナダドル。これは2019年より3・9%増加し、金額にしておよそ4000万カナダドル(33億円)だ。この大幅な予算増加は新たな警察官の雇用に充てられるそうだ。トロント市長のジョン・トーリー氏によれば、2020年には341名の警察官が新たに採用され、300名近い警察官が市の道路状況や渋滞、そして交通の安全に取り組むべく業務にあたるそうだ。
ただ、この大幅な予算増加に対して批判的な声も聞かれる。果たしてこの予算の変化、そして警察官の増員がこれから市や街の安全、そして渋滞緩和に繋がるのか、これからも注目していきたい。
09.NAFTAによる影響
12月10日、多くの注目を浴び続けていた米国・カナダ・メキシコの三カ国が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の修正案に合意。前身となった北米自由貿易協定(NAFTA)から「大きく改善・前進した」と米国のナンシー・ペロシ下院議長は強調した。今回の修正合意に含まれるのは環境保全に向けた義務、特にメキシコにおけるより厳しい労働基準の設定、さらには医薬品を開発する際の知的財産を保護する期間の変更など、私たちの生活に直接関わる件が多いのが特徴だ。
これにより、2020年において物価や医薬品の値段などに影響が及ぶのか。また、合意した三カ国の経済的そして政治的関係はこれからどのように変化していくのか、目が離せない。
10.TTCの大胆な五年計画
多くのトロントニアンズの足であるにもかかわらず、いまだに多くの課題が残るTTC。このTTCが2024年までの向こう五年間で大きく拡大・改善する計画が提案された。その内容はなんと約7・7億カナダドル(約630億円)もの大規模プロジェクト。ストリートカーとバスを中心に、サービス拡大を図る大胆な計画だ。ただし、これだけの資金を何処から調達するのかはまだ定かではないのだとか。
具体的には、夜間バスの増便、ストリートカーの新車両導入による増便、そして地下鉄からバスへのアクセス改善などが含まれる。これらは現在トロントが直面している人口増加、渋滞、環境変動などの重要課題に立ち向かうための大規模プロジェクトの一環である、とTTCは説明。五年間と長期間ではあるものの、これほどの資金を調達し、計画を実現することが可能になるのか。計画の一年目となる2020年、多くの注目を集めそうだ。