漫画家・アーティストの近藤聡乃さん
直撃!ニューヨーク在住の輝く日本人!
漫画家・アーティストの近藤聡乃さん
2008年よりNYに在住している現在大注目の近藤聡乃さん。NYでの生活について綴られたエッセイ漫画『ニューヨークで考え中』や話題の最新作『A子さんの恋人』など彼女の作品や創作活動を通してNYの魅力について伺った。
■『ニューヨークで考え中』を読んでいると、近藤さんの日常をのぞいて見ているようでドキドキします…『ニューヨークで考え中』や『A子さんの恋人』は日本とNYの近藤さんの自身の経験がストーリーに色濃く反映されていると思いますが、それ以外にもNYにいることで、大きくインスピレーションを受けたことなどはありますか?
『A子さんの恋人』はNYで3年暮らして帰国した29歳独身女性のその後の話です。私自身と重なる設定もあるため、実話をベースにしていると思われることもありますが、フィクションです。ただ7年も住んでいるので、街並や雰囲気をなるべくリアルに描きたいと思い、NYが出てくる場面では具体的な場所や話題を盛り込むようにしています。
インスピレーションと言うと大袈裟ですが、NYの大雑把でおおらかな雰囲気のおかげで、日本にいた頃より肩の力を抜いて制作できるようになったと思います。
■近藤さんの美しい描き文字は『ニューヨークで考え中』の魅力のうちの一つだと思うのですが、近藤さんが漫画で写植を使わない理由はなんでしょうか?
高校3年生の時にマンガを描き始め、コピーして友達に回したりしていました。プロのマンガ家さんは文字の部分は鉛筆で書いておくらしいという知識はあったのですが、鉛筆書きだとコピーした際に薄くて読みにくくなってしまいます。そんな訳で、友達にコピーで回す便宜上、文字もペンで書いていました。友達から文字をほめてもらうことも多く、手書きの文字はそれだけで感情が伝えられたり、作品全体の雰囲気が作れることもあるので、マンガが本に載るようになってからもそのまま手書き文字にしました。
■また、『A子さんの恋人』はぐっと身近な作品になっていると思うのですが、テーマもさることながら写植も使われていますよね、理由などはありますか?
先に述べた通り、手書きの文字はそれだけで感情が伝えられたり、作品全体の雰囲気を作ったりもします。狙いであれば良いのですが、それが邪魔になることもあると感じていました。
少し長い話になりますが、私がマンガ家としてデビューしたのは『アックス』(青林工藝舎)という『ガロ』(青林堂)の編集部の方が『ガロ』の精神を受け継いで創刊した雑誌でした。『ガロ』といっても最近ではわからない方が多いかもしれません。私が『ガロ』を初めて読んだのは高校生の時でしたが、「こういうマンガもあるのか」と驚き、それがマンガを描くきっかけにもなりました。大ヒットして大量に売れるマンガとはまた違う魅力のあるマンガが載っている雑誌、それが『ガロ』と『アックス』でした。私もそういうマンガを描いて、『アックス』に載せてみたいと思ったのです(ちょうどその頃『ガロ』は廃刊してしまいました)。青林工藝舎さんから発売された『はこにわ虫』と『いつものはなし』に収録されたマンガや、『ニューヨークで考え中』は手書き文字が似合っていると思います。ただ、『A子さんの恋人』を描くにあたって、なるべく間口の広い、誰でも気軽に読めるようなマンガを描いてみたいという思いがありました。そこで、「特殊なマンガ」の雰囲気を作ってしまう手書き文字をやめて、写植にすることにしました。どちらの方が良いという訳ではないので、これからも作品に合わせて写植と手書き文字とを使い分けていこうと思います。
■日本に興味があるトロント在住の友人に『ニューヨークで考え中』をプレゼントしたところ大変喜ばれ、近藤さんが感じたギャップにギャップを感じ楽しんでいるようでした。近藤さんが『ニューヨークで考え中』を描かれているとき、意識する読者の層や像などはありますか?日本国外にいる読者を意識することはありますか?
