【第11回】ハーグ条約を知ろう 3 国際結婚は不公平?|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方
カナダで子育てをしている日本生まれの女性が国際離婚に瀕するとき、
離婚=子どもを連れて実家に帰る
という、彼女らの意識に刷り込まれたシナリオが崩れ去ることがあります。
国際結婚した女性たちの間でハーグ条約について語られ始めてから長い年月が過ぎた今も、父親の許可なく子どもと実家に帰れないことは、多くの女性にとって想定外であるようです。
そこで今回は、国際離婚に瀕する母親たちの疑問をエキスパート弁護士にぶつけてみました。
カナダの法律はカナダ人に有利?
答: ハーグ条約は、子どものHabitual Residence(常居所)を「子が両親と一緒に住んでいた所」と定義しています。そして親権は、常居所の法律に従って決められます。
つまり、両親のどちらかが(またはどちらもが)カナダ人でない場合でも、子どもがカナダで両親と共に暮らしていたなら、カナダの法律が適用されるというわけです。一方、カナダ人が子どもと一緒に日本に住んでいた場合は、日本の法律に従うことになります。
住んでいる国の法律に従うことは、冒頭のような論争を解決するためのJurisdiction(司法権)に関するルールなのです。
法律とは、争いを解決するために作られたルールであり、ルールはその社会の規範に基づいて作られます。ですから、日本人がカナダの法律を「不公平だ」と感じることはあるでしょう。同じように、日本に住むカナダ人は日本の法律で親権を決めることは自分に不利だと嘆くかもしれませんね。
カナダ人の父親の権利は理不尽?
答: 子どもを連れて国境を越える場合にもう一方の親の許可が必要であるのは、双方同じです。カナダ人の父親が子どもと海外旅行をする場合には母親の許可が必要です。
父親の家族が国境を越えなくても会える場所に住んでいて、母親の許可なく行き来できることと、日本の母親の家族に会うために国境を越える時、父親の許可が必要であることを混同することには、少々無理があります。
父親から日本への渡航許可が得られない場合は、法的措置が必要になるということは、10月号の「トラベルコンセント」で紹介しましたね。 離婚後の日本への渡航については、セパレーション・アグリーメントできちんと取り決めておかなければ、子どもとの日本行きを計画するたびに一悶着、というしんどい状況が続く可能性があります。
国際結婚した相手の国で暮らすということは、そもそもかなり不公平なことです。
外国語で不慣れな生活を送るばかりか、その社会で常に外国人として扱われるようになるのです。そんな社会で相手の家族や友人とうまく付き合い、仕事を見つけることは、大きなチャレンジでしょう。
さらに、カナダで子どもを育てるということは、我が子と一緒に日本に行くことを自分の意志のみでは決められない、ということでもあるのです。
カナダで国際結婚するなら、そんな現実についての理解と覚悟を深めてほしいものです。なぜなら、国際離婚に瀕した時に「不公平だ」と訴えても、できることはわずかなのです。
【ハーグ条約や渡航同意書に関する過去のTORJA記事】
ハーグ条約と夏休み:https://torja.ca/choosing-lawyer-1904/
ハーグ条約のおさらい:https://torja.ca/marry-abroad-17/
ハーグ条約 トラベルコンセント(渡航同意書):https://torja.ca/choosing-lawyer-1911/
ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)
日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。
野口洋美: B.A. M.A.
ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。