カナダと映画|特集「ハリウッド・ノース-カナダと映画」
アメリカに次ぐ大きな映画の製作拠点として「ハリウッド・ノース」(北のハリウッド)のニックネームでも知られるカナダ。ハリウッドのように映画業界が盛んなカナダの各都市。今回はそんなカナダの各都市で普段から開催されている映画祭などの紹介とともに、最近ニュースになっている映画業界の話題もいくつかピックアップ。
その1
-TORONTO-
トロント
「ハリウッド・ノース」として最初に思い浮かぶのはやはりトロントだろう。カナダにおける映画・テレビの製作拠点として最大規模を誇るトロント。かつては『グッド・ウィル・ハンティング』(1997)や『インクレディブル・ハルク』(2008)、さらには大人気テレビドラマとして知られる『SUITS』が撮影された場所としても知られている。
撮影拠点の他にも、トロントといえば映画祭なのではないか。日系文化会館が主催するトロント日本映画祭は今や北米最大規模に成長し、毎年日本から多くの監督や俳優がトロントで舞台挨拶を行っている。
また、世界的にも注目されるトロント国際映画祭(TIFF)の開催都市として知られるトロント。今年のトロント国際映画祭は新型コロナの感染拡大を受け、規模を縮小し、リアルとバーチャルを両立した新たな形で開催される予定だそうだ。もちろん、そのように開催されるのはトロント国際映画祭の40年以上の歴史において初めての試み。公開される作品数も今年は大幅に減少。2019年には300本以上の映画が上映されたのに対し、今年上映される長編映画の数はおよそ50本だ。
今年は物理的距離(フィジカル・ディスタンス)を保つための取り組みとして、今年は様々な「ドライブイン・シネマ」を設ける予定。オンタリオ・プレイス近くのスカイライン・ドライブインや、レイクサイド・ドライブインでも映画を上映し、映画祭を盛り上げる予定だそうだ。
さらに、今年の映画再開催に伴い、TIFF専用のアプリも開発。このアプリを通して上映される映画を鑑賞することが可能になるという。なお、このアプリを利用できるのはカナダ国内限定だそうだ(詳しくは14ページを参照)。
その2
-Vancouver-
バンクーバー
「ハリウッド・ノース」といえばトロント、という人が多いかもしれないが、実はバンクーバーをはじめとするブリティッシュ・コロンビア州はカナダにおける映画やテレビ製作の最大拠点。なんと、カナダにおける映像製作の40%がブリティッシュ・コロンビア州(オンタリオ州:32%、ケベック:20%)で行われているのだとか。
中でもバンクーバーで盛んな分野が、アクション映画やファンタジー映画には欠かせない「特殊効果」の分野だ。2018年に公開されるや否や話題作となり、さらにはアカデミー賞の長編アニメ映画賞を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』。この作品において特殊効果を担当したソニー・イメージワークスのチームは、なんとバンクーバーを拠点に活動しているのだとか。日本のアニメの欠片も所々に見える『スパイダーマン:スパイダーバース』。同作品でシニア・アニメーターを務めたニック・コンドウは、CBCのインタビューに対し「手書きの印象を残すために(アニメや漫画の技術を)用いた」と答えている。また、このチームの他にも、大人気のテレビアニメ『リック・アンド・モーティ』も、バンクーバーに拠点を置くバーデル・エンターテインメントがアニメーションを手がける。このように、バンクーバーは映画やドラマの裏方に関わっていることがよくわかる。
その3
-Montreal-
モントリオール(およびケベック州)
トロント同様、多くの話題作が今まで撮影されてきたモントリオール。そんな中、モントリオールは映画業界に携わる人の中でも、特に黒人をはじめとしたマイノリティのへの支援を積極的に行っていることで知られている。その例として知られているのが「Being Black in Canada」という名のプロジェクトだ。これは、映画業界における黒人の監督やクリエイターの活躍をさらに推進すべく発足したプログラム。今年さらにパワーアップしたこのプログラムにはネットフリックスやナショナル・バンク・オブ・カナダなど、多数の業界にわたり複数の企業が協力している。このプロジェクトの皮切りとして、モントリオール、トロント、そしてハリファクスでプロジェクトが発足。これからさらに多くのカナダの都市が参加する予定だ。
そして、このプロジェクトに参加している若き監督らの作品は、モントリオールで毎年開催されていて、黒人の映画監督の作品を中心に上映する「モントリオール・インターナショナル・ブラック・フィルム・フェスティバル」(MIBFF)という映画祭にて公開されたという。この映画祭をはじめ、モントリオールをはじめとするケベック州では、なかなか他では見られない映画祭が多数開催されている。その代表格として知られるのが「ファンタジア・フィルム・フェスティバル」。この映画祭では、「ジャンル映画」と呼ばれる世界各国の話題作が多く上映され、「ジャンル映画」の映画祭としても代表的な存在。2009年に開催された際には、クエンティン・タランティーノが監督を務めた『イングロリアス・バスターズ』(2009)が映画祭の大トリとして上映された。また、過去にはギレルモ・デル・トロ、日本の三池崇史、さらには『アベンジャーズ』シリーズの製作総指揮者としても知られるジェームズ・ガンをはじめとする数多くの有名な映画製作者が招かれたこともある。
13年の製作期間を経てついに公開に至った話題作
さらに今年、ケベック州の映画界において話題となっている作品が『Target Number One』だ。この作品が話題になっている理由は、その製作期間にある。なんと、13年にも及ぶ製作期間を経て、ようやく今年映画が公開されるのだ。実話に基づき製作されたこの作品。監督のを務めたダニエル・ロビィ氏がこの作品を製作すべく自らリサーチを開始したのは2007年のこと。その間、ストーリーを作る上で要となった裁判を3ヶ月にも及んで傍聴したという。
この作品の他にも、今年は新型コロナの感染拡大を受け、アメリカよりもカナダで先に公開される話題作が多数あるという。各地で徐々に「日常」が取り戻されつつある今、最新の映画をチェックするのもおすすめしたい。
その4
-Calgary-
カルガリー
トロントやバンクーバーほど盛んではないものの、アルバータ州のカルガリーは知る人ぞ知る映画製作の拠点。前述の都市同様、カルガリーでは独自の映画祭も開催されている。中でも、「カルガリー・アンダーグラウンド・フィルム・フェスティバル」(CUFF)では「常識を覆す」というテーマをもとに、様々なジャンルの映画が公開される。中でも、配給会社を介さずにクリエイターが独自に公開する「インディーズ」の作品が中心となっている。作品はカナダ国内外から集められるそうだ。
そんなカルガリーで製作されている話題作の一つに、『Above the Law』(法律の上に)という作品がある。アメリカのミネソタ州で殺害されたジョージ・フロイドさんの死をきっかけに世界各地で広がっている、警察の暴力に対する運動。『Above the Law』はこうした警察による暴力をを題材にしたドキュメンタリーだ。しかし、製作者によると、この作品は警察に対する運動が広がる以前から製作が行われていたという。カルガリーを舞台に、現地の警察の正当性を問うこの作品。カルガリーで起きた三つの事件を中心に、警察による暴力が描写されているという。この作品を通して、「警察による暴力はアメリカだけの問題ではない」ということを提示したい、と語った監督。「残念なことに、アメリカとカナダには多くの共通点がある」とインタビューで述べていた。