具体的に読者を意識することはありません。ただ、日本人の私がNYで驚いたことや新鮮だったことは、きっと日本にいる日本人にとっても興味深いはず、と思って描いています。またNY以外でも外国に住んでいる日本人ならきっと共感してくれる点があるはず、とも思っています。外国人の方がこのマンガを読んでギャップにギャップを感じて楽しむ、というのは初耳で、とても嬉しいです。
■イラストレーター、アニメーション作家、漫画家など多岐に渡る分野で活躍なさっていますが、それぞれの制作に関連性はありますか?
私にとってはどれも絵や物語で表現するものでそれぞれの分野に大きな違いはありませんが、それぞれ表現しやすいものが違うので、アニメーションで動かしてみたり、マンガにしてみたり、その時々で表現方法を選んでいます。長い時間をかけてアニメーションを作っていると、「これが完成したら次はマンガを描きたい」と思ったり、さらに「こういうマンガが描いてみたい」とイメージがふくらむこともあります。関連性というと少し違うかもしれませんが、分野を巡回するように制作し続けると、それぞれに良い影響があると感じています。今はマンガを中心に制作しているので、そろそろアニメーションが作りたくなってきました。
■生活者の視点から NYの魅力や好きなところ、嫌いなところなど 教えてください。
NYの大雑把さが、好きなところでもあり嫌いなところでもあります。たまに日本に帰国すると、いろいろな制度やサービスが整っていて、その親切さと便利さに驚きます。それに比べると、NYではもどかしい思いをすることが多く、雑に感じられます。反対にその大雑把さが楽に感じられる時もあります。このくらい大雑把でも生活は回っていくのだな、このくらいで大丈夫なのだ、となんだか気持ちが軽くなります。
■NYに7年滞在されて、「○○なしでは耐えられなくなってしまった」といった慣習や文化はありますか?
暮らし方や習慣は日本にいた頃とそんなに変わっていない気がします。割といい大人になってから(28歳で)の渡米だったからかもしれません。あえていうのなら、NYで初めて一人暮らしをして、それが一番の変化でした。でもあまりNYとは関係ないですね…。
■NYでおすすめのお店があれば、ぜひ教えてください!
アストリアにあるピザ屋さんmilkflowerがお薦めです!特に芽キャベツのピザ、「van dammer」がおいしいです。Milkflower 34-12 31st Ave., Astoria, NY 11106 / www.milkflowernyc.com
■弊誌の読者は主にトロント在住の日本人です。NYは近く、よく遊びに行ったり仕事で行ったりする人が多いのですが、メッセージをお願いします。
きっとマンハッタンだけで時間を使いきってしまうと思いますが、気が向いたらアストリアにもお越し下さい。NYで特に何もしない、というも楽しいですよ(ちなみに私はトロントにも二度行ったことがあります。のんびりした良いところで、住んでみたくなりました)。
■NYのみならず、海外で仕事や生活、または夢を追う人やアーティストとして独り立ちをしたい若者(留学生やワーキングホリデー)の方にメッセージをお願いします。
私は短所を補うように制作してきたところがあるのですが、最近では長所を伸ばすように制作した方が良いのかもしれないと感じています。また、後ろ向きに聞こえるかもしれませんが、諦めたり、方向転換するのも大切だとも思っています(諦めたり、方向転換した別の分野に何か長所を生かせることがあるかもしれないので)。
近藤聡乃(こんどう あきの)
1980年千葉県生まれ。漫画家、アーティスト。2000年にマンガ家デビュー。アニメーション、ドローイング、エッセイなど多岐に渡る作品を国内外で発表している。2010年、アニメーション「てんとう虫のおとむらい」ダイジェスト版が「YouTube Play. A Biennial of Creative Video」(グッゲンハイムミュージアム、ニューヨーク)においてTop25に選出。2011年、個展「KiyaKiya」(ミヅマアートギャラリー、東京)において、アニメーション「KiyaKiya」を発表。コミックスに『はこにわ虫』『いつものはなし』(ともに青林工藝舎)『うさぎのヨシオ』『A子さんの恋人 1』(ともにエンターブレイン)、『ニューヨークで考え中』(亜紀書房)、作品集『近藤聡乃作品集』(ナナロク社)、エッセイ集『不思議というには地味な話』(ナナロク社)などがある。『ニューヨークで考え中』は亜紀書房のウェブマガジン「あき地」にて隔週連載中。2008年よりニューヨーク在住。公式HP akinokondoh.